医療法人の決算書を確認したとき、役員貸付金が大きく残っていることがあります。
「以前からある数字なので、そのままにしている」
「理事長貸付金が毎年増えているが、何に使ったのか分からない」
「返済した方がよいとは思うが、どう解消すればよいのか分からない」
このようなお悩みは少なくありません。
役員貸付金は、単に決算書の見栄えが悪くなるだけの問題ではありません。
無利息・低利貸付による給与課税、金融機関への説明、医療法上の見え方、医療法人の承継、理事長の相続まで関係する論点です。
役員貸付金は、会計処理だけで無理に消すものではありません。
まず本当に貸付金なのかを確認し、貸付金であれば、実際の返済、退職金等との相殺、返済計画の作成という順番で整理します。
特に注意したいのが、役員貸付金を別の勘定科目へ振り替え、決算書から役員貸付金の表示だけを消す方法です。
たとえば、役員貸付金を建物保証金へ振り替えると、役員貸付金は消えたように見えます。
しかし、医療法人が役員個人に対して持っていた債権が、役員貸付金から差入保証金へ置き換わるだけであり、実質的な回収が行われたわけではありません。
一方で、適正な建物賃貸借契約に基づく保証金として成立していれば、その金額は金銭貸付ではなくなります。
そのため、役員貸付金に対する認定利息を計上する必要は基本的になくなります。
この記事では、医療法人の役員貸付金について、
役員貸付金とは何か
なぜ役員貸付金が発生するのか
放置すると何が問題になるのか
どのような方法で解消できるのか
建物保証金への振替をどう考えるべきか
解消前に準備すべき書類
を順番に解説します。
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- 医療法人の役員貸付金とは
- 役員貸付金はなぜ発生するのか
- 税理士と医療法人の確認不足
- 理事長個人の資金不足を医療法人が補っている
- 私的な支出を法人口座や法人カードで払っている
- 役員貸付金を見つけたときに確認する5つのポイント
- 1.残高の内訳を取引ごとに確認する
- 2.本当に個人への貸付なのかを確認する
- 3.契約書・利率・返済条件を確認する
- 4.理事長個人の返済能力を確認する
- 5.役員貸付金が増え続ける原因を止める
- 役員貸付金を放置する5つのリスク
- 1.認定利息や給与課税の問題が生じる
- 2.医療法人のお金が私的に流出しているように見える
- 3.金融機関からの評価に影響する
- 4.承継や医療法人の整理が難しくなる
- 5.相続時に返済義務の説明が必要になる
- 医療法人の役員貸付金を解消する主な方法
- 1.役員本人が現金で返済する
- 2.役員報酬の手取りから毎月返済する
- 3.役員退職金と相殺する
- 4.基金返還請求権と相殺する
- 5.役員個人の資産を医療法人へ売却する
- 6.すぐに返済できない場合は返済計画を作る
- 建物保証金との相殺は実質的な解消ではない
- 役員貸付金1,500万円を解消する場合の考え方
- やらない方がよい役員貸付金の消し方
- 根拠なく現在の経費へ振り替える
- 無利息のまま放置する
- 返済のためだけに役員報酬を大幅に増やす
- 法人が安易に債権放棄する
- 実態のない保証金や契約書を後から作る
- 帳簿だけで相殺する
- 役員貸付金の整理で用意したい書類
- 役員貸付金はいつまでに整理すべきか
- 医療法人の役員貸付金に関するよくある質問
- 役員貸付金に利息を付ければ放置しても問題ありませんか?
- 金銭消費貸借契約書がなくても、今から作れますか?
- 役員報酬から直接差し引いて返済できますか?
- 建物保証金へ振り替えれば認定利息は不要ですか?
- 基金と役員貸付金はそのまま相殺できますか?
- 理事長が亡くなった場合、役員貸付金はどうなりますか?
