医療法人の理事に学生が就任し役員報酬を支払えるか?金額上限は?

この記事の監修者

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!

茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。

医療法人の先生からよくいただく質問として「子供が医学部(歯学部)に合格したが理事に就任させてもよいか?また役員報酬額はいくらまでなら問題ないか?」があります。

私立大学の医学部や歯学部の学費、家賃や生活費も考えると6年間で数千万円が必要になることから、医療法人をうまく活用して教育費を捻出できれば理想です。

そこで今回は医療法人の理事に学生が就任できるか、役員報酬を支払うことができるか、金額上限についてそれぞれ解説いたします。

この記事は次の方にオススメです。

・ご家族が学生(医学生・歯学生など)で教育費に悩んでいる先生

もくじ

医療法人の理事に学生が就任できるか?

学生だとしても医療法人の理事に就任することができます。
法律上、就任できる者の年齢下限はありませんが、18歳以上(成人)が好ましいでしょう。

医療法人の理事は執行機関ともいわれ、理事は株式会社における取締役と同じようなものです。
理事に就任した者は理事会に出席して医療法人の経営に必要な判断を行いますが、学生であったとしても医療法人の経営に必要な判断ができるのであれば理事に就任することは十分可能です。

ただし、民法第5条に以下の記載があることから18歳以上(成人)であることが好ましいでしょう。

【民法第5条】(未成年者の法律行為)
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。
ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

民法

理事は医療法人と委任契約を締結しています。
委任契約とは民法第643条の「法律行為を相手方に委託し、相手がこれを承諾することで成立する」と規定された関係であり、法律行為です。

これは筆者の所見ですが、第三者からみれば親の同意が必要な未成年が医療法人の経営に関する判断が自身で出来るとは思えませんので、医療法人の理事に就任する場合には18歳以上(成人)であることが好ましいと思います。

なお、医療法人の理事の適格性について厚生労働省では「実際に法人運営に参画できない者が名目的に選任されていることは適当ではないこと。」と書かれており、裏を返せば「実際に法人運営に参画できれば年齢が幾つであっても選任可能」と読み取れます。

医療法人運営管理指導要綱
(5)理事


3 実際に法人運営に参画できない者が名目的に選任されていることは適当でないこと。

医療法人運営管理指導要綱

また、各都道府県により医療法人の理事の適格性は異なってますが、「未成年者が役員に就任することは望ましくありません。」と指導している都道府県が一番多いので、やはり医療法人の理事に就任する場合には18歳以上(成人)であることが好ましいでしょう。

東京都 医療法人設立の手引
(1)役員
ア 役員の種類・人数

未成年者が役員に就任することは、適当ではありません。

医療法人設立の手引

埼玉県 医療法人の設立及び運営に関する質問と回答
Q8 役員(理事及び監事)の要件はあるのか?

A8 医療法第46条の5に規定する欠格事項に該当しないほか、以下に該当しないことが望ましいです。
・実質的に法人運営に参画できない恐れのある者
 例:未成年者、遠方(概ね関東地方以外)在住、高齢者(原則70歳以上)

医療法人の設立及び運営に関する質問と回答

理事に就任した学生に役員報酬を支払うことができるか?

医療法人の経営に従事している限り、理事に就任した学生に役員報酬を支払うことができます。

役員報酬とは医療法人において理事(理事長)や監事などの役員に対して「経営責任や監督責任の対価」として支払う報酬をいいます。

したがって、理事会に参加し、医療法人の経営に従事していると説明できるのであれば学生であったとしても役員報酬を支払うことが可能です。

役員報酬を支払う場合の金額上限は?

