【医療法人専門税理士解説】医療法人化メリット・デメリット20選

この記事の監修者

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!

茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。

新規のご相談を受けた際に、税金対策のためだけに医療法人化をしたいとご相談にくる方が多いと感じています。


何事にもメリットがあれば、デメリットがあり医療法人化であってもメリットだけではなく、デメリットも多くございます。

そこで今回は医療法人化とは、医療法人化のメリット・デメリットを解説していきます。

この記事は次の方にオススメです。

・開業前の医師・歯科医師の方で医療法人化のメリット・デメリットを徹底的に知りたい方

もくじ

医療法人化とは

医療法人の定義

医療法人の定義は医療法第39条に以下のように規定されています。

医療法第39条
1項:病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2項:前項の規定による法人は、医療法人と称する。

株式会社の設立には事前の認可は必要ありませんが、医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要となります。

医療法人制度は「医療事業の経営主体に法人格を認めることで、資金調達を容易にし、医療機関に経営の永続性を与えること」を趣旨として昭和25年の改正により創設されました。

医療法人の種類

医療法人の種類は1つではなく、実は6種類もあります。

詳細は「【税理士がわかりやすく解説!】医療法人社団とは?医療法人財団との違いは?」にて解説しておりますのでご興味がありましたら、ご確認ください。

医療法人化のメリット・デメリット

医療法人化のメリット

医療法人化のメリットは主に以下の10個です。

  • 税率差による税負担の軽減
  • 親族への所得分散
  • 役員退職金の活用
  • 法人契約の生命保険の活用
  • 分院の開設が可能
  • 相続時の手続きが簡素化される
  • 相続による資産の分散の防止
  • 社会保険診療にかかる源泉徴収がされないことによる資金繰りの改善
  • 附帯業務の開始が可能
  • 対外的な信用力の向上

メリットその1.税率差による税負担の軽減

個人開業医には所得税が、医療法人には法人税がかかりますが、所得税と法人税は税率が異なります。

図でわかりやすくすると以下のようになります。

参考:国税庁 所得税の税率国税庁 法人税の税率

個人開業医の場合には、利益(所得)が増加するにつれて所得税率が増加するのに対し、医療法人は利益が800万円までであれば法人税率が15%、それ以降はどれだけ利益が増加しても法人税率は23.2%になります。

そのため、利益(所得)金額が900万円を超えると個人開業医より医療法人のほうが納める所得税が少なくなるのです。

メリットその2.親族への所得分散

個人開業医で、親族に診療所の受付を手伝ってもらっている場合、その親族に支払う給料は他の従業員と比較して多すぎてはいけません。

個人開業医本人のみが経営責任を負っているため、親族の方に対してプラスαで支払ってはいけないというイメージです。

一方、医療法人であれば、親族に理事へ就任していただき診療所の受付も手伝ってもらいながら経営にも関与していれば、支払う給料は他の従業員と比較して多くすることができます。

理事として理事長と一緒に医療法人を経営していることから、責任も重くなり給料も多くなるためです。

合計額面が3,000万円だとしても、所得分散ができれば以下の表のように手取額が101万円も増えます。

メリットその3.役員退職金の活用

個人開業医では退職金は存在しませんが、医療法人化して役員に就任すれば退職時に役員対象金として支給することができ、支給した役員退職金を医療法人の経費にすることができます。