- まとめ
- 今の税理士と比較しながら整理したい方へ
医療法人の役員貸付金とは
役員貸付金とは、医療法人が理事長や理事などの役員に貸しているお金です。

医療法人から見ると、役員に返してもらう権利であるため、貸借対照表の資産に計上されます。
一方、役員個人から見ると、医療法人に返済しなければならない借入金です。
たとえば、医療法人の口座から理事長個人へ1,000万円を送金し、返済されていない場合、医療法人には1,000万円の役員貸付金が残ります。
ただし、決算書に役員貸付金と記載されていても、その全額が本当の貸付金とは限りません。
実際には、次のようなものが含まれていることがあります。
内容不明の出金を一時的に役員貸付金として処理している
法人経費の領収書が提出されず、役員貸付金になっている
理事長が立て替えた支出との精算が行われていない
個人が負担すべき支出を法人口座から支払っている
役員報酬や役員賞与として整理すべき経済的利益が含まれている
したがって、最初に確認すべきことは、「どう消すか」ではなく「本当に貸付金なのか」です。
役員貸付金はなぜ発生するのか
役員貸付金が発生する主な原因は、次の3つです。
税理士と医療法人の確認不足
通帳や法人カードに内容不明の支出があると、会計処理上、一時的に役員貸付金として計上されることがあります。
本来であれば、その都度、
「医療法人の経費なのか」
「理事長個人の支出なのか」
「誰かが立て替えているのか」
を確認する必要があります。
しかし、確認が不十分なまま月次処理や決算が進むと、役員貸付金が毎年積み上がっていきます。
このケースでは、資料を確認すると、本来は医療法人の経費だった支出や、役員借入金と相殺できる立替金が含まれていることがあります。
理事長個人の資金不足を医療法人が補っている
理事長個人の口座残高が不足したときに、医療法人から一時的に資金を移動し、そのまま返済されていないケースです。
具体的には、次のような支出が考えられます。
生活費
自宅の購入費や住宅ローン
子どもの学費
個人の所得税・住民税
個人の保険料
個人名義の借入金返済
個人的な投資資金
このような支出は医療法人の経費にはならないため、原則として役員貸付金になります。
私的な支出を法人口座や法人カードで払っている
理事長や家族の私的な支出を、法人口座や法人カードで支払っているケースです。
1回当たりの金額が小さくても、毎月繰り返していると、数年後には多額の役員貸付金になります。
役員貸付金を解消しても、同じ支出を続けていれば残高は再び増えてしまいます。
そのため、既存残高の解消と、今後発生させない仕組みづくりを同時に行うことが重要です。

役員貸付金を見つけたときに確認する5つのポイント
1.残高の内訳を取引ごとに確認する
まず、役員貸付金の総額だけでなく、次の内容を取引ごとに確認します。
発生日
支払先
支払金額
支払目的
使用した口座やカード
領収書・請求書の有無
医療法人の事業との関係
複数年にわたって増えている場合は、年度ごとに一覧表を作成すると整理しやすくなります。
2.本当に個人への貸付なのかを確認する
領収書、請求書、契約書、通帳、カード明細などを確認し、本来の取引内容を判定します。
本当に医療法人の事業に必要な支出であれば、役員貸付金ではなく経費や資産として処理すべき可能性があります。
ただし、過年度の支出を現在の事業年度の経費へ振り替えるだけでは、適切な訂正になりません。
すでに申告が終わっている年度の取引であれば、取引が発生した年度、申告内容、保存資料を確認し、必要に応じて適切な訂正方法を検討します。
「証拠がないが、おそらく経費だった」という理由だけで、役員貸付金を消すことはできません。
3.契約書・利率・返済条件を確認する
本当の貸付金であれば、次の内容を確認します。
貸付日
貸付金額
利率
返済期限
毎月の返済額
遅延した場合の取扱い
実際の返済履歴
金銭消費貸借契約書がない場合は、現在の残高やこれまでの資金移動を確認したうえで、今後の返済条件を整理します。
過去に契約書がなかったからといって、事実と異なる日付で契約書をさかのぼって作成することは避けるべきです。
4.理事長個人の返済能力を確認する
返済計画を作っても、理事長個人の手取りや預金から返せない金額では実行できません。
次の金額を整理します。
理事長個人の預金
役員報酬の手取り
個人の生活費
個人の借入返済