役員報酬の金額上限について明確な金額基準はありません。(ケースバイケースです)

学生が役員に就任した場合の役員報酬額の有名な判例として以下のものがあります。

大学に在籍中の取締役(原告会社の代表取締役の長女18才)に対して支給した役員報酬の額が過大であるとされた事例
東京地裁昭和44年(行ウ)第180号法人税更正処分等取消請求事件(却下、棄却)(原告控訴)

本文判決要旨(4)
取締役丙は、原告会社代表取締役甲の長女であって、取締役に就任当時同人は18才であって、しかも大学国文科第1学年(昼間)に在籍し、学業の余暇を利用して、原告会社の経理関係の帳簿の整理、自動車運転等の職務に従事していたものである。原告会社は右丙に対して年額930,000円の役員報酬を支払ったが、丙が原告会社代表取締役の後継者となる者であるとしても、丙の知識、経験、取締役として就任間もない事実、勤務状況、職務内容等からみた同人の会社経営に参画する程度と他の取締役、使用人に対する報酬、給与の額等を併せ考えると、丙に対して支払われるべき報酬の客観的相当額は、いかに高くみても会社設立以来の非常勤取締役丁に対する報酬額(年額600,000円)以上には出ないものというべきであるから、丙に対する報酬額930,000円のうち600,000円を超える分は、不相当に高額な金額であると認めるべきである。

この判例は、他の非常勤役員に対する役員報酬が年額60万円だったので、学生である娘が役員になったとしても60万円までの金額なら妥当との結論になっています。

そのため、学生が理事に就任できたとしても、その理事の職務内容、医療法人の医業収入や他の従業員への給与支給状況、規模が類似する医療法人の役員報酬の支給状況などを総合的に勘案して、役員報酬額が不相当に高額であると税務署に判断される場合も十分に考えられますので、理事会議事録を適切に作成、経営に関する報告をしたのであれば当該資料を保管するとともに、高額な役員報酬を支払うことは控えることをおすすめします。

なお、筆者の所見として「一般的に月額いくらまでなら安全か」をお伝えしたいところですが、情報が独り歩きしてしまうのを避けるため記事内には記載しておりません。

もし、気になる方は無料相談予約よりお問い合わせください。

役員報酬を支払う場合に注意すべきこと

税金上守らなければならないルールがある

役員報酬は役員が金額を決めることができ、医療法人の利益が多額に出そうなときに意図的に役員報酬を増額することで利益調整をし法人税を節税することが容易であることから、役員報酬の費用(損金)にするためには様々な厳しい条件が定められています。

詳しくは別記事にしておりますので、ご覧ください。

研修医は診療のアルバイトが禁止されている

医師法や臨床研修に関する省令に規定されているように、医師や歯科医師は臨床研修(初期研修)に集中して取り組む必要があるため、原則として研修医は「診療」のアルバイトをすることができません。

【医師法第16条の2】
診療に従事しようとする医師は、二年以上、都道府県知事の指定する病院又は外国の病院で厚生労働大臣の指定するものにおいて、臨床研修を受けなければならない。

【医師法第16条の5】
臨床研修を受けている医師は、臨床研修に専念し、その資質の向上を図るように努めなければならない。

医師法

【臨床研修に関する省令第10条】
臨床研修病院は、第四条若しくは第五条において準用する第四条の規定により提出し、又は前条の規定により届け出た研修プログラム以外の研修プログラムに基づいて臨床研修を行ってはならない。

臨床研修に関する省令

研修医が医療法人の非常勤役員として理事に就任したとしても、臨床研修に専念することは十分可能ですので、医療法人から役員報酬を支払うことができます。

ただし、医療法人から役員報酬を支払うと診療のアルバイトを行っていると勘違いされてしまい研修病院が補助金の返還や研修病院の指定を取り消される可能性もありますので必ず事前に確認をすることをお勧めします。

まとめ

私立大学の医学部や歯学部の学費はとても高額であり、さらに家賃や生活費も考えると6年間の教育費は数千万円になります。

医療法人の場合には学生を理事に就任させ、医療法人の経営に関与してもらうことで役員報酬として教育費の捻出をすることも可能ですので是非検討してみてください。

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