【開業医・医療法人専門税理士解説】MS法人のメリット・デメリット
この記事の監修者
中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!
遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!
茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。
医師や歯科医師の方で「MS法人を設立したほうが良いらしい」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
何事にもメリット・デメリットがあり「MS法人」も同じです。
メリット・デメリットをよく考えずに、いたずらに設立されたMS法人をうまく活用できていない事例を沢山見てきました。
そこで今回は、MS法人とは、MS法人のメリット・デメリット、MS法人のよくある失敗事例を解説していきます。
この記事は次の方にオススメです。
・MS法人という言葉を聞いたことがある医師・歯科医師の方
・MS法人を設立しようと考えている医師・歯科医師の方
MS法人とは
MS法人の定義
MS法人とは、メディカル・サービス法人の略称で、法律上の制度としては存在しませんが、診療以外の医療関連業を行うことを目的に設立された法人です。
MS法人は株式会社で設立されることが多いですが、一般社団法人や合同会社、NPO法人など様々な組織形態で行うことができます。
MS法人が行う事業
「MS法人の定義」でも記載したように、MS法人とは法律上の制度としては存在しませんので、法律に違反しなければどのような業務を行っても問題ございませんが、一般的には以下のような業務を医療法人または個人開業医から請け負っています。
- 医療事務、経理事務、経営管理などの管理業務
- 医療材料の仕入販売業務
- 医療用機器や備品の販売・賃貸業務
- 診療所の建物や土地の不動産賃貸業務
- 調剤薬局の運営業務
- 売店の運営業務
そのため、医療法人または個人開業医からするとMS法人に対して業務を委託するため、MS法人に対して業務委託料としてお金を支払うことになるのです。
医療法人との違い
MS法人と医療法人の違いのうち主なものは以下のとおりです。
- MS法人は設立時に認可が必要ないが、医療法人は都道府県知事の認可が必要
- MS法人は役員の定数に決まりはないが、医療法人は役員として理事3名、監事1名が必要
- MS法人は法人名に決まりはないが、医療法人は既存の法人名は使用できない
医療法人は設立や設立後の運営にあたっても厳しい要件が求められている一方で、MS法人には要件がありません。
そのため、簡単に設立できるMS法人をうまく活用して、医療法人や個人開業医ではできないことを行いたいと考える方が多いのです。
MS法人のメリット4選
1.業務分散や所得分散ができる
MS法人をうまく活用すると業務分散をすることが可能です。
例えば、医療事務や受付事務をMS法人に委託することで、診療行為に専念することができたり、お金の流れを管理しやすくなります。
また、個人開業医の場合にはMS法人に業務委託をし、業務委託料を支払うことで所得分散をし、所得税を節税することが可能です。
個人開業医は所得(利益)が増えるほど税率が上がっていく「所得税」がかかる一方で、MS法人は利益が年間800万円であれば15%、それ以降は23.2%という税率となる「法人税」がかかります。
そのため、個人開業医で所得(利益)が年900万円を超えているのであれば、MS法人に業務委託をすることで、所得分散による所得税の節税効果が見込まれます。
個人開業医ではなく、医療法人の場合には、MS法人も医療法人も同じ「法人税」がかかりますので、MS法人に業務委託をしても、節税効果は望めないためご注意ください。
2.医療法人では行えない事業ができる
医療法で規制されてしまっているため医療法人では行えない事業も、MS法人では行うことができます。
例えば、医療法人で土地や不動産を購入し通院患者とは関係のない不動産賃貸を行うことはできませんが、MS法人では可能です。
また、医療法人の場合には、定款に「資産のうち現金は、日本郵政公社、確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとする。」と記載があることから、ハイリスク・ハイリターンの株式を買うことは難しいですが、これもMS法人でなら可能です。
3.配当ができる
医療法第54条において配当をしてはいけない旨が規定されているため、医療法人では配当を行うことができません。
医療法第54条
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
医療法
一方、MS法人は株式会社ですので、配当を行うことが可能です。
しかしながら、MS法人の配当の原資は医療法人からMS法人に対して支払われた業務委託料や不動産賃貸料ですので、MS法人を通じて医療法人からの配当とみなされる場合もございます。
そのため、都道府県から指摘があった場合に備えて、業務委託料や不動産賃貸料などの取引金額の妥当性について説明できるようにしておくことが必要です。
弊社では、外部の第三者から見積書を入手しその金額をMS法人と医療法人との間の取引価格の根拠にすることをオススメしております。
4.相続対策がしやすくなる
診療所の土地・建物を医師個人が所有しており、それを医療法人に貸している場合には、不動産賃貸料が医師個人に支払われてしまいます。
そうすると、医師個人の財産となってしまいますので、長期間に渡って賃貸料を受け取ると医師個人が亡くなってしまったときに多額の相続税がかかってしまいます。
そこで、MS法人を設立し医師個人が所有している診療所の土地・建物をMS法人に売却すると、不動産賃貸料はMS法人に支払われることになりますので、医師個人の財産となる金額を抑えることができ、結果として相続税も抑えることが可能となり、相続対策もしやすくなります。
また、医療法人の代表取締役の立場となる理事長ですが、医療法第46条の6において規定されているように、原則医師又は歯科医師でなければなりません。
医療法第46条の6
医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。ただし、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師又は歯科医師でない理事のうちから選出することができる。
