一般社団法人による診療所・クリニック開設、医療法人との違い
この記事の監修者
中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!
遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!
茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。
診療所・クリニックの開設をするとなると、個人開設と医療法人開設の2つしかないと思われる方も多いと思いますが、最近では一般社団法人で診療所・クリニックを開設する事例が増えてきております。
一般社団法人は医療法人ではないことから、様々な制限を受けず使い勝手が良い点が多いです。
そこで今回は、そもそも一般社団法人で診療所を開設できるのか、一般社団法人と医療法人の違い、一般社団法人のメリット・デメリットを解説していきます。
この記事は次の方にオススメです。
・一般社団法人で診療所・クリニックを開設できることを知らない方
そもそも本当に一般社団法人で診療所・クリニックを開設できるのか
医師や歯科医師個人、医療法人が診療所を開設できるのはご存知かと思いますが、本当に一般社団法人が診療所を開設できるのか知らない方も多いと思いますので、そこから解説していきます。
まず医療法第7条第1項を確認してみます。
【医療法第7条】
1 病院を開設しようとするとき、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十六条の六第一項の規定による登録を受けた者(同法第七条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第二項の規定による登録を受けた者に限る。以下「臨床研修等修了医師」という。)及び歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)第十六条の四第一項の規定による登録を受けた者(同法第七条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第二項の規定による登録を受けた者に限る。以下「臨床研修等修了歯科医師」という。)でない者が診療所を開設しようとするとき、又は助産師(保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第十五条の二第一項の規定による厚生労働大臣の命令を受けた者にあつては、同条第三項の規定による登録を受けた者に限る。以下この条、第八条及び第十一条において同じ。)でない者が助産所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事(診療所又は助産所にあつては、その開設地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。第八条から第九条まで、第十二条、第十五条、第十八条、第二十四条、第二十四条の二、第二十七条及び第二十八条から第三十条までの規定において同じ。)の許可を受けなければならない。
医療法第7条
医療法第7条1項では「医師や歯科医師でない者が診療所を開設しようとするときには、開設地の都道府県知事の許可を得なければならない。」と書いてあります。
つまり、医師または歯科医師が「個人」で診療所を開設する場合には開設地の都道府県知事の許可は不要、「法人(医療法人、一般社団法人)」で診療所を開設する場合には開設地の都道府県知事の許可が必要になるということです。
つづいて、医療法第7条第7項を確認してみます。
【医療法第7条】
7 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、第四項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。
医療法第7条
医療法第7条7項では「営利を目的として、診療所を開設しようとする者に対して第一項(開設地の都道府県知事)の許可を与えないことができる。」と書いてあります。
つまり、株式会社や合同会社などの営利法人ではなく、一般社団法人や一般財団法人などの非営利法人であれば診療所を開設することが可能であるということです。
一般社団法人や一般財団法人などの非営利法人であれば診療所を開設することが可能という点について、実は厚生労働省からも通知が出ていますので合わせてご確認ください。
【医療法人以外の法人による医療機関の開設者の非営利性の確認について】(一部抜粋)
医療法第七条及び第八条の規定に基づく医療機関の開設手続きに際しての確認事項については、これまでも平成五年二月三日総第五号・指第九号健康政策局総務課長・指導課長連名通知(以下「平成五年通知」という。)により、ご配意いただいているところであるが、今般、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成十八年法律第八十四号。以下「改正法」という。)において、医療法人の解散時の残余財産は個人に帰属しないこととする等の規定を整備し、医療法人の非営利性に関する規律の明確化を図ったところである。
医療医療法人以外の法人による医療機関の開設者の非営利性の確認について
改正法の趣旨に鑑みれば、医療法人以外の法人についても非営利性の徹底を図ることが必要であることから、今般、医療法人以外の法人が解散した時の残余財産の取扱いについて、医療機関を開設する際に留意すべき点を定めたので、当該法人の開設許可の審査及び開設後の医療機関に対する検査にあたり十分留意の上厳正に対処されたい。
なお、その他の事項については、引き続き平成五年通知に基づいて審査及び指導願いたいが、近年、特定非営利活動法人や、今般の公益法人制度改革による一般社団法人・一般財団法人など、従来の法人と比べて簡易な手続きで法人を設立できる仕組みが整備されてきていることから、平成五年通知に定める「医療機関の開設者に関する確認事項」については、従来以上に慎重に確認の上、対処されたい。
併せて、本通知の旨を各都道府県内関係部局に周知願いたい。
【医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について】(一部抜粋)
第一 開設許可の審査に当たっての確認事項
