【医療専門税理士が解説】医療法人の人件費率相場と賃上げのポイント

この記事の監修者

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!

個人開業医・医療法人専門の税理士法人シーガルです。

令和6年度診療報酬改定においてベースアップ評価料というものが新設され、医療法人の理事長から賃上げについて質問を受けることが多くなってきました。


医療法人の経費のうち人件費は一番多くを占めますので、その人件費が上昇してしまうと医療法人の経営に大きな影響を与えてしまうことから慎重な判断が必要です。

今回は、人件費・人件費率とは、医療法人の人件費率相場、賃上げの方法とポイントについて解説していきます。

この記事は次の方にオススメです。

・人件費率相場について知りたい方

・賃上げについて悩まれている方

もくじ

人件費・人件費率とは

人件費とは医療法人で雇用している人に対して関係する費用を合計したものを言い、具体的には役員報酬・給与・賞与・雑給・法定福利費(社会保険料)などの合計額です。

外注費や業務委託料などは外部に対して支払うものなので人件費には含めないことが多いです。

また、人件費率とは医業収益に対して人件費が占めている割合のことを言い、たとえば医業収益が1億円の場合に人件費が4500万円だとすると、人件費率は45%(4500万円÷1億円)になります。

他の医療法人と比較して人件費率が高い場合には「本来この従業員数(人件費)であればもっと医業収益を出せるはずなのに、従業員を有効活用できておらず、医業収益が伸びていない」と考えた方が良いでしょう。

「従業員に対してしっかりお給料を支払っている」と考えることもできますが、保険診療が医業収益の柱である医療法人だと他の医療法人と比較して極端に人件費率を増やしてしまうと、医療法人が赤字になってしまったり、借入金の返済が滞ってしまったりと、他のどこかに皺寄せが出てしまうことが多いです。

人件費率の相場

保険診療が医業収益の柱である場合には、人件費率が他の医療法人と比較して高いと皺寄せが来てしまうとお伝えしましたが、人件費率の相場はあるのでしょうか。

実は人件費率の相場を確認することが可能です。

病院、医科診療所、歯科診療所に分けて相場を確認していきましょう。

病院の人件費率の相場

病院の人件費率の相場は厚生労働省が出している「病院経営管理指標」にて確認することが可能です。

参考 厚生労働省 病院経営管理指標

こちらは、医療法人が開設する病院や公的医療機関及び社会保険関係団体病院の開設する病院を対象とした調査・報告を基に集計したものになります。

記事執筆時点においては令和3年度分が最新ですので、そちらを確認していきましょう。

病院経営管理指標の資料はページ数が多く全537ページもありますので、目次を見て気になったページを見ることをオススメします。

病院経営管理指標の資料は様々な分類ごとに分けられており、一般病院、ケアミックス病院、療養病院、精神科病院に分けて確認することも可能です。

例えば、一般病院の医療法人であれば5ページ目に人件費率が載っており、全国平均で55.9%となっているため、55.9%が人件費率の相場となります。

医科診療所の人件費率の相場

医科診療所の人件費率の相場は厚生労働省が出している「医療経済実態調査」にて確認することが可能です。

参考 第24回医療経済実態調査

医療経済実態調査は医療法人開設と個人開設によって集計が分かれています。

記事執筆時点においては令和5年実施の第24回医療経済実態調査が最新ですので、そちらを確認していきましょう。

例えば、医科診療所で入院診療収益なしの医療法人であれば25ページ目に人件費率が載っており、全国平均で49.0%となっているため、49.0%が人件費率の相場となります。

歯科診療所の人件費率の相場

歯科診療所の人件費率の相場も「医療経済実態調査」にて確認することが可能です。

例えば、歯科診療所で医療法人であれば28ページ目に人件費率が載っており、全国平均で48.0%となっているため、48.0%が人件費率の相場となります。

賃上げとは

賃上げとは、従業員の賃金・給料を増額することを言います。

賃上げの方法としては、基本給の水準を引き上げるベースアップ(ベア)と年齢・勤続年数・業績・資格などに応じて定期的に引き上げる定期昇給の2つがあります。

なお、一時手当を付けたり、臨時賞与を支給することも広義の意味での賃上げに含まれます。

賃上げで抑えておきたい3つのポイント

賃上げの方法ごとの影響を理解しているか

賃上げといっても様々な方法があり、方法毎に影響が変わってきます。

ベースアップ、定期昇給、一時手当、臨時賞与に分け特徴を整理しました。

ベースアップの特徴

ベースアップにより基本給が上がることから、新たに従業員を採用する際に有利になったり、既存の従業員の退職防止にも繋がります。

ベースアップした基本給を下げるにはハードルがとても高く、基本的には下げることができないと考えた方が良いでしょう。

そのため、ベースアップをした年だけではなく、以降全ての年の人件費が増えてしまうことから、医療法人の金銭負担が大きいです。

既存の従業員の退職防止だけではなく、新たに従業員を採用することを考えるのであればベースアップにて賃上げをすることがオススメです。

定期昇給の特徴

定期昇給は既存の従業員向けに行うものであることから、新たに従業員を採用する際には何ら影響を与えませんが、既存の従業員は年齢・勤続年数・資格などに応じて基本給が上がることから、退職防止に繋がります。