退職金を貰った役員側では所得税がかかりますが、退職金の所得税は他の給与や保険金などにかかる所得税とは異なり、極めて優遇されています。

医療法人設立後20年で退職し退職金で5,000万円貰った場合と、給与で5,000万円貰った場合でどれくらい所得税が変わってくるのかみていきましょう。

表のとおり、給与で5,000万円貰うより、退職金で5,000万円貰う方が所得税が1,122万円も少なくなります。

これだけ少なくなるのには2つポイントがあります。

1つめのポイントは、退職金の場合、役員を就任していた期間によって控除額が大きくなり、例えば20年の場合には控除額が800万円にまで増加します。

なお、21年以降は1年就任期間が増えるごとに70万円控除額が増えていきます。

2つめのポイントは、退職金の場合、所得税の計算において税金がかかる部分を半額(÷2)にできます。

そのため、今回の例でいえば、額面が5,000万円に対して実際に税金がかかる部分が2,100万円になっております。

メリットその4.法人契約の生命保険の活用

万が一、医師本人に何かあったときに家族や従業員を守るために、死亡保険金を貰えるように生命保険に加入している方が多いと思います。

しかし、個人開業医が生命保険に加入しその保険金の受取人が親族の場合、いくら払ったとしても支払った保険料は経費にすることはできません。

それがたとえ、従業員の給料支払に充てたり、事業の借入金の返済に充てたりしても認められないのです。

一方、医療法人化し、保険契約者と受取人の両方を医療法人として生命保険に加入した場合には、経費にすることができます。

メリットその5.分院の開設が可能

個人開業においては、医療法第12条の規定により開設者と管理者(院長)を同じにしなければならないため、分院を開設することができません。

医療法第12条
病院、診療所又は助産所の開設者が、病院、診療所又は助産所の管理者となることができる者である場合は、自らその病院、診療所又は助産所を管理しなければならない。

一方、医療法人であれば、管理者(院長)は医師・歯科医師である必要がありますが、開設者は医療法人そのものとなります。

したがって、分院長は本院の医師・歯科医師以外の方に就任していただき、開設者を医療法人とすることで分院開設が可能です。

メリットその6.相続時の手続きが簡素化される

個人開業している医師・歯科医師が万が一亡くなってしまった場合、相続時の手続きは大変です。

というのも、事業用の土地・建物・医療機器などであっても遺産分割の対象になってしまいます。また、遺産分割の際に、親族で揉めてしまうと事業用の口座も凍結されてしまいその口座に入っているお金を利用することもできなくなってしまいます。

医療法人であれば、事業用の土地・建物・医療機器、通帳口座も全て医療法人名義になっていますので、相続時の手続きは理事長を変更するといった手続きのみで完結するため、簡易的です。

メリットその7.相続による事業用資産の分散の防止

「6.相続時の手続きが簡素化される」と重複してしまいますが、個人開業している医師・歯科医師が万が一亡くなってしまった場合、事業用の土地・建物・医療機器なども遺産分割の対象になってしまいます。

そうすると、後継者が居た場合でも、後継者が事業用資産の全てを相続できない可能性が高いです。

医療法人であれば、事業用の土地・建物・医療機器、通帳口座も全て医療法人名義になっていますので、後継者を理事長に変更するといった手続きのみで完結するため、事業用資産の分散を防止することができます。

メリットその8.社会保険診療にかかる源泉徴収がされないことによる資金繰りの改善

個人開業医の場合には所得税法という法律が適用されますが、所得税法第204条1項3号において以下のように規定されているため、社会保険診療報酬支払基金から入金される診療報酬は10.21%の源泉徴収後の金額となっております。

所得税法第204条
居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
3号:社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬


医療法人であれば、法人税法という法律が適用されることになるため、所得税法で規定されている社会保険診療報酬の源泉徴収をする必要がなくなることから、社会保険診療報酬支払基金から100%分の入金がされることになり、個人開業医と比較すると医療法人のほうが資金繰りが良くなります。

メリットその9.附帯業務の開始が可能


医療法人化をすると個人開業医では行うことの出来ない「附帯業務」の開始が可能となります。

附帯業務とは本来業務に支障のない範囲で行う業務のことであり、医療法第42条に規定されています。

医療法第42条
医療法人は、その開設する病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(当該医療法人が地方自治法第二百四十四条の二第三項に規定する指定管理者として管理する公の施設である病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(以下「指定管理者として管理する病院等」という。)を含む。)の業務に支障のない限り、定款又は寄附行為の定めるところにより、次に掲げる業務の全部又は一部を行うことができる。