医療法
そのため、後継者は医師または歯科医師である必要があり、後継者がいないというケースもよくあります。
一方、MS法人では代表取締役の要件はないため、医師または歯科医師でない親族を後継者にすることができますので、承継という点でもMS法人は有効です。
MS法人のデメリット4選
1.税金が増える可能性がある
MS法人について興味を持たれている方にお話を伺うと「MS法人が節税になると聞きました!」という方が多いですが、それは間違いであることが多いです。
MS法人を設立して節税になるのは、「メリット1.業務分散や所得分散ができる」でも記載したように、個人開業医で所得(利益)が多額にある場合のみです。
それ以外の場合には、MS法人を設立することで、消費税の納税額が増えてしまうため税金が増える可能性があります。
これは税理士でも誤って理解していることが多いので注意してください。
2.MS法人を維持するための費用が増える
MS法人を設立することで、MS法人を維持するために以下のような費用が発生してしまいます。
- MS法人設立時の登記費用・設立手数料
- 税理士の顧問料・決算料
- 法人税・消費税などの納税
- 所在地を医院の住所とは別にしている場合には賃料
医師又は歯科医師の先生が興味がないのに、MS法人設立を進めてくる場合には、単にMS法人設立に伴う手数料を目当てに営業をかけてきている場合もありますので、注意してください。
3.医療法人との役員兼務手続きが煩雑
MS法人と医療法人の役員兼務自体はできるのですが、その手続きが煩雑です。
医療に強いとアピールしている税理士でも「MS法人と医療法人の役員兼務ができない」と理解している人もいますが、必ず出来ないわけではありません。
厚生労働省から出ている医療法人運営管理指導要領には以下のように記載されています。
医療法人と関係のある特定の営利法人の役員が理事長に就任したり、役員として参画していることは、非営利性という観点から適当ではないこと。
医療法人運営管理指導要領
つまり、本来は非営利性を満たしてさえいればMS法人と医療法人の役員兼務は可能ということです。
「剰余金の配当をしない」ことが医療法人の非営利性と考えられますので、医療法人である以上、非営利性は満たしています。
しかしながら、MS法人と医療法人の役員を兼務していると、医療法人設立認可申請や医療法人の定款変更申請の際に、都道府県から執拗に説明を求められ設立認可申請や定款変更の作業進捗が極端に遅れる傾向があります。
そのため、弊社ではMS法人と医療法人の役員兼務をオススメはしておりません。
4.取引価格について整理することが必要になり煩雑
MS法人に対して業務委託料や不動産賃貸料を支払う場合には、取引価格について整理することが必要です。
税務調査があった場合に、個人開業医または医療法人からMS法人に支払った業務委託料や不動産賃貸料の金額が、通常の取引価格と比較して著しく高額であり、結果として税金の額が減少していると判断されてしまうと、MS法人に支払った金額と適正な取引価格との差額について経費として認められなくなってしまいます。
図で表すと以下のようになります。
例えば、業務委託料として200万円を支払ったとしても130万円までしか認められず、70万円は経費として認められなくなってしまうのです。
そのため、税務調査があったときに、取引価格の根拠をすぐに示せるように、整理しておくことが必要となります。
MS法人のよくある失敗事例
MS法人を設立する必要がなく医療法人だけあればよかった事例
MS法人を設立すると税金やMS法人維持費用がかかるのにも関わらず、税理士や医療コンサルタントに言われ、ご自身が納得できないまま、MS法人を設立したケースです。
このケースは、個人開業+MS法人よりも、MS法人を設立せずに医療法人化した方がメリットがあるパターンでしたので、本来はMS法人を設立する必要がなく医療法人だけあればよかった事例でした。
メリット4選のうち、どれか1つでも当てはまることがあれば、MS法人設立をオススメしますが、それ以外の場合には「MS法人設立が本当に必要なのか」とよく考えてください。
役員兼務をしていることで医療法人化が大変になった事例
個人開業の歯科医師が将来的に医療法人化を考えながらも、節税のためMS法人を設立したケースです。
このケースは、個人開業+MS法人によって節税対策にはなっていたのですが、将来的に分院開設も予定していたため、医療法人化のご相談も頂いておりました。
しかしながら、いざ医療法人化するために都道府県に相談に行くと、「MS法人と医療法人の役員兼務を解消しなければ認可できない。」と言われてしまいました。
「デメリット3.医療法人との役員兼務手続きが煩雑」でも記載したように役員兼務は出来ないわけではありませんが、医療法人化を急いでいたので、医療法人の役員をMS法人の役員から退任することでなんとか医療法人化をすることができた事例です。
結局、MS法人の役員には一時的に遠い親戚に就任してもらいましたが、MS法人を活用する必要も無くなったため、MS法人は設立後3年で畳んでしまいました。
MS法人への転籍を拒否されてしまった事例
MS法人を設立し、業務分散や所得分散をするために医療法人の理事長がMS法人を設立したケースです。
このケースは、受付事務と経理事務を担当している従業員数名をMS法人に転籍させ、医療法人からは業務委託料を支払うことを考えておりましたが、いざMS法人設立後に従業員数名に対して転籍の話を持ちかけたところ、転籍を拒否されてしまった事例でした。
MS法人を設立することを主目的としすぎたがあまり、従業員に対して雇用条件の保証や転籍させる合理的な理由を直前まで説明していなかったことで転籍を拒否されてしまったようです。
まとめ
個人開業医の医師または歯科医師や医療法人の理事長が税理士や銀行に言われるがまま、MS法人を設立したケースを多く見てきました。
MS法人にはメリットもデメリットも多くありますので、安易に設立することは避けてください。
私たち、医療専門の税理士法人シーガルはMS法人に関するシミュレーションも得意としております。
もし今の税理士に少しでも不満があるようでしたら、ぜひご相談ください。
医療専門の税理士法人シーガルでは
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