医療機関の開設許可の審査に際し、開設申請者が実質的に医療機関の開設・経営の責任主体たり得るか及び営利を目的とするものでないか否かを審査するに当たっては、開設主体、設立目的、運営方針、資金計画等を総合的に勘案するとともに、以下の事項を十分に確認した上で判断すること。
なお、審査に当たっては、開設申請者からの説明聴取だけでなく、事実が判断できる資料の収集に努めること。
1 医療機関の開設者に関する確認事項
(1) 医療法第7条に定める開設者とは、医療機関の開設・経営の責任主体であり、原則として営利を目的としない法人又は医師(歯科医業にあっては歯科医師。以下同じ。)である個人であること。
…2 非営利性に関する確認事項等
医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について
(1) 医療機関の開設主体が営利を目的とする法人でないこと。
ただし、専ら当該法人の職員の福利厚生を目的とする場合はこの限りでないこと。
(2) 医療機関の運営上生じる剰余金を役職員や第三者に配分しないこと。
診療所の開設が可能な非営利型一般社団法人とは
非営利型とは「利益追求してはいけない」ということではない
よく勘違いされることが多いのですが、非営利型とは「利益追求してはいけない」ということではありません。
非営利の定義とは一般的に「その法人や団体であげた利益をその法人や団体の関係者に分配しないこと」をいいます。
医療法人においては医療法第54条において同様の趣旨が定義されています。
【医療法第54条】
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
医療法第54条
つまり、非営利型といっても利益を出すことは何ら否定されておらず、出た利益を関係者に分配しなければ全く問題ないということです。
非営利型一般社団法人の要件
次の①から④までをすべて満たす一般社団法人は非営利性が徹底された法人として診療所の開設が可能です。
③と④の要件は非営利性が徹底された一般社団法人ならではの要件となっています。
要件のうち特に抑えておくべきポイント
「特別の利益を与えること」の意義
要件③は「上記①及び②の定款の定めに違反する行為(上記①、②及び下記④の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと」が条件とされていますが、「特別の利益を与えること」とはどういったことでしょうか。
「特別の利益を与えること」の意義として法人税法基本通達1-1-8において次のように記載されています。
【非営利型法人における特別の利益の意義 1-1-8】
令第3条第1項第3号及び第2項第6号《非営利型法人の範囲》に規定する「特別の利益を与えること」とは、例えば、次に掲げるような経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付で、社会通念上不相当なものをいう。(平20年課法2-5「ニ」により追加)
非営利型法人における特別の利益の意義
(1) 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償又は通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること。
(2) 法人が、特定の個人又は団体に対し、無利息又は通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること。
(3) 法人が、特定の個人又は団体に対し、その所有する資産を無償又は通常よりも低い対価で譲渡していること。
(4) 法人が、特定の個人又は団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を賃借していること又は通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること。
(5) 法人が、特定の個人又は団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていること又は法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること。
(6) 法人が、特定の個人に対し、過大な給与等を支給していること。
なお、「特別の利益を与えること」には、収益事業に限らず、収益事業以外の事業において行われる経済的利益の供与又は金銭その他の資産の交付が含まれることに留意する。
この記載をそのまま読み取ると例えば、「従業員社宅や役員社宅として通常の家賃よりも低い家賃で貸し出した場合には特別の利益を与えることに該当し、非営利性が徹底された一般社団法人になることができない」と理解してしまいがちですが、それは誤りです。
この点においては法人税法基本通達1-1-8の解説において「一般社団法人が所有する建物を特定の個人に対して通常よりも低い家賃で貸し出していたとしても、それが特定の個人に対して給与課税が行われない、あるいは寄附金とされない程度であれば特別の利益にはあたらない」と記載されています。
つまり、特定の個人に対して社会通念上相当の範囲内の利益供与であれば特別の利益には該当しないということです。
「行ったことがないこと」とされている
要件③では「上記①及び②の定款の定めに違反する行為(上記①、②及び下記④の要件に該当していた期間において、特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含みます。)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと」が条件となっており、「行ったことがないこと」とされています。
剰余金の配当をしたり特別の利益を与えてしまった場合に、税務署から一回でも「非営利性が徹底された法人に該当しない」と判断されてしまうと、それ以降二度と非営利性が徹底された法人になることはできません。
非営利性が徹底された法人でなければ診療所の開設ができないため、「非営利性が徹底された法人に該当しない」と判断されてしまうと最悪の場合には診療所の閉鎖に追い込まれてしまう可能性がありますので、ご注意ください。
医療法人と一般社団法人の違い
以下の図が医療法人、一般社団法人の違いのうち重要な点を完結に表したものになります。
一般社団法人のメリット
いつでも法人設立することが可能で、かつ、法人設立に必要な期間が短い
