【医療法人専門税理士が徹底解説】医療法人M&A相場とスキーム4選

この記事の監修者

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!

茅ヶ崎駅から徒歩4分の個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。

医療法人の理事長とお話すると、様々なM&A仲介会社からご自宅にM&Aの封書が届いていると多々お聞きします。


昨今、一般の株式会社でも後継者不足によりM&Aが多くなっておりますが、医療法人では理事長が原則医師または歯科医師でなければならないので、医療法人は一般の株式会社よりも後継者不足が叫ばれています。

そこで、M&Aを少しでも検討されている場合に是非知っておいていただきたい、医療法人のM&A相場とスキーム4種類について解説していきます。

この記事は次の方にオススメです。

・M&Aに興味があるが相場がわからない方

・M&Aのスキームについて知りたい方

もくじ

M&Aとは

M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略であり、その名のとおり企業の合併や買収を意味しています。

通常M&Aというと、合併や買収だけでなく提携を含めることもありますが、今回は医療法人の合併や買収に絞って解説いたします。

医療法人M&Aの目的

売手(譲渡)側の目的

後継者問題を解決できる

医療法第46条の6に規定されているように、医療法人の理事長には原則、医師又は歯科医師でないと就任することができません。

これは医師又は歯科医師でない人の実質的な支配下にある医療法人において、医学的知識がないことを理由に問題が起きてしまうことを未然に防止しようとするためです。

医療法第46条の6
医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。ただし、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師又は歯科医師でない理事のうちから選出することができる。

ただし、一定の場合には医師や歯科医師以外であっても医療法人に理事長になることはできますが、都道府県の認可のハードルが極めて高かったり、後継者に承継したあとの医療法人の体制が整わない可能性もあったりと、医療法人は一般の株式会社よりも後継者問題に悩まされているのが実状です。

ご家族が医師や歯科医師でない場合や、医師や歯科医師ではあるが医療法人を継ぎたくないと言われている場合には、M&Aをすることで後継者問題に悩むことはなくなります。

医師や歯科医師以外が医療法人の理事長になれる場合については以下の記事で解説しておりますので、ご興味のある方は見てください。

従業員の雇用や地域医療を守ることができる

医療法人をM&Aしないとすると基本的には閉院しか手段が無くなってしまいますが、閉院してしまうと長年勤めている従業員は新たに働き口を見つけなければならず、親子代々にわたって通院している患者様は新たにかかりつけ医を見つけなければならず、大変な思いをすることになります。

このような場合に、M&Aの契約次第では従業員を継続して雇用してもらったり、今まで来ていただいていた患者様に対して今後も診療してもらうことが可能となりますので、M&Aにより従業員の雇用や地域医療を守ることができます。

連帯保証から開放され、創業者利益を確保できる

医療法人が金融機関からの融資を受ける場合には、融資審査を通りやすくするために理事長個人の連帯保証や理事長個人所有の資産の担保提供などを行っているケースが多いと思います。

こういった理事長個人の連帯保証や資産の担保提供は非常に大きな精神的負担になっています。

M&Aをすることでこのような連帯保証や資産の担保提供からも開放され、創業者が出資者であれば持分譲渡や退職金として対価を受け取ることができることから、創業者利益を確保することができます。

買手(譲受)側の目的

素早くグループを拡大することができる

本院がある医療法人が新たに診療所や病院を設立するとコストや手間が掛かりますが、診療所や病院を運営している医療法人をM&Aにより買収するとコストや手間を減らしながら、素早くグループを拡大することができます。

そのため、グループで急成長している大手の医療法人は積極的にM&Aを行っています。

人材確保や患者の確保が可能になる

医療法人は医療設備や立地も大事ですが、一番大事なのは優秀な医師や看護師、医療事務などのスタッフの確保です。

どの業界でも同じですが、医療業界においても人手不足が続いています。

新規で求人を出しても希望する人材が集まらないため、人材紹介会社を使用しての募集により多額の人材紹介料を掛けて何とか人材を確保している医療法人も多いです。

しかしながら、M&Aで医療法人を買収できれば売り手側の医療法人で勤務するスタッフをそのまま引き継ぐこともでき、優秀な人材を確保することができます。

また、1から診療所や病院を開設する場合には、地域住民に認知してもらい、診療に満足してもらって初めて、患者を確保することになりますので、時間的な労力も多いです。

ただ、M&Aで医療法人を買収できれば、売り手側の医療法人にかかっている患者もそのまま引き継げる場合が多いので、短期間で医業収入を確保することができます。

病床過剰地域においても病床の確保ができる

全国で統一されている算定式により計算された基準病床数を既存の病床数が上回る場合には、厚生労働省はその地域の病院や診療所の病床増加を許可しないことがあります。

そのため、新規の増床が困難な病床過剰地域の場合には、既存の病床を持っている医療法人をM&Aにより買収することで、実質的に増床するといった手段を取ることが可能です。

