2024.3.24
一般社団法人による診療所・クリニック開設、医療法人との違い
個人で診療所を開設される場合や、医療法人での開設を検討される方は多いでしょう。しかし、最近では一般社団法人を設立してクリニックを開設する事例が増えています。
一般社団法人は医療法人ではないことから、行政の認可手続きが不要であったり、代表者の制限を受けなかったりと、使い勝手が良い点が多いのが大きな特徴です。
そこで今回は、そもそも一般社団法人で診療所を開設できるのかという基本的な疑問から、医療法人との具体的な違い、そして開設後のメリット・デメリット(リスク)を、専門家の視点から徹底解説します。
この記事は次の方にオススメです。
医療法人以外の法人でクリニックを開設する方法を探している方
医療法人の理事長要件(医師限定)に制約を感じている方
- そもそも本当に一般社団法人で診療所・クリニックを開設できるのか
- 医療法が定める「営利目的の禁止」
- 厚生労働省の指針(非営利性の徹底)
- 診療所の開設が可能な非営利型一般社団法人とは
- 非営利型とは「利益追求してはいけない」ということではない
- 非営利型一般社団法人の要件
- 要件のうち特に抑えておくべきポイント
- 医療法人と一般社団法人の決定的な違いとメリット
- メリット1:設立手続きが迅速で、いつでも可能
- メリット2:代表者(理事長)が医師に限定されない
- メリット3:事業の自由度が高い
- メリット4:議決権の設計が自由
- 株式会社が社員となり議決権行使することが可能
- 一般社団法人のデメリットと知っておくべきリスク
- デメリット1:診療所開設の「前例」が少なくハードルが高い
- デメリット2:非営利性が徹底されないと診療所閉鎖リスク
- デメリット3:今後の法改正で医療法人と同様の規制になる可能性
- まとめ
そもそも本当に一般社団法人で診療所・クリニックを開設できるのか
医師や医療法人以外の法人が診療所を開設できるのか、という点は多くの方が疑問に感じるでしょう。結論から言うと、一定の要件を満たせば、一般社団法人でも開設は可能です。
医療法が定める「営利目的の禁止」
まず、医療法第7条第1項では、医師・歯科医師以外の者が診療所を開設する際には都道府県知事の許可が必要とされています。
さらに、医療法第7条第7項には、「営利を目的として、診療所を開設しようとする者に対しては…許可を与えないことができる」と明記されています。
つまり、株式会社のような営利法人ではなく、一般社団法人や一般財団法人などの非営利法人であれば、診療所を開設する可能性があるということです。
【医療法第7条】
1 病院を開設しようとするとき、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十六条の六第一項の規定による登録を受けた者(同法第七条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第二項の規定による登録を受けた者に限る。以下「臨床研修等修了医師」という。)及び歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第十六条の四第一項の規定による登録を受けた者(同法第七条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第二項の規定による登録を受けた者に限る。以下「臨床研修等修了歯科医師」という。)でない者が診療所を開設しようとするとき、又は助産師(保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第十五条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第三項の規定による登録を受けた者に限る。以下この条、第八条及び第十一条において同じ。)でない者が助産所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事(診療所又は助産所にあつては、その開設地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。第八条から第九条まで、第十二条、第十五条、第十八条、第二十四条、第二十四条の二、第二十七条及び第二十八条から第三十条までの規定において同じ。)の許可を受けなければならない。
厚生労働省の指針(非営利性の徹底)
この解釈は厚生労働省からも通知(「医療法人以外の法人による医療機関の開設者の非営利性の確認について」等)が出ており、医療法人以外の法人についても非営利性の徹底を図ることが求められています。
結論として、非営利法人である一般社団法人は、行政の許可さえ得られれば診療所の開設が可能です。
【医療法人以外の法人による医療機関の開設者の非営利性の確認について】(一部抜粋)
医療法第七条及び第八条の規定に基づく医療機関の開設手続きに際しての確認事項については、これまでも平成五年二月三日総第五号・指第九号健康政策局総務課長・指導課長連名通知(以下「平成五年通知」という。)により、ご配意いただいているところであるが、今般、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成十八年法律第八十四号。以下「改正法」という。)において、医療法人の解散時の残余財産は個人に帰属しないこととする等の規定を整備し、医療法人の非営利性に関する規律の明確化を図ったところである。