定期昇給はあくまでも、全員一律で基本給そのものを引き上げる訳ではありませんので、ベースアップと比較すると金銭的負担が少ないです。

新たに従業員を積極的に採用する必要がなく、今いる従業員の雇用を維持したいのであれば定期昇給にて賃上げをすることがオススメです。

一時手当の特徴

物価が高騰している現時点においては、インフレ手当を支給する会社も増えてきており、そのような手当は一時手当と呼ばれます。

一時手当は既存の従業員だけではなく、新たに採用する従業員に対しても支給することから、新規採用や退職防止に繋がります。

また、例えばインフレ手当であれば物価高騰のために支給した手当であるということが、従業員側からしても簡単に理解することが可能です。

ただし、一時手当であったとしても明確に手当の支給要件を決めていない場合には、他の手当と同様に恒常的なものと従業員に捉えられ、将来的に一時手当を廃止しようと思った際に、廃止することが困難になります。

繁忙期に繁忙手当を支給したい、物価が高騰している時期にインフレ手当を支給したいなど支給意図が明確な場合には一時手当を支給して賃上げをすることがオススメです。

臨時賞与

臨時賞与は既存の従業員に対して一時的に支給するものであり、次回以降も継続されるものではないことから退職防止には繋がりません。

ただし、経営者側からすると臨時賞与は柔軟に支給額を変えることができますので、他の賃上げ方法と比較すると金銭的負担が少ないです。

医療法人の利益が多額、従業員が頑張ってくれたので今回は特別に従業員に還元したいという場合には、臨時賞与を支給して賃上げをすることがオススメです。

医療法人の利益は出ているか、もしくは出る見込みがあるか

賃上げの原資は医療法人の利益となりますので、医療法人の利益が出ている若しくは出る見込みがなければ、賃上げをしたとしても長く続きません。

そのため、医療法人の利益が出ない若しくは出ない見込みであれば、その年の賃上げは控えた方がよいでしょう。

事前に賃上げの影響額を計算しているか

賃上げをする前には今回の賃上げが医療法人全体でどれくらいの影響額になるのか計算しましょう。

例えば、全従業員一律で2.5%のベースアップを行うとした場合、基本給25万円の従業員が10名いるとすると基本給のベースアップ分だけで750,000円の増加、そしてさらに医療法人負担の社会保険料も増加しますのでその増加も合計すると、2.5%のベースアップにより年間850,000円も人件費が増加する可能性がございます。

賃上げすることで使える税額控除

従業員に払う給与額を前年より増加させた場合、一定の要件を満たしていればその増加額の一部を法人税から控除することができる制度のことを「賃上げ税制」といいます。

賃上げ税制の詳細については細かい点が多いため割愛いたしますが、気になる方は経済産業省が出している「中小企業向け 賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」をご参照ください。

賃上げ税制の適用要件のイメージとしては従業員(親族は除く)に支払った1年間の給与・賞与総額が前年と比較して1.5%以上増加した合には増加した給与・賞与総額の15%を法人税から控除(ただし、法人税の20%が上限)できます。

また、もし従業員(理事長本人や親族は除く)の研修費用を負担しており、1年間の研修費用総額が前年と比較して10%以上増加した場合には控除率が10%と上乗せされ、増加した給与・賞与総額の25%を法人税から控除(ただし、法人税の20%が上限)できます。

賃上げ税制は従業員の賃上げをした法人に対して税額控除を取ることができるという大きな税メリットがありますので、積極的に活用しましょう。

まとめ

令和6年度診療報酬改定ではベースアップ評価料というものが新設されましたので、どの医療法人においても賃上げを検討されている状況と思います。

賃上げというのは短期的な目線で見てしまうと人件費が増加するというデメリットばかり目立ってしまうものですが、長期的な目線で見ると新規採用確立の上昇や既存従業員の退職防止に繋がる面もあります。

賃上げの影響は賃上げを行った年だけではなく、それ以降の年にも影響を与えてしまうことが多いので慎重に検討することをオススメします。

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