売却可能な個人資産
将来の役員退職金
医療法人への基金拠出額
返済可能額を確認せず、帳簿上だけ返済計画を作っても意味がありません。
5.役員貸付金が増え続ける原因を止める
既存の貸付金を返済しても、私的支出を法人口座から払い続ければ、役員貸付金は再び増えます。
法人カードと個人カードを分ける、内容不明の出金を毎月確認する、理事長個人の税金は個人口座から支払うなど、発生原因を止める必要があります。

役員貸付金を放置する5つのリスク

1.認定利息や給与課税の問題が生じる
医療法人が役員に無利息または低い利率でお金を貸している場合、適正な利息との差額が給与として課税されることがあります。
国税庁は、法人が借入金を原資として役員へ貸し付けた場合はその借入金利、それ以外の場合は貸付年ごとの基準利率などにより利息相当額を判定すると説明しています。
また、医療法人の平均調達金利など、合理的と認められる利率を設定している場合の取扱いも示されています。
詳しくは、国税庁「金銭を貸し付けたとき」をご確認ください。
実務上は、適正利率を下回る部分について、
受取利息
役員への経済的利益
役員給与
源泉所得税
などの処理を確認する必要があります。
適用される利率は貸付時期や医療法人の資金調達状況によって変わるため、毎年度、最新の利率で確認することが重要です。

2.医療法人のお金が私的に流出しているように見える
医療法第54条では、医療法人による剰余金の配当が禁止されています。
役員貸付金があるだけで、直ちに剰余金の配当と判断されるわけではありません。
しかし、次のような状態では説明が難しくなります。
多額の貸付金が長期間残っている
返済が行われていない
利息を計上していない
契約書がない
理事長の私的支出が毎年追加されている
理事長に返済能力がない
形式上は貸付金でも、実質的には医療法人の資金を役員個人が使用しているように見えるためです。
3.金融機関からの評価に影響する
金融機関は、役員貸付金を医療法人の通常の事業資産とは別に見ることがあります。
役員貸付金が多額に残っていると、
法人と個人の資金管理が曖昧
貸付金を回収できない可能性がある
借入金が事業以外に流れている
実質的な純資産が決算書より少ない
と判断される可能性があります。
建替え、医療機器の購入、分院開設などで融資を予定している場合は、融資申込みの直前ではなく、数年前から返済計画を作ることが重要です。
4.承継や医療法人の整理が難しくなる
理事長交代、第三者承継、合併、解散などの場面では、役員貸付金の回収方法を決めなければなりません。
旧理事長に対する貸付金が残ったまま新しい理事長へ交代すると、退任後も旧理事長との金銭関係が続きます。
承継を予定している場合は、退任時期、退職金、毎月の返済額を一つの計画として整理する必要があります。
5.相続時に返済義務の説明が必要になる
役員貸付金は、理事長個人から見ると医療法人に対する借入金です。
理事長が亡くなった場合、その返済義務は相続の中で整理することになります。
相続税の計算上、債務控除の対象になるのは、死亡時に現に存在し、確実と認められる債務です。
詳しくは、国税庁「相続財産から控除できる債務」をご確認ください。
したがって、次の資料を整えておくことが重要です。
金銭消費貸借契約書
貸付金の発生明細
利息の計算資料
返済計画
実際の返済履歴
医療法人の総勘定元帳
理事会等の議事録
契約書がないことだけで直ちに債務控除が否定されるとは限りませんが、資料が不足しているほど、債務の存在や金額を説明しにくくなります。
医療法人の役員貸付金を解消する主な方法
主な方法を整理すると、次のようになります。
方法 | 実質的に貸付金が減るか | 主な確認事項 |
|---|---|---|
役員本人が現金で返済 | 減る | 個人の返済資金 |
役員報酬の手取りから毎月返済 | 徐々に減る | 税金・社会保険料・生活費 |
役員退職金と相殺 | 減る | 実際の退任・適正額・決議・源泉徴収 |
基金返還請求権と相殺 | 減る | 基金制度・返還可能額・定款・機関決定 |
個人資産の売却代金と相殺 | 減る | 法人での必要性・時価・個人課税 |
建物保証金と相殺 | 実質的には減らない | 賃貸借契約・保証金額・返還条件 |
法人が債権放棄 | 帳簿上は消える | 役員への経済的利益・税務上の取扱い |

1.役員本人が現金で返済する
