【医療法人専門税理士解説】医療法人の株価対策(株価を下げる方法)
この記事の監修者
中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!
遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!
茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。
毎期、税理士から医療法人の株価について教えてもらっていますでしょうか?
医療法人は株式会社と異なり配当ができないことから株価が高くなる傾向にあり、親族内承継も視野に入れている場合には株価が高くなるメリットはほぼありませんので、できる限り株価対策(株価を下げる方法)を行いたい方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、医療法人における株価対策について解説していきます。
この記事は次の方にオススメです。
・持分あり医療法人を親族に承継することを決めた方
・持分あり医療法人を親族に承継することも視野にいれている方
大前提として理解すべきこと
持ち分なし医療法人は株価の計算が不要
医療法人には金銭やその他の資産の「出資・拠出」により設立される「社団医療法人」と金銭やその他の資産の「寄付」により設立される「財団医療法人」に2種類があります。
このうち社団医療法人については持ち分のあり・なしによって経過措置型医療法人、拠出型医療法人、基金拠出型医療法人に分かれます。
経過措置型医療法人は持ち分あり医療法人ともいわれ、医療法人の解散時や社員退社時に出資持分の払戻しを行わなければならないことから財産性があるとされ、その出資持分が相続税の課税対象です。
拠出型医療法人は持ち分なし医療法人ともいわれ、医療法人の解散時に医療法人に残っている財産は全て国等に引き渡さなければならないことから財産性はなく、相続税は非課税です。
基金拠出型医療法人は拠出型医療法人と同様に持ち分なし医療法人といわれますが、拠出型医療法人とは異なり医療法人の解散時に当初基金拠出(寄付)した金額分ついては返還を受けることができることから財産性が一部あり、拠出(寄付)額のみ相続税の課税対象です。
医療法人社団と財団の違いについては詳細を別記事にしておりますので、ご興味のある方はご確認ください。
相続税・贈与税の株価とM&A時の株価は異なる
相続税・贈与税の株価を計算する場合には財産評価基本通達に則った計算方法により計算しますが、その計算方法では医療法人の過去の利益や剰余金、医療法人がどういった資産を持っているのかという点に重きが置かれており、医療法人の信用力・ブランドイメージ、医療法人が将来の収益獲得能力などの無形資産(営業権、のれん)を加味することはありません。
一方で、M&Aで出資持分を譲渡する場合の株価を計算する場合には、必ず無形資産を加味して計算することになります。
そのため、相続税・贈与税の株価よりもM&A時の株価のほうが数倍高くなることが一般的です。
また、M&A時に買い手が複数いる場合には競争原理が働くことから、さらに株価が上がることも多いです。
出資(株式)が1口50円であると仮定して計算した口数(株数)を用いる
医療法人の出資持分には口数(株数)というものがなく、出資金額しかありません。
よって、出資持分の評価にあたって、定款に口数の定めがなければ、出資口数は1口あたり50円であると仮定してをして、総口数を計算(貸借対照表の出資金額÷50円)します。
配当や不動産投資ができないことから純資産が増えやすく株価が高くなりやすい
医療法人の株価の計算イメージについては後述しますが、純資産が増えれば増えるほど株価が高くなります。
一般企業であれば株主還元のために配当を行ったり、不動産投資を行うことで純資産を圧縮することが可能ですが、医療法人は医療法によって規制されていることから配当や不動産投資などを行うことができません。
そのため、医療法人の株価は一般企業と比較してどうしても高くなりやすいです。
医療法人の株価計算について
医療法人の2つの評価方式
非上場の株式会社や医療法人は上場会社とは異なり明確な株価というものがないことから、何らかの方法で法人の価値を評価して株価を決めなければなりません。
その評価方式として医療法人は「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2つを用います。
会社種類や会社区分(会社規模)により類似業種比準方式もしくは純資産価額方式のいずれかを採用する、または類似業種比準方式と純資産価額方式の両方を併用する評価方法とがあります。
一般的に、純資産価額方式よりも類似業種比準方式のほうが株価が低くなりやすいことから、類似業種比準方式の割合を大きくすることが好ましいです。