M&Aの相場

医療法人のM&Aにおける医療法人の価値(売買価格)の相場は以下の計算式により計算することが一般的です。

つまり、純資産時価が1億円、営業利益が2,000万円の場合の売却価格相場は1億6,000万円から2億円になるということです。

類型別のM&A手法(スキーム)

医療法人の種類(持分あり・なし)

医療法人の種類によってM&Aの手法は異なってきますので、まずは医療法人の種類を整理いたします。

医療法人には出資持分がある医療法人、出資持分のない医療法人の2種類があります。

持ち分とは「退社したときに退社した人が出資した割合に応じて医療法人から払い戻しを受けたり、また医療法人を廃業するときに医療法人に残った財産を出資した人が出資した割合に応じて分けてもらえること」をいいます。

つまり、1人が1,000万円分の現金を出資や基金拠出して設立された医療法人が数十年後に廃業することが決定し、1億円の現金が残っているとします。

そのような場合に、持ち分あり医療法人では1人が1,000万円を出資していますので、医療法人解散時に1億円の現金が返還されますが、持ち分なし医療法人では1人が1,000万円を基金拠出していたとしても、基金拠出した金額の1,000万円までしか返還されず、残りの9,000万円は国等に寄付されることになります。

持ち分あり医療法人で使える出資持分の譲渡

持ち分あり医療法人は経過措置型医療法人(旧法医療法人)ともいわれており、2007年4月以降設立ができない医療法人です。

持分あり医療法人は金銭その他の資産(不動産や医療機器)の出資により設立された医療法人となり、医療法人の出資は株式会社でいう株式と同じようなイメージで財産権があります。

したがって、持ち分あり医療法人では出資持分を譲渡することにより、医療法人を譲渡することが可能です。

医療法人の多くは出資者、理事長(理事)、社員を兼務しておりますが、そのうち出資者としての立場として出資持分を譲渡して出資者を交代しながら、理事長(理事)、社員を交代するという流れになります。

出資持分自体には経営権が伴わないため、出資持分を譲渡しながら社員を交代して初めてM&Aが成立することになりますので、ご留意ください。

持ち分なし医療法人で使える基金の譲渡

持ち分なし医療法人は新法医療法人ともいわれており、2007年4月以降は持ち分なし医療法人のみしか設立できません。

持分なし医療法人は金銭その他の資産(不動産や医療機器)の基金拠出により設立された医療法人となり、基金拠出は医療法人に対する貸付金とほぼ同じイメージです。

したがって、持ち分なし医療法人では基金を譲渡することにより、医療法人を譲渡することが可能です。

持ち分あり医療法人と同じように基金を譲渡して基金拠出者を交代しながら、理事長(理事)、社員を交代するという流れになります。

基金拠出自体には経営権が伴わないため、基金拠出を譲渡しながら社員を交代して初めてM&Aが成立することになりますので、ご留意ください。

医療法人の合併

医療法人の合併とは、2つ以上の医療法人を1つの医療法人に統合することをいいます。

医療法人の合併には「新設合併」と「吸収合併」の2種類があります。

「新設合併」は新たに医療法人を設立しその医療法人に2以上の医療法人の権利や義務をすべて承継させるのに対して、「吸収合併」は既に設立済みの医療法人にもう1つの医療法人の権利や義務のすべてを承継させることになります。

一般的には「吸収合併」を採用するケースが圧倒的に多く、「新設合併」を選択するケースは極めて稀です。

医療法人の合併を行うには各都道府県知事の認可を受けなければなりませんので注意が必要です。

医療法人の分割

医療法人の分割とは、ある医療法人が行っている特定の事業をその医療法人から切り離し、別の医療法人に引き継ぐことをいいます。

医療法人の分割は平成27年の医療法改正により認められるようになったスキームですが、現在においても特定医療法人、社会医療法人、持分あり医療法人は分割が認められておりません。

医療法人の分割には「新設分割」と「吸収分割」の2種類があります。

医療法人から分割する特定の事業をどのように承継するのかに違いがあり、「新設分割」は新しく設立する医療法人に承継、「吸収分割」は既に設立されている医療法人に承継することになります。

一般的には「吸収分割」を採用するケースが圧倒的に多く、「新設分割」を選択するケースは極めて稀です。

医療法人の事業譲渡

医療法人の事業譲渡とは、ある医療法人が持っている資産や負債のそれぞれに対して個別に契約を結び、別の医療法人に引き継ぐことをいいます。

前述の「分割」では、C医療法人のある診療所を譲渡する場合に、「その診療所を丸ごと譲渡します」という包括的な契約が可能であるのに対して、「事業譲渡」では医療機器、内装設備、医業未収金、買掛金・未払金などに分けて引き継ぐことになります。