もっとも基本的で、説明しやすい方法です。
理事長個人の預金から医療法人の口座へ返済します。
通帳上の資金移動と会計処理が一致するため、税務調査、金融機関、承継のいずれにおいても説明しやすくなります。
一括返済が難しい場合でも、返済可能な金額を先に返し、残額について返済計画を作ることができます。
2.役員報酬の手取りから毎月返済する
一括返済が難しい場合は、役員報酬の手取りから毎月定額を返済する方法があります。
この場合は、
医療法人が役員報酬を通常どおり支給する
所得税、住民税、社会保険料などを差し引く
残った手取りから理事長が医療法人へ返済する
という流れを明確にします。
役員報酬と返済を会計上まとめて処理すると、役員報酬をいくら支給したのか、貸付金をいくら返済したのかが分かりにくくなります。
そのため、役員報酬の支給と貸付金の返済は、通帳上も会計上も分ける方法が分かりやすいといえます。
なお、役員貸付金を返済するためだけに役員報酬を増額すると、
所得税・住民税の増加
社会保険料の増加
医療法人の資金流出
定期同額給与の要件
を確認しなければなりません。
役員給与は、定期同額給与などの要件を満たさない場合、法人税上の損金に算入できないことがあります。
詳しくは、国税庁「役員に対する給与」をご確認ください。
役員貸付金を返すために役員報酬を上げれば、必ず有利になるわけではありません。
3.役員退職金と相殺する
理事長や役員が実際に退任する予定であれば、役員退職金の支払債務と役員貸付金を相殺する方法があります。
たとえば、次のケースです。
役員貸付金:1,000万円
適正な役員退職金:1,500万円
源泉所得税等控除後の支払額:1,300万円
この場合、実際の税額や相殺可能額を確認したうえで、退職金の一部と役員貸付金を相殺し、残額を支払う方法が考えられます。
ただし、次の条件を満たす必要があります。
実際に退任している
退任後の職務内容や報酬が大きく変わっている
退職金額が適正である
定款や退職金規程を確認している
社員総会等の必要な決議がある
退職所得の源泉徴収を行っている
相殺合意書を作成している
国税庁は、適正な役員退職金について、原則としてその金額が社員総会等の決議で具体的に確定した事業年度に損金算入すると説明しています。
詳しくは、国税庁「役員の退職金の損金算入時期」をご確認ください。
また、退職所得は原則として、次の計算式で計算します。
(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1
ただし、役員等勤続年数が5年以下の特定役員退職手当等には、2分の1計算が適用されません。
詳しくは、国税庁「退職金を受け取ったとき」をご確認ください。
退職の実態がないまま、役員貸付金を消すためだけに退職金を計上することは避けるべきです。
役員退職金については、関連記事「医療法人解散で退職金はいくら?適正額の決め方」もあわせてご覧ください。
4.基金返還請求権と相殺する
基金制度を採用している持分なし医療法人では、理事長が医療法人に拠出した基金の返還請求権と、役員貸付金を相殺できる場合があります。
たとえば、
理事長が拠出した基金:1,000万円
医療法人の役員貸付金:1,000万円
というケースです。
ただし、帳簿に基金が計上されているだけで、すぐに相殺できるわけではありません。
次の内容を確認する必要があります。
基金制度を採用しているか
基金拠出者が役員貸付金の債務者本人か
定款と基金拠出契約の内容
基金の返還時期
返還可能額
代替基金の計上
社員総会等の必要な決議
基金返還請求権が具体的に確定しているか
相殺合意書が作成されているか
基金があることと、基金を今すぐ返還できることは別の問題です。
基金返還請求権が有効に確定してから、役員貸付金との相殺を検討します。
5.役員個人の資産を医療法人へ売却する
役員個人が所有する資産を医療法人が買い取り、その売買代金と役員貸付金を相殺する方法があります。
対象となり得るのは、医療法人が実際に使用する次のような資産です。
診療所の建物
診療所の敷地
医療機器
事業用車両
医療法人の業務に必要な設備
ただし、役員個人の不要資産を医療法人に買い取らせればよいわけではありません。
次の点を確認します。
医療法人に取得する必要があるか
医療法人の業務に使用するか
売買価格が時価と比べて適正か
関係者間取引として必要な承認を受けているか
