【医療専門税理士解説】医療法人が不動産売却時に許可は必要?
この記事の監修者
中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!
遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!
茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。
医療法人においては医療法人の運営上必要な不動産しか購入することはできませんが、その不動産を売却する際に様々な許可は必要なのでしょうか?
この記事では、医療法人が不動産を売却するときに許可が必要であるかどうかについて解説していきます。
この記事は次の方にオススメです。
・不動産を売却するときに許可が必要かどうか知りたい方
医療法人が不動産を売却するときに許可が必要か
都道府県知事の許可が必要か
医療法人が不動産を売却するときに都道府県知事の許可は必要ありません。
「医療法人 不動産 売却 許可」とネット検索すると、「医療法人が不動産を売却する際には、原則として都道府県知事の許可が必要です。」と記載されている記事が一番上に表示されますが、それは誤りです。
記事執筆時点においてそのような許可は求められておりませんのでご安心ください。
社員総会や理事会の決議が必要か
医療法人が不動産を売却するときに社員総会及び理事会の決議が必要になることがあります。(定款の記載により異なる)
厚生労働省が公表している社団医療法人の定款例の第7条を確認してみましょう。
第7条
厚生労働省 社団医療法人定款例
本社団の資産のうち、次に掲げる財産を基本財産とする。
(1) ・・・
(2) ・・・
(3) ・・・
2 基本財産は処分し、又は担保に供してはならない。
ただし、特別の理由のある場合には、理事会及び社員総会の議決を経て、処分し、又は担保に供することができる。
備考 不動産、運営基金等重要な資産は、基本財産とすることが望ましい。
このように第7条において不動産を基本財産としている場合には、原則処分してはいけないが、特別の理由のある場合に限り例外的に理事会および社員総会の決議があれば処分して良いということになります。
そのため、不動産を売却する際に社員総会や理事会の決議が必要かどうかは各医療法人の定款の記載内容で異なりますので、確認してみてください。
これは筆者の所見ですが、医療法人で所有している不動産は医療法人に必要である(医療行為に必要、附帯業務に必要、福利厚生に必要)から所有していたという建付けであると思いますので、売却するにあたり何かしらの不都合(医療行為ができない、付帯業務ができない、福利厚生ができない)が生じるはずです。
なので、医療法人の定款の記載に限らず、不動産を売却する際には社員総会および理事会の決議をすることをオススメします。
利益相反に該当すると理事会の事前承認と事後報告が必要か
利益相反に該当するときには重要な事実を開示し理事会の事前承認と事後報告が必要です。
利益相反取引とは
医療法人における利益相反取引とは医療法と一般社団法人及び一般財団法人に関する法律において以下のように定められています。
医療法
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第46条の6の4
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第七十八条、第八十条、第八十二条から第八十四条まで、第八十八条(第二項を除く。)及び第八十九条の規定は、社団たる医療法人及び財団たる医療法人の理事について準用する。この場合において、当該理事について準用する同法第八十四条第一項中「社員総会」とあるのは「理事会」と、同法第八十八条第一項中「著しい」とあるのは「回復することができない」と読み替えるものとし、財団たる医療法人の理事について準用する同法第八十三条中「定款」とあるのは「寄附行為」と、「社員総会」とあるのは「評議員会」と、同法第八十八条の見出し及び同条第一項中「社員」とあるのは「評議員」と、同項及び同法第八十九条中「定款」とあるのは「寄附行為」と、同条中「社員総会」とあるのは「評議員会」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
第84条(競業及び利益相反取引の制限)
理事は、次に掲げる場合には、社員総会(医療法人は理事会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 理事が自己又は第三者のために一般社団法人(医療法人)の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 理事が自己又は第三者のために一般社団法人(医療法人)と取引をしようとするとき。
三 一般社団法人(医療法人)が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において一般社団法人(医療法人)と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき。
医療法において一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を参照していることから一部読み替えがありますが、以下の3つの取引が利益相反取引とされ、理事会における事前承認を受ける必要があります。
- 理事が自己又は第三者のために医療法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき
- 理事が自己又は第三者のために医療法人と取引をしようとするとき
- 医療法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において医療法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき
利益相反取引に該当する場合に事前承認が必要とされている趣旨は、医療法人の利益を犠牲にして理事個人の利益を図ることを防ぐためです。
理事会における事前承認を受けずに行われた場合の効力
理事が医療法人の理事会の事前承認を受けずに行われた利益相反取引は原則、無効です。
そのため、医療法人は理事に対して承認していないのだから取引は無効であると主張できます。
しかし、医療法人と理事以外の第三者に利害が発生している場合には例外的な取扱いがあります。
具体的には、この第三者が医療法人の事前承認を受けていないことを知らなかった場合に限り、医療法人は無効であると主張できません。
利益相反取引による理事の損害賠償責任
利益相反取引によって医療法人に損害が生じてしまった場合には、理事は医療法人に対して損害賠償責任を負います。
この損害賠償責任は医療法人の承認の有無とは無関係です。
つまり、医療法人が承認した場合であっても、利益相反取引によって医療法人に損害が生じてしまった場合には、理事は医療法人に対して損害賠償責任を負うということです。
そして、その損害賠償責任は利益相反取引を行った理事だけに限られず、理事会において利益相反取引の承認決議に賛成した理事についても、理事としての職務を適切に果たしたと証明できない限り、共に損害賠償責任を負うことになります。
特別代理人というものは廃止されている
従前は特別代理人という制度がありましたが平成28年9月に施行された医療法の改正によって廃止されています。
利益相反取引を行う場合、従前は特別代理人というものを立てなければならないことから極めて煩雑でしたが、医療法の改正によって特別代理人制度が廃止され、現在のような制度に変更されています。
都道府県の医療課の担当者は知っていると思いますが、法務局の担当者はまだまだ知らない方も多いようなので、「特別代理人を立ててください。」と指摘が入ることもあるようです。
そのように指摘を受けた際には、「すでに医療法は改正されています。」とお伝えすれば問題ございませんので、ご安心ください。
まとめ
医療法人が不動産を売却する際には注意すべきポイントがたくさんあります。
また、他の取引とは異なり、利益相反取引は医療法人に損害を与える可能性が高いことから、医療法人に損害を与えた場合の理事の責任はとても重くなっています。そのため、利益相反取引は極力行わないようにしていただいたほうが良いでしょう。
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