そして、会社規模が大きくなるにつれて上場会社の規模に段々と近くなっていくことから、類似業種比準方式の割合が大きくなっていきます。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは対象となる医療法人と事業内容が類似している上場会社の2つを比較し、それらをもとに医療法人の評価額を算定する方法をいいます。
事業内容が類似している上場会社と比較する際に使用する要素は以下の2つあり、それらを比準要素といいます。
- 1口あたり利益金額
- 1口あたり純資産価額
比準要素を用いた類似業種比準方式の実際の計算式は以下のとおりです。
純資産価額方式
純資産価額方式とは対象となる医療法人が保有している資産から負債を引いた純資産をもとに医療法人の評価額を算定する方法をいいます。
純資産価額方式の実際の計算式は以下のとおりです。
評価区分の決定(特定の評価会社か一般の評価会社か)
医療法人の株価を算定する前に、その医療法人が「特定の評価会社」かそれ以外の「一般の評価会社」のどちらに該当するかを判定します。
特定の評価会社とは、比準要素数が1の会社・比準要素数が0の会社・開業後3年未満の会社などの特殊な状況にある会社のことです。
特定の評価会社に該当すると株価を算定する場合に、それぞれの状況に適した評価方式を用いる必要があります。
比準要素数が1の医療法人
比準要素とは「類似業種比準方式」の計算過程において出てくる用語であり、医療法人の場合以下の2つがあげられます。
- 1口あたり利益金額
- 1口あたり純資産価額
つまり、比準要素数が1の医療法人とは①1口あたり利益金額②1口当たり純資産価額のどちらかがマイナスになっている医療法人のことです。
比準要素数が1の医療法人に該当してしまうと原則、純資産価額方式により評価しなければなりませんが、例外として純資産価額方式を75%、類似業種比準方式を25%を折衷する方法により評価することもできます。
繰り返しになりますが、一般的に、純資産価額方式よりも類似業種比準方式のほうが株価が低くなりやすい(純資産価額方式のほうが株価が高くなりやすい)ことから、比準要素数が1の医療法人になってしまうと株価が上昇してしまうといったデメリットがあります。
比準要素数が0の医療法人または開業後3年未満の医療法人
比準要素が0の医療法人または開業後3年未満の医療法人に該当してしまうと、純資産価額方式により評価しなければなりません。
比準要素数が0の医療法人や開業後3年未満の医療法人の類似業種比準方式による株価は著しく低くなるため、類似業種比準方式を折衷するという方法は取ることができず、全額純資産価額方式によることになります。
医療法人の会社区分(会社規模)の決定
会社規模が大きくなれば大きくなるほど、上場会社の規模に近づいていくことから類似業種比準方式による株価の割合が増えていきますので、一般的に株価は下がっていきます。
会社規模は大会社・中会社・小会社、そして中会社は中会社の大・中・小と分かれていますので、全部で5区分になっています。
では、その会社規模はどのように決定されるのかを見ていきましょう。
ステップ1:直前期末以前1年間の従業員数が70人以上の場合には大会社
会社区分の決定の際にはまず直前の期末以前1年間の従業員数を計算します。
計算式は以下のとおりです。
なお、従業員には理事長・理事・監事などの役員は含まれません。
従業員数が70人以上の場合には会社区分が大会社、70人未満の場合にはステップ2に進みます。
ステップ2:直前期末の総資産価額、直前期末以前1年間の従業員数、直前期末以前1年間の取引金額を加味して決定
直前期末以前1年間の従業員数が70人未満の場合には次の3つの数値により会社規模を判定します。
- 直前期末の総資産価額
- 直前期末以前1年間の従業員数
- 直前期末以前1年間の取引金額
直前期末以前1年間の取引金額とは医療法人でいう医業収入です。
会社規模の具体的な判定方法は以下の表のとおりです。
会社規模決定後の株価計算方法
会社規模が決定すれば後は会社規模毎の計算式に当てはめるだけです。
具体的な株価計算方法は以下の表のとおりです。
医療法人の株価を下げる(上がりづらくする)方法
医療法人の株価を下げる(上がりづらくする)方法は「会社規模を大きくする」と「利益(剰余金)を出しすぎない」と「比準要素が0または1の会社に該当しないようにする」方法の3種類があります。
会社規模を大きくする
一般的に純資産価額方式よりも類似業種比準方式のほうが株価が低くなり、会社規模が大きくなればなるほど類似業種比準方式による株価を採用できる割合が高まることから、会社規模を大きくすることで株価を下げることが可能になります。
「ステップ1:直前期末以前1年間の従業員数が70人以上の場合には大会社」や「ステップ2:直前期末の総資産価額、直前期末以前1年間の従業員数、直前期末以前1年間の取引金額を加味して決定」でも説明したように、従業員数・総資産価額・取引金額が増えれば会社規模が大きくなりますので、それら3つを増やすことを検討する必要があります。