医療法人を設立する場合には各都道府県の認可を受ける必要がありますが、その認可申請は各都道府県ごとに毎年決まっている時期でなければ申請をすることができず、また、その認可を受け医療法人の設立がされるまでには一般的に6ヶ月程度の期間が必要です。
しかし、一般社団法人であれば、各都道府県の認可を受ける必要はなく公証役場での定款認証さえ完了すれば、いつでも一般社団法人を設立することができますので一般的に2週間程度の期間があれば設立可能です。
このように、一般社団法人の場合にはいつでも法人設立することが可能で、かつ、法人設立に必要な期間が短いことからスピーディに法人設立したい方には一般社団法人での診療所開設がオススメです。
代表者が医師や歯科医師に限定されない
医療法人の代表者である理事長は医師や歯科医師であることが必要です。
例外として、医師や歯科医師でない方が理事長に選任できる特例もありますが、都道府県の認可のハードルは極めて高いです。
記事にもしておりますのでご興味のある方はご確認ください。
しかし、一般社団法人の代表者である理事長は医師や歯科医師に限定されませんので、医師や歯科医師でない方でも理事長に就任することが可能です。
そのため、
「子供は医師にはならなかったけど、医療従事者として勤務しているので承継したい!」
「子供は医師にはならなかったけど、孫が医学部に合格したのでいずれ孫に承継したい!」と考える方には一般社団法人での診療所開設がオススメです。
医療や付帯業務以外の業務も可能
医療法人で行うことができる業務には医療とその付帯業務に制限されています。
しかし、一般社団法人は医療法人ではないことから医療法人で課される様々な規制を受けずに事業を行うことが可能です。
そのため、定款の目的を変更さえすれば医療や付帯業務以外の業務も自由に行うことができるため、医療法人よりも自由度が高いです。
社員1人1議決権以外も可能
医療法人と一般社団法人の社員の役割は「最高意思決定機関」であり、社員の集まりである社員総会の決議によって理事・監事の選任・解任や定款の変更、社員の入社・除名を決定することができます。
医療法第46条の3の3第1項に記載されているとおり、医療法人では社員1人につき1つの議決権しか持つことができません。
【医療法第46条の3の3】
社員は、各一個の議決権を有する。
医療法第46条の3の3
しかし、一般社団法人では一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条に記載されているとおり、定款で別段の定めをすることで社員1人が複数の議決権を持つこともできます。
【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条】
社員は、各一個の議決権を有する。ただし、定款で別段の定めをすることを妨げない。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条
2 前項ただし書の規定にかかわらず、社員総会において決議をする事項の全部につき社員が議決権を行使することができない旨の定款の定めは、その効力を有しない。
そのため、定款を変更さえすれば社員となっている理事長や次期理事長の議決権を増やし、より安定した法人運営を行うこともできます。
株式会社が社員となり議決権行使することが可能
医療法人の場合、厚生労働省医政局長通知に記載されているとおり自然人および営利法人以外の法人は社員になることができ、議決権を行使することが可能です。
つまり、株式会社は医療法人の社員になることができません。
【厚生労働省医政局長通知】医政発0325第3号平成28年3月25日(4ページ目)
社員は、各一個の議決権を有する。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第48条
厚生労働省医政局長通知
医政発0325第3合平成28年3月25日(4ページ目)
③社団たる医療法人の社員には、自然人だけでなく法人(営利を目的とする法人を除く。)もなることができること。
一般社団法人の社員については特段の規制は無いことから、別途設立した株式会社を社員として就任させ、議決権を行使することが可能です。
自然人が社員だと亡くなってしまった場合に、人選で苦労することもありますが、株式会社を社員に就任させれば、その株式会社を清算しない限り永久に社員として就任させ続けることが可能です。
一般社団法人のデメリット
まだまだ前例が少なく診療所開設のハードルが高い
一般社団法人による診療所開設は平成25年の公益法人制度改革によって本格的に始まったことから前例が少なく、前例主義である保健所では初めから開設を断られたり、開設許可を貰えるまでに時間がかかる可能性があり、結果として医療法人設立と同様の期間がかかる場合もあります。
また本院開設後、数年経過してから分院を開設する場合、分院開設予定地の保健所からも開設許可を受ける必要があるため、分院開設時にも高いハードルを乗り越える必要があります。
非営利性が徹底された法人に該当しなくなると診療所閉鎖に追い込まれる可能性がある
非営利性が徹底された法人でなければ診療所の開設ができないため、「非営利性が徹底された法人に該当しない」と税務署に判断されてしまうと最悪の場合には診療所の閉鎖に追い込まれてしまう可能性もありますので、充分にご注意ください。
今後の法改正によって医療法人と同様の規制になる可能性がある
現時点では医療法人と比較すると使い勝手の良い一般社団法人ですが、今後の法改正によって医療法人と同様の規制になる可能性がありますのでご注意ください。
まとめ
医療法人よりも使い勝手が良いという理由で一般社団法人による診療所・クリニック開設が選ばれています。
ただ、一般社団法人での診療所開設は前例が少ないことから、保健所によっては「前例がないので許可できない」と言われたり「一般社団法人ではなく医療法人で開設してください」と言われることも多いことから、多くの知識・経験を必要とします。
私たちは開業医・医療法人専門の税理士法人ですので、一般社団法人による診療所開設についても熟知しております。
その他、税務顧問業務、医院経営に関するご相談、事業(医業)承継対策も対応可能ですので、ぜひご相談ください。
医療専門の税理士法人シーガルでは
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