改正法の趣旨に鑑みれば、医療法人以外の法人についても非営利性の徹底を図ることが必要であることから、今般、医療法人以外の法人が解散した時の残余財産の取扱いについて、医療機関を開設する際に留意すべき点を定めたので、当該法人の開設許可の審査及び開設後の医療機関に対する検査にあたり十分留意の上厳正に対処されたい。
なお、その他の事項については、引き続き平成五年通知に基づいて審査及び指導願いたいが、近年、特定非営利活動法人や、今般の公益法人制度改革による一般社団法人・一般財団法人など、従来の法人と比べて簡易な手続きで法人を設立できる仕組みが整備されてきていることから、平成五年通知に定める「医療機関の開設者に関する確認事項」については、従来以上に慎重に確認の上、対処されたい。
併せて、本通知の旨を各都道府県内関係部局に周知願いたい。
【医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について】(一部抜粋)
第一 開設許可の審査に当たっての確認事項
医療機関の開設許可の審査に際し、開設申請者が実質的に医療機関の開設・経営の責任主体たり得るか及び営利を目的とするものでないか否かを審査するに当たっては、開設主体、設立目的、運営方針、資金計画等を総合的に勘案するとともに、以下の事項を十分に確認した上で判断すること。
なお、審査に当たっては、開設申請者からの説明聴取だけでなく、事実が判断できる資料の収集に努めること。
1 医療機関の開設者に関する確認事項
(1) 医療法第7条に定める開設者とは、医療機関の開設・経営の責任主体であり、原則として営利を目的としない法人又は医師(歯科医業にあっては歯科医師。以下同じ。)である個人であること。
…2 非営利性に関する確認事項等
(1) 医療機関の開設主体が営利を目的とする法人でないこと。
ただし、専ら当該法人の職員の福利厚生を目的とする場合はこの限りでないこと。
(2) 医療機関の運営上生じる剰余金を役職員や第三者に配分しないこと。
診療所の開設が可能な非営利型一般社団法人とは
一般社団法人で診療所を開設するには、税法上の「非営利性が徹底された法人」の要件を満たす必要があります。
非営利型とは「利益追求してはいけない」ということではない
よく勘違いされますが、非営利型とは「利益を追求してはいけない」ということではありません。
非営利の定義とは、その法人であげた利益(剰余金)を、その法人の関係者に分配しないことを指します。(医療法人でも、医療法第54条で「剰余金の配当をしてはならない」と定められています。)
【医療法第54条】
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
つまり、利益を出すことは全く問題なく、出た利益を関係者に分配しなければ良いということです。
非営利型一般社団法人の要件
次の①から④の要件をすべて満たす一般社団法人は、非営利性が徹底された法人として診療所の開設が可能です。

要件のうち特に抑えておくべきポイント
【「特別の利益を与えること」の禁止】
要件には、特定の個人または団体に「特別の利益を与えること」を禁止する規定があります。これは、社会通念上不相当な経済的利益の供与を指します。(例:過大な給与支給、不当に低い賃貸料での資産貸付など) ただし、従業員社宅の貸付のように、社会通念上相当の範囲内の利益供与であれば問題ありません。
【非営利型法人における特別の利益の意義 1-1-8】
令第3条第1項第3号及び第2項第6号《非営利型法人の範囲》に規定する「特別の利益を与えること」とは、例えば、次に掲げるような経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう。(平20年課法2-5「ニ」により追加)
(1) 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。
(2) 法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。
(3) 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。
(4) 法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。
(5) 法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。
(6) 法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。
なお、「特別の利益を与えること」には、収益事業に限らず、収益事業以外の事業において行われる経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付が含まれることに留意する。
【「二度と戻れない」リスク】
要件に違反する行為を一度でも行ってしまうと、税務署から「非営利性が徹底された法人に該当しない」と判断され、二度と非営利型に戻ることはできません。非営利性が保てなくなると診療所の開設ができなくなるため、最悪の場合、診療所の閉鎖に追い込まれる可能性があります。
医療法人と一般社団法人の決定的な違いとメリット
以下の図が医療法人と一般社団法人の違いを完結に表したものですが、一般社団法人のメリットは、主に規制の少なさにあります。

メリット1:設立手続きが迅速で、いつでも可能
医療法人は行政の認可が必要なため、設立までに一般的に6ヶ月程度の期間と、決まった申請時期があります。
しかし、一般社団法人は行政の認可が不要なため、公証役場での定款認証が完了すれば、いつでも設立が可能で、一般的に2週間程度で設立できます。