従業員数を増やす
株価を下げたい場合に従業員数を増やすということを真っ先に検討しましょう。
たとえば、MS法人を設立している場合でMS法人に医療事務や経理・総務の人員が在籍しているような場合、医療法人に転籍させることで医療法人の従業員数を増やすことができ、結果として会社規模を大きくすることが可能です。
総資産を増やす
会社規模の判定上、総資産価額と従業員数のいずれか”下位”の区分を採用するため、総資産価額が低いことを理由に会社規模が小さくなっているのであれば総資産を増やすということを検討しましょう。
たとえば、金融機関から借入を行うことで総資産が増やすことが可能です。
取引金額(医業収入)を増やす
取引金額(医業収入)を増やすことでも会社規模を大きくすることは可能です。
ただし、取引金額による会社規模の判定は以下のようになっており、範囲が広いことから取引金額によって会社規模を大きくするのは大変です。
たとえば、現在1億円の医業収入がある医療法人を「取引金額」によって会社規模を大きくしたい場合には、医業収入を2.5億円以上にしなければなりませんので難易度は高いでしょう。
利益(剰余金)を出しすぎない
類似業種比準方式の計算式は以下のとおりであり、1株あたり利益金額と1株あたり純資産価額が大きくなればなるほど、類似業種比準方式による株価は高くなってしまいます。
純資産価額は過去の利益の積み上げですので、利益(剰余金)を出しすぎないようにすれば株価も下げることが可能になります。
そこで医療法人で使える利益(剰余金)を出しすぎないようにする方法を3つご紹介します。
役員報酬を増額する
利益(剰余金)を出しすぎないようにする場合には、真っ先に役員報酬を増額することを検討しましょう。
ただし、理事長や配偶者の役員報酬を増額したことで理事長や配偶者の持っている医療法人の株価は下がったとしても、支給された現預金により結果として理事長や配偶者の相続財産が増えていることもありますので注意が必要です。
役員報酬を増額するのであれば出資持分を持っていない役員の役員報酬を増額することをオススメします。
役員退職金を支給する
ご存知の方も多いと思いますが、役員退職金を支給することでも利益(剰余金)を出しすぎないようにすることが可能です。
ただし、「役員報酬を増額する」でも記載したように、役員退職金を支給したことで株価は下がったとしても、支給された現預金により結果として相続財産が増えていることもあります。
筆者の所見ですが、役員退職金を支給する前に必ず相続税シミュレーションを行ったほうが良いでしょう。
お子様が設立したMS法人に利益を移動させる
お子様が設立したMS法人に利益を移動させることで利益(剰余金)を出しすぎないようにすることが可能です。
「医療法人の理事長または配偶者の方が設立したMS法人」に利益を移動させることをしている方が多いと思いますが、それでは”理事長や配偶者”が持っている医療法人の株価が下がった分、”理事長や配偶者”が持っているMS法人の株価が上がっているので、大きな節税効果はありません。
「お子様が設立したMS法人」に利益を移動させるのであれば、”理事長や配偶者”が持っている医療法人の株価が下がった分、”お子様”が持っているMS法人の株価が上がっているので節税効果があります。
比準要素数が0または1の会社に該当しないようにする
「評価区分の決定(特定の評価会社か一般の評価会社か)」でも記載したように、比準要素数が0または1の会社は純資産価額方式の割合が高まってしまうことから株価が上がってしまいます。
そこで、比準要素数が0または1の会社に該当しないようにする方法を2つご紹介します。
少しでも良いから利益を出す
赤字にすれば絶対に株価が下がると勘違いしている方も多いのですが、赤字になった年の「1株あたり利益金額」がゼロになるので、比準要素数が0または1になり株価が高くなることがあります。
直近2年平均で赤字にしない
比準要素の「1株あたり利益金額」は、”直近1年”の1株あたり利益金額または”直近2年平均”の1株あたり利益金額のどちらかを使用することができます。
つまり、たまたま”直近1年”が赤字で、かつ、”直近2年平均”で赤字の場合に「1株あたり利益金額」がゼロになるので、比準要素数が0また1になり株価が高くなることがあります。
まとめ
医療法人の株価対策(株価を下げる方法)について検討する場合には、注意しなければならないポイントがたくさんあることがわかりましたでしょうか。
私たち税理士法人シーガルは開業医・医療法人専門の税理士法人ですので税務顧問業務のほか、医療法人設立、一般社団法人による診療所開設、医院経営に関するご相談なども対応可能です。
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