例えば、看護専門学校の運営や、訪問看護ステーションの設置、臨床医学研究所の設置をしたければ医療法人化をする必要があるのです。

メリットその10.対外的な信用力の向上

医療法人化をすることで、医療法人という法人組織になることができます。

一般的には、個人よりも法人の方が社会的信用力が高いとされていることから、金融機関からの借り入れや従業員の採用において有利に働くことが多いです。

医療法人化のデメリット

医療法人化のメリットは主に以下の10個です。

  • 医療法人設立手続きが煩雑
  • 資金の融通が効きづらい
  • 社会保険の強制加入
  • 医師国保・歯科医師国保への新規加入が出来なくなる
  • 役員報酬が定額となる
  • 個人所得の減少
  • 毎年、都道府県への行政手続きが必要
  • 毎年、法務局への登記手続きが必要
  • 事業報告書や決算書の第三者への開示
  • 解散時の残余財産が国等に帰属

デメリットその1.医療法人設立手続きが煩雑

医療法人の設立手続きが煩雑といわれる理由は、提出書類の分量が多いためです。

医療法人設立の認可申請にあたって都道府県に提出が必要な書類は以下のとおりです。

ここに記載した書類以外でも、都道府県より提出することを求められる書類も出てきます。

デメリットその2.資金の融通が効きづらい

個人開業医の場合には、診療所の資金をどのように使おうが、ご自身のお金をご自身が使っただけなのでお金の貸し借りは発生しません。

ただ、医療法人化をすることで、医療法人という法人組織になり、個人とは別人格となります。

そうすると、医療法人の資金を理事長が私的に使ってしまうと、理事長個人と医療法人の間で貸し借りが発生してしまいます。

医療法人化をすることで資金融通が効きづらいと言われるのはこのためです。

どうしても理事長個人でお金が必要なときに、医療法人からお金を借りてしまうと場合によっては都道府県から指導を受ける可能性が出てきますので、ご注意ください。

デメリットその3.社会保険の強制加入

個人開業医の場合には、労働者が5人未満の場合には社会保険の加入義務はありません。

しかし、医療法人化してしまうと、労働者数に関係なく社会保険の加入義務(強制加入)があります。

社会保険は労使折半と言われており、医療法人が納めるべき社会保険料のうち役員・従業員の給料から50%を徴収し、残りの50%は医療法人が負担しなければなりませんので、資金的な負担が増えてしまう可能性があります。

デメリットその4.医師国保・歯科医師国保の新規加入ができなくなる

一度、医療法人になってしまうと医師国保・歯科医師国保への新規加入ができなくなってしまいます。

(個人開業医のときに医師国保・歯科医師国保に加入後、医療法人化をしてもなお、医師国保・歯科医師国保を継続することは可能です。)

「3.社会保険の強制加入」で触れたように、社会保険の労使折半がありますが医師国保・歯科医師国保については役員・従業員の給料から徴収した金額をそのまま収めればよいので、個人開業医本人や医療法人が負担する部分がないため、医師国保・歯科医師国保の新規加入ができなくなるのは雇う側からするとデメリットになります。

ただ、裏を返すと、雇われる側の従業員からするとその分本人負担が増えることにもなりますので、医師国保・歯科医師国保を適用している事業所は敬遠する求職者も一定数いるようです。

デメリットその5.役員報酬が定額となる

個人開業医の場合には、1年間で稼いだ利益全てがご自身のものになります。

医療法人化してしまうと、理事長である医師・歯科医師は医療法人から役員報酬という給料をもらうことになります。

役員報酬は月によって金額を変更することは出来ず、一度決めたら1年間は毎月同じ額を支払わなければなりません。

そのため、例えば「今年も残り3ヶ月だが、利益も沢山出てしまいそうなので理事長である自分自身の給料を3ヶ月だけ増額してしまおう!」というようなことは出来ません。

デメリットその6.個人所得の減少

「メリットその2.親族への所得分散」で触れたように、医療法人化をすることで親族への所得分散をしやすくなり、所得分散をすることで所得税額を抑えられることから親族全体で考えた手取り額を増やすことが可能になります。