M&Aスキーム毎のメリット・デメリット

出資持分の譲渡または基金拠出の譲渡の場合

メリット:他のスキームと比較すると手続き負担が少ない

出資持分の譲渡および基金拠出の譲渡は医療法人のM&Aにおいて最も多く利用されているM&Aスキームです。

社団医療法人においては社員が最高意思決定機関となりますので、出資持分または基金拠出を譲渡しながら社員を交代してM&Aの対象医療法人の経営権を取得します。

その後、交代後の社員によって新たな理事を選任し、新たな理事の中から理事長を選出することでM&Aが完了します。

実際の手続きとしては主に出資持分または基金拠出の譲渡契約の締結、社員総会や理事会の決議、役員変更の届出、役員変更登記申請が必要となるだけですので、手続き負担が少ないです。

デメリット:過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクがある

出資持分の譲渡および基金拠出の譲渡により社員を交代することになると経営権を取得することになりますので、経営権を取得後、過去の医療事故や従業員の賃金未払が発覚した場合にはその金銭的負担が発生するリスクがあります。

こうしたリスクを最小限にするため、M&Aの実行前には法務・財務・労務デューデリジェンスを行い、対象の医療法人にリスクが無いことを事前に確認したり、M&Aの契約時には「売手が買手に対して、一定の時点における一定の事項が真実であり正確であることを表明し、かつ、その内容を保証する」ための表明保証条項を設けることが必要です。

医療法人の合併

メリット:吸収合併の場合、売手と買手の医療法人が1つになるためシナジー効果による収益の増加や費用の削減が期待できる

医療法人の合併は出資持分または基金拠出の譲渡の次に多く利用されるM&Aスキームです。

吸収合併を行うと買手の医療法人が消滅し売手の医療法人に権利や義務が包括承継されることになります。

医療法人が1つになることによって医療法人の認知度の向上による医業収入の増加や従業員の人員配置を柔軟に行うことによる費用の削減が可能になります。

デメリット:手続きが複雑であり、M&A完了までに1年以上かかる可能性が高い

医療法人の合併を行うには医療審議会による各都道府県知事の認可を受けなければなりませんが、医療審議会は年3~4回程度しか開催されません。

また、合併を行うには債権者保護手続という法定の手続きを行わなければなりません。したがって、医療法人の合併にかかる手続きは手続きが複雑で、かつM&Aが完了までに1年以上かかることが多いです。

捕捉ですが、合併は権利や義務を包括承継することから、合併においても過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクがあります。

医療法人の分割

メリット:医療法人の一事業をM&Aすることができるため柔軟に対応可能

分割と事業譲渡以外のM&Aスキームでは医療法人の全てをM&Aする必要があるのに対して、分割と事業譲渡はたとえば複数の医院を経営している医療法人でM&Aする医院と残す医院を自由に選ぶことができることから、柔軟に対応することが可能です。

デメリット:持分なし医療法人しか利用できず、また、比較的新しい制度であることから事例が少ない

分割は持分なし医療法人しか利用できませんので、そもそも持分あり医療法人の場合には検討の対象外となってしまいます。

また、分割という制度自体が平成28年9月より新しく開始された制度であり、事例が少ないです。

分割も合併と同様に医療審議会による各都道府県知事の認可を受ける必要がありますが、そもそもの事例が少ないことから、分割が完了するまでに1年以上かかる可能性が高いです。

捕捉ですが、分割も合併と同様に権利や義務を包括承継することから、過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクがあります。

事業譲渡

メリット:M&A対象範囲を細かく決定することができるため、過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクが極めて少ない

分割と事業譲渡は一見同じように見えますが、分割は権利義務を包括承継しますが、事業譲渡は権利義務を包括承継せず資産や負債、権利義務を個別にM&Aすることになります。

そのため、事業譲渡ではM&A対象範囲を細かく決定することができますので、過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクが他のどのスキームよりも少ないです。

メリット:権利義務を包括承継しないことから、手続きが煩雑

事業譲渡は権利義務を包括承継しないことから、過去の医療事故や従業員の賃金未払などの偶発債務を負うリスクが極めて少ないですが、それはデメリットにもなります。

例えば、複数分院展開をしている医療法人の1つの診療所を事業譲渡した場合には、診療所の廃止届・保険医療機関の廃止届を行ったあとに新たに診療所の開設届・保険医療機関の指定申請を行う必要があったり、借入金や薬品仕入の買掛金も移転する場合には、各債権者からそれぞれ同意をしてもらう必要があったりと手続きがとても煩雑です。

参考:スキーム毎の比較表

以下は、スキーム毎の比較表です。

まとめ

医療法人のM&Aの相場は、純資産価額+営業利益の2~3倍です。

また、M&Aのスキームは4種類ありますがメリット・デメリットはそれぞれにありますので、状況にあったスキームを採用する必要があります。

個人的には、出資持分または基金拠出を譲渡しながら社員を交代し経営権を渡していく方法が一番オススメと思っています。

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