メリット2:代表者(理事長)が医師に限定されない
医療法人の代表者である理事長は医師や歯科医師であることが必須です。
例外として、医師や歯科医師でない方が理事長に選任できる特例もあります。詳しく知りたい方は、別記事「【開業医・医療法人専門税理士】医療法人理事長に医師以外がなるには」もご確認ください。
しかし、一般社団法人の代表者である理事長は医師や歯科医師に限定されませんので、医師や歯科医師でない方でも理事長に就任することが可能です。
「家族に医療従事者ではないが経営を任せたい」「将来孫に引き継がせたい」と考える先生にとって、これは非常に大きなメリットとなります。
メリット3:事業の自由度が高い
医療法人は、医療とその付帯業務に厳しく制限されています。
一般社団法人は医療法人ではないため、定款の目的を変更すれば、医療や付帯業務以外の業務も比較的自由に行うことができるため、事業の多角化を考える際に有利です。
メリット4:議決権の設計が自由
医療法人では、社員(最高意思決定機関)1人につき1つの議決権しか持つことができません(医療法第46条)。
【医療法第46条の3の3】
社員は、各一個の議決権を有する。
一般社団法人では、定款で別段の定めをすることで、特定の社員が複数の議決権を持つことが可能です。これにより、理事長や次期理事長の議決権を増やし、より安定した法人運営を行えます。
【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条】
社員は、各一個の議決権を有する。ただし、定款で別段の定めをすることを妨げない。
2 前項ただし書の規定にかかわらず、社員総会において決議をする事項の全部につき社員が議決権を行使することができない旨の定款の定めは、その効力を有しない。
株式会社が社員となり議決権行使することが可能
このメリットは、法人の永続的な安定経営を考える上で非常に重要です。
医療法人の場合、厚生労働省の通知により、株式会社のような営利法人は社員(最高意思決定機関)になることができません。つまり、法人の議決権を持つのは基本的に自然人(個人)に限られます。
厚生労働省医政局長通知
医政発0325第3合平成28年3月25日(4ページ目)
③社団たる医療法人の社員には、自然人だけでなく法人(営利を目的とする法人を除く。)もなることができること。
一方で、一般社団法人にはこの規制がないため、別途設立した株式会社を社員として就任させ、議決権を行使することが可能です。
個人が社員である場合、その方が亡くなると人選や相続で苦労することがあります。しかし、株式会社を社員に就任させれば、その株式会社を清算しない限り永久に社員として地位を保持させ続けることが可能となり、より安定した法人運営の仕組みを構築できます。
【厚生労働省医政局長通知】医政発0325第3号平成28年3月25日(4ページ目)
社員は、各一個の議決権を有する。
一般社団法人のデメリットと知っておくべきリスク
使い勝手が良い一般社団法人ですが、医療法人に比べて以下のような大きなデメリットとリスクが存在します。これらのリスクを理解せず設立を進めると、事業継続が困難になる可能性があります。
デメリット1:診療所開設の「前例」が少なくハードルが高い
一般社団法人による診療所開設は、歴史が浅く、まだ行政の現場で十分に浸透していません。
前例主義である保健所や行政では、初めから開設を断られたり、「一般社団法人ではなく医療法人で開設してください」と言われたりするケースが少なくありません。結果として、開設許可を貰えるまでに時間がかかり、医療法人設立と同様の期間がかかる場合もあります。また、本院開設後、分院を開設する際にも高いハードルが待ち受けています。
デメリット2:非営利性が徹底されないと診療所閉鎖リスク
一般社団法人で診療所を開設できるのは、「非営利性が徹底された法人」として認められた場合のみです。
税務署から一度でも「非営利性に該当しない」と判断されてしまうと、それ以降二度と非営利型に戻ることはできません。非営利性が保てなくなると診療所の開設ができなくなるため、最悪の場合、診療所の閉鎖に追い込まれてしまう可能性があります。運営上のルール遵守は、医療法人以上に厳しく求められます。
デメリット3:今後の法改正で医療法人と同様の規制になる可能性
現時点では医療法人と比較して規制が少ない一般社団法人ですが、これは法制度が新しいがゆえに起こり得る現象です。
今後、医療法人と同様の規制が法改正によって適用される可能性は否定できません。法改正により、現在享受している「自由度の高さ」といったメリットが将来的に失われるリスクを念頭に置く必要があります。
まとめ
医療法人よりも使い勝手が良いという理由で一般社団法人による診療所開設が選ばれています。
ただ、一般社団法人での診療所開設は、前例が少ないことから、行政との交渉や手続きに多くの知識・経験を必要とします。保健所によっては「前例がないので許可できない」と言われたり「一般社団法人ではなく医療法人で開設してください」と言われることも珍しくありません。
私たち税理士法人シーガルは、開業医・医療法人専門の税理士として、一般社団法人による診療所開設のノウハウについても熟知しております。
税務顧問業務、医院経営に関するご相談、事業(医業)承継対策も対応可能ですので、複雑な法人設立の検討や行政手続きでお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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