それは裏を返すと、医師・歯科医師である理事長本人の所得額は減少してしまうということになります。

そのため、医療法人化をすることで親族全体で考えた所得は増加するものの、個人の所得額は減少してしまいます。

デメリットその7.毎年、都道府県への行政手続きが必要

医療法人化をすると、毎年「事業報告書」や「決算届」というその年1年間の医療法人の状況や決算の内容を記載した書類を都道府県に提出する必要があります。

書類の作成や提出手続き自体は煩雑ではありませんので、大きなデメリットにはなり得ません。

デメリットその8.毎年、法務局への登記手続きが必要

医療法人化をすると、毎年「資産の総額の変更登記」という登記を行わなければなりません。

資産の総額とは医療法人の純資産額を指しております。

実際には、数万円の料金を支払って司法書士に依頼することが多いので、こちらも大きなデメリットにはなり得ません。

デメリットその9.事業報告書や決算書の第三者への開示

「デメリットその8.毎年、都道府県への行政手続きが必要」に記載したとおり、医療法人化をすると「事業報告書」や「決算届」を都道府県に毎年提出する必要がございます。

知らない方も多いのですが、実は都道府県のサイトを見ると提出している医療法人の「事業報告書」や「決算届」をオンラインで確認することができます。

神奈川県: https://www.pref.kanagawa.jp/docs/t3u/cnt/f12707/index.html 
東京都: https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/hojin/etsuranonline.html

決算届といっても医療法人の損益を事細かに見れるわけではございませんが、医業収益がいくらで、医業費用がいくらで、医業利益がいくらといった大きな枠組みでの数値は見ることが可能です。

そのため、医療法人化をすると、自らが理事長になっている医療法人の経営数値が第三者に開示されてしまうのです。

デメリットその10.解散時の残余財産が国等に帰属

医療法人化を考えている医師・歯科医師の方のなかで、医療法人化のデメリットとして一番最初に思いつくのが「解散時の残余財産が国等に帰属」ではないでしょうか。

これから新たに設立する医療法人だと、医療法人化をして毎年利益を蓄えて、医療法人の資産が増えていったあと、いざ医療法人を畳もうとする場合に、最終的に医療法人に残った資産は国等に引き渡さなければならないのです。

大きなデメリットと感じる方も多いと思いますが、解決方法が2つあります。

1つ目の解決方法は「畳もうとするときに医療法人に資産を全く残さない」です。

どういうことかといいますと、医療法人を畳もうとするときに理事長や理事に役員退職金として、医療法人に残った資産全てを役員退職金として支給すれば良いのです。

そうすると、医療法人に残る資産はゼロになりますので、国等に引き渡す資産もゼロになります。

2つ目の解決方法は「国や地方公共団体ではなく、他の持ち分なし医療法人に引き渡す」です。

実は、「国等」には国や地方公共団体のみではなく、他の出資持分のない医療法人も含まれているのです。

以下の医療法第44条第5項および医療法施行規則第31条の2第2項に規定されています。

医療法第44条第5項
第二項第十号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。

医療法施行規則第31条の2
法第44条第5項に規定する厚生労働省令で定めるものは、次のとおりとする。
1項:公的医療機関の開設者又はこれに準ずる者として厚生労働大臣が認めるもの
2項:財団である医療法人又は社団である医療法人であつて持分の定めのないもの


そのため、医療法人を畳もうとするときに医療法人に資産が残ったとしても、例えば親しくしている大学の後輩の持ち分なし医療法人や自分の子供が設立した持ち分なし医療法人に引き渡すことも可能です。

医療に強いとアピールしている税理士でも誤って理解していることが多いので注意してください。

まとめ

医療法人設立について節税メリットばかりが注目されていますが、もちろんデメリットもございます。

メリットのみを強調し、医療法人化を進めてくるコンサルタントや税理士などがいたら注意してください。

私たち、医療専門の税理士法人シーガルは医療法人化だけに留まらず、その後の税務顧問においても医業経営のサポートをすることができますので、ご興味をもっていただけましたら、ぜひご相談ください。

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