【医療専門税理士解説】ベースアップ評価料と賃上げ税制への対応

この記事の監修者

中込政博
税理士法人シーガル
代表社員 税理士・公認会計士

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤大樹
税理士法人シーガル
代表社員 税理士

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、医療専門の税理士法人シーガルを設立。
医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継も対応できます!

医療専門の税理士法人シーガルです。

令和6年度診療報酬改定において医師や歯科医師の方を除く医療従事者の賃上げを目的としたベースアップ評価料が新設されました。


保険医療機関において影響が大きい改定になっており、私たちも複数の顧問先から内容や対応方法についてご相談を受けている状況です。

そこで今回は、ベースアップ評価料と賃上げ税制について解説していきます。

この記事は次の方にオススメです。

・ベースアップ評価料を算定しようか悩んでいる方

もくじ

賃上げには2種類ある

ベースアップ評価料について解説する前に、賃上げについて整理していきましょう。

賃上げには2種類あります。

1つめが基本給の水準そのものを引き上げるベースアップ(ベアともいわれます)、2つめが年齢・勤続年数・業績・資格などに応じて定期的に引き上げる定期昇給です。


今回のベースアップ評価料はその名のとおり定期昇給ではなくベースアップに関する評価料ですので定期昇給は含まれないことをご理解ください。

ベースアップ評価料の概要

ベースアップ評価料は医療従事者の賃上げや人材確保に対する取り組みとして令和6年度診療報酬改定により新設されました。

ベースアップ評価料により算定した収入は原則全額ベースアップに充てることが必要です。

令和6年度に2.5%のベースアップ、令和7年度に2.0%のベースアップを実現するために、今回のベースアップ評価料だけではなく、賃上げ税制を活用を組み合わせる必要があります。

ベースアップ評価料とは

看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種(40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者を除く)について賃上げを実施していくための評価料です。

新設されたベースアップ評価料は大きく7種類あり、今回は赤枠内の「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)、(Ⅱ)」と「歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)、(Ⅱ)」に絞って解説いたします。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)とは

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、外来医療又は在宅医療を実施している医療機関(医科)において、勤務する看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金の改善を実施している場合の評価として新設されました。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)においては1.2%のベースアップを前提としております。

保険点数

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)で算定できる保険点数は以下のとおりです。

いずれの医療機関においても一律の点数設定になっていることが特徴です。

施設基準

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の施設基準は以下のとおりです。

① 外来医療又は在宅医療を実施している保険医療機関であること。

② 主として医療に従事する職員(医師及び歯科医師を除く。以下「対象職員」という。)が勤務していること。対象職員は以下に示す職員であり、専ら事務作業(医師事務作業補助者、看護補助者等が医療を専門とする職員の補助として行う事務作業を除く)を行うものは含まれない。

③ 当該評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善(定期昇給によるものを除く。)を実施しなければならない。

④ ③について、当該評価料は、対象職員のベア等及びそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費(事業者負担分等を含む)等の増加分に用いること。ただし、ベア等を行った保険医療機関において、患者数等の変動等により当該評価料による収入が上記の支給額を上回り、追加でベア等を行うことが困難な場合であって、賞与等の手当によって賃金の改善を行った場合又は令和6年度及び令和7年度において翌年度の賃金の改善のために繰り越しを行う場合(令和8年12月までに賃金の改善措置を行う場合に限る。)についてはこの限りではない。いずれの場合においても、賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと。なお、当該評価料によって賃金の改善を実施する項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない。

⑤ 令和6年度に対象職員の基本給等を令和5年度と比較して2.5%以上引き上げ令和7年度に対象職員の基本給等を令和5年度と比較して4.5%以上引き上げた場合については、40歳未満の勤務医及び勤務歯科医並びに事務職員等の当該保険医療機関に勤務する職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善(定期昇給によるものを除く。)を実績に含めることができること。

⑥ 「賃金改善計画書」及び「賃金改善実績報告書」を作成し、定期的に地方厚生(支)局長に報告すること。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)とは

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)は、外来医療又は在宅医療を実施し、入院医療を実施していない診療所であって、勤務する看護職員、薬剤師その他の医療関係職種の賃金のさらなる改善を必要とする医療機関において、賃金の改善を実施している場合の評価として新設されました。

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)において1.2%のベースアップが実現できない医療機関に対する救済のようなイメージです。

保険点数

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)で算定できる保険点数は以下のとおりです。

施設基準

外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の施設基準は以下のとおりです。

① 入院基本料、特定入院料又は短期滞在手術等基本料(短期滞在手術等基本料1を除く。)を算定していない保険医療機関であること。

② 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を届け出ている保険医療機関であること。

③ 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込みの10倍が、対象職員の給与総額の1.2%未満であること。

④ 下記の式【A】に基づき、該当する区分のいずれかを届け出ること。ただし、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の施設基準の届出を行う場合は、同一の区分を届け出ること。

画像引用:厚生労働省保健局医療課 令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】

⑤ (4)について、届出に当たっては、別表に示した期間において【A】の算出を行うこと。
また、別表のとおり、毎年3、6、9、12月に上記の算定式により新たに算出を行い、区分に変更がある場合は算出を行った月内に地方厚生(支)局長に届出を行った上で、翌月から変更後の区分に基づく点数を算定すること。
ただし、前回届け出た時点と比較して、「対象職員の給与総額」、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込み」、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)及び歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の算定回数の見込み」及び【A】のいずれの変化も1割以内である場合においては、区分の変更を行わないものとすること。
新規届出時は、直近の別表の「算出を行う月」における対象となる期間の数値を用いること。ただし、令和6年6月3日までに届出を行った場合は、令和6年6月に区分の変更を行わないものとすること。

⑥ 当該評価料を算定する場合は、令和6年度及び令和7年度において対象職員の賃金(役員報酬を除く。)の改善(定期昇給によるものを除く。)を実施しなければならない。

⑦ (6)について、当該評価料は、対象職員のベア等及びそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費(事業者負担分等を含む)等の増加分に用いること。ただし、ベア等を行った保険医療機関において、患者数等の変動等により当該評価料による収入が上記の支給額を上回り、追加でベア等を行うことが困難な場合であって、賞与等の手当によって賃金の改善を行った場合又は令和6年度及び令和7年度において翌年の賃金の改善のために繰り越しを行う場合(令和8年12月までに賃金の改善措置を行う場合に限る。)についてはこの限りではない。いずれの場合においても、賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと。なお、当該評価料によって賃金の改善を実施する項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く。)の水準を低下させてはならない。


⑧ 「賃金改善計画書」及び「賃金改善実績報告書」を作成し、定期的に地方厚生(支)局長に報告すること。

⑨ 常勤換算2人以上の対象職員が勤務していること。ただし、医療資源の少ない地域に所在する保険医療機関にあっては、当該規定を満たしているものとする。


⑩ 当該保険医療機関において、以下に掲げる社会保険診療等に係る収入金額の合計額が、総収入の80%を超えること。
ア 社会保険診療(租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第二十六条第二項に規定する社会保険診療をいう。以下同じ。)に係る収入金額(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に係る患者の診療報酬(当該診療報酬が社会保険診療報酬と同一の基準によっている場合又は当該診療報酬が少額(全収入金額のおおむね百分の十以下の場合をいう。)の場合に限る。)を含む。)
イ 健康増進法(平成十四年法律第百三号)第六条各号に掲げる健康増進事業実施者が行う同法第四条に規定する健康増進事業(健康診査に係るものに限る。以下同じ。)に係る収入金額(当該収入金額が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されている場合に限る。)
ウ 予防接種(予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)第二条第六項に規定する定期の予防接種等その他医療法施行規則第三十条の三十五の三第一項第二号ロの規定に基づき厚生労働大臣が定める予防接種(平成二十九年厚生労働省告示第三百十四号)に規定する予防接種をいう。)に係る収入金額
エ 助産(社会保険診療及び健康増進事業に係るものを除く。)に係る収入金額(一の分娩に係る助産に係る収入金額が五十万円を超えるときは、五十万円を限度とする。)
オ 介護保険法の規定による保険給付に係る収入金額(租税特別措置法第二十六条第二項第四号に掲げるサービスに係る収入金額を除く。)
カ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第六条に規定する介護給付費、特例介護給付費、訓練等給付費、特例訓練等給付費、特定障害者特別給付費、特例特定障害者特別給付費、地域相談支援給付費、特例地域相談支援給付費、計画相談支援給付費、特例計画相談支援給付費及び基準該当療養介護医療費並びに同法第七十七条及び第七十八条に規定する地域生活支援事業に係る収入金額
キ 児童福祉法第二十一条の五の二に規定する障害児通所給付費及び特例障害児通所給付費、同法第二十四条の二に規定する障害児入所給付費、同法第二十四条の七に規定する特定入所障害児食費等給付費並びに同法第二十四条の二十五に規定する障害児相談支援給付費及び特例障害児相談支援給付費に係る収入金額
ク 国、地方公共団体及び保険者等が交付する補助金等に係る収入金額

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)とは

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、外来医療又は在宅医療を実施している医療機関(歯科)において、勤務する歯科衛生士、歯科技工士その他の医療関係職種の賃金の改善を実施している場合の評価として新設されました。

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)においては1.2%のベースアップを前提としております。

保険点数

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)で算定できる保険点数は以下のとおりです。

いずれの医療機関においても一律の点数設定になっていることが特徴です。

施設基準

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の施設基準は外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)と同じですので、割愛します。

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)とは

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)は、外来医療又は在宅医療を実施し、入院医療を実施していない歯科診療所であって、勤務する歯科衛生士、歯科技工士その他の医療関係職種の賃金の改善を強化する必要がある医療機関において、賃金の改善を実施している場合の評価として新設されました。

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)において1.2%のベースアップが実現できない医療機関に対する救済のようなイメージです。

保険点数

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)で算定できる保険点数は以下のとおりです。

施設基準

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の施設基準は外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)と同じですので、割愛します。

ベースアップ評価料への考え方とポイント

私たちの顧問先のうち病院では7割、診療所では3割が算定予定

私どもの顧問先に質問してみたところ、病院では7割、診療所では3割の医療機関がベースアップ評価料の算定を予定しているようです。

診療所では算定に必要な手間と診療報酬額を天秤にかけると、算定に必要な手間があまりにも多いことから評価料算定を見送るケースが多いようです。

少しでも医療機関にメリットのある診療報酬改定としてベースアップ評価料を厚労省が新設したにも関わらず算定する医療機関が少なくなってしまうと、次回以降の診療報酬改定が更に厳しくなってしまうことも有りえますので可能な限り、ベースアップ評価料は算定されたほうが良いのではないでしょうか。

「ベースアップ手当」として支給することも検討

多くの方が「基本給」をベースアップしてベースアップ評価料を算定しているようですが、「ベースアップ手当」という新しい手当を設けてベースアップする方法も検討してみてはいかがでしょうか。

令和6年度に新設されたベースアップ評価料が、令和8年度の診療報酬改定で廃止される可能性もあります。

「基本給」をベースアップしてしまうと、評価料が廃止された場合に基本給を減額するのは非常に困難です。

一方、「ベースアップ手当」という手当を新設してベースアップすれば、手当自体を廃止すれば良いので「基本給」の減額よりも比較的容易に対応できます。

賃上げ税制について

賃上げ税制の概要

従業員に払う給与額を前年より増加させた場合、一定の要件を満たしていればその増加額の一部を所得税から控除することができる制度のことを「賃上げ税制」といいます。

記事執筆時点においては中小企業向けの賃上げ促進税制と大企業向けの賃上げ促進税制の2つがありますが、この記事では中小企業向けの賃上げ促進税制を解説いたします。

中小企業向け賃上げ促進税制の適用イメージ

中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件のイメージとしては従業員(親族は除く)に支払った1年間の給与・賞与総額が前年と比較して1.5%以上増加した場合には増加した給与・賞与総額の15%を法人税または所得税から控除(ただし、法人税または所得税の20%が上限)できます。

また、もし従業員の研修費用を負担しており、1年間の研修費用総額が前年と比較して10%以上増加した場合には控除率が10%と上乗せされ、増加した給与・賞与総額の25%を法人税または所得税から控除(ただし、法人税または所得税の20%が上限)できます。



賃上げ税制の詳細については細かい点が多いため割愛いたしますが、気になる方は経済産業省が出している「中小企業向け 賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」または「大企業向け 賃上げ税制ご利用ガイドブック」をご参照ください。

抑えておきたいポイント

ベースアップ評価料と賃上げ税制を活用する際に抑えておきたいポイントは2つあります。

役員報酬だけを増やしても税額控除は受けられない

賃上げ税制は従業員(親族は除く)に支払った1年間の給与・賞与総額が前年と比較して1.5%以上増加した合に、増加した給与・賞与総額の15%を法人税または所得税から控除(ただし、法人税または所得税の20%が上限)できる制度です。

対象の給与・賞与総額には役員報酬が含まれておりませんので、仮に従業員の給与・賞与は増やさずに役員報酬を増額したような場合には税額控除を受けることができません。

医師や歯科医師のベースアップも行わないと適用要件を満たせない可能性が高い

ベースアップ評価料は医師や歯科医師以外の主として医療に従事する職員を対象としています。

そのため医師や歯科医師はベースアップせずに、その他の主として医療に従事する職員のみをベースアップすることを検討する医療機関もあると思いますが、そのような場合には賃上げ税制の適用要件を満たせない可能性が高いと思われます。

具体例として以下の図を作成しましたが、看護師B~Dの基本給をベースアップしたとしても医師Aの基本給をベースアップしないと全体としての増加率が1.5%に満たず賃上げ税制の適用要件を満たせない場合が出てくる可能性が高いです。

まとめ

ベースアップ評価料の対応方法について悩まれている先生が多いと思いますが、ベースアップ評価料は令和6年と令和7年度で調整することも可能です。そのため、まずは厚労省が出しているシミュレーションツールを利用して試算してみては如何でしょうか。

今回の診療報酬改定の目玉の一つでもあるベースアップ評価料を算定する保険医療機関が少なくなってしまうと、今後の診療報酬改定では更に厳しい改定になることも予測されますのでぜひ前向きにご検討していただくことをオススメいたします。


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