医療法人の資金繰りに問題がないか
役員個人に譲渡所得等の税負担が発生しないか
消費税の取扱いをどうするか
売買価格が不当に高ければ、役員への経済的利益と判断される可能性があります。
資産売却による整理は、医療法人にその資産が本当に必要な場合に限って検討する方法です。
6.すぐに返済できない場合は返済計画を作る
現金返済、退職金、基金返還などを使っても、すぐに全額を解消できないことがあります。
その場合は、無理に帳簿から消すのではなく、次の内容を整理します。
現在の貸付金残高
適正な利率
毎月の返済額
返済期限
返済方法
繰上返済の条件
退職時の取扱い
相続発生時の取扱い
返済計画を作って実際に返済を開始すれば、何もせず放置している状態とは説明が変わります。
ただし、返済計画書を作るだけでは不十分です。
計画どおりに医療法人の口座へ入金し、毎月の残高を管理することが必要です。
建物保証金との相殺は実質的な解消ではない
役員個人が所有する建物を医療法人に賃貸している場合、建物賃貸借契約に保証金を設定し、その保証金債務と役員貸付金を相殺する方法があります。
たとえば、次のケースです。
役員貸付金:600万円
医療法人が役員個人へ差し入れる建物保証金:600万円
相殺後、医療法人の貸借対照表では、役員貸付金600万円が減り、差入保証金600万円が計上されます。
相殺前 | 相殺後 |
|---|---|
役員貸付金600万円 | 差入保証金600万円 |
役員個人への金銭債権 | 賃貸人である役員個人への保証金返還請求権 |

医療法人から見れば、役員個人に対する資産が、役員貸付金から差入保証金へ変わっただけです。
返還義務を負うのは、建物を貸して保証金を受け入れる役員個人側です。
したがって、医療法人が役員個人に対して持つ経済的な債権がなくなったわけではありません。
建物保証金との相殺は、役員貸付金の実質的な回収ではなく、役員貸付金から差入保証金への置き換えです。
ただし、適正な建物賃貸借契約に基づき、合理的な金額の保証金として法的・会計的に成立していれば、その部分は金銭貸付ではなくなります。
そのため、相殺後の金額について、役員貸付金に対する認定利息を計上する必要は基本的にありません。
これは、建物保証金へ整理するメリットです。
一方で、次の内容を確認する必要があります。
実際の建物賃貸借契約がある
保証金を設定する合理的な理由がある
保証金額が近隣相場や契約内容に照らして適正である
賃貸借契約書に保証金額と返還条件が記載されている
必要な機関決定と議事録がある
役員貸付金との相殺合意書がある
退去時に役員個人が保証金を返還できる
保証金の残高を継続的に管理している
役員貸付金を消すためだけに、根拠なく多額の保証金を後から設定することは適切ではありません。
また、相殺後も保証金返還請求権が役員個人に対して残るため、金融機関や承継の場面では説明が必要です。
認定利息の問題は整理できても、債権回収の問題まで解消したわけではないという点が重要です。
役員貸付金1,500万円を解消する場合の考え方
たとえば、役員貸付金が1,500万円あるケースを考えます。
理事長個人が一括返済できない場合、次のような組み合わせが考えられます。
個人預金から返済:300万円
毎月20万円を36か月返済:720万円
実際の退任時に適正な退職金と相殺:480万円
合計:1,500万円

この場合、3年間の返済計画を作成し、毎月の返済を続けます。
退任時に適正な退職金を支給できる状況になれば、残額を相殺します。
ただし、実際に退任しない場合や、退職金が適正額の範囲に収まらない場合には、退職金との相殺はできません。
その場合は、毎月の返済を継続するなど、別の方法に変更します。
役員貸付金の解消では、一つの方法だけで無理に消そうとせず、現金返済、毎月返済、退職金などを組み合わせる方が現実的です。
やらない方がよい役員貸付金の消し方
根拠なく現在の経費へ振り替える
過年度から残っている役員貸付金を、現在の事業年度の経費へ振り替えるだけでは適切な訂正になりません。
領収書や請求書、取引内容、発生年度を確認して処理します。
無利息のまま放置する
無利息・低利貸付では、適正利息との差額について給与課税等の問題が生じる可能性があります。
返済できない場合でも、契約書、利率、返済期限を整える必要があります。
返済のためだけに役員報酬を大幅に増やす
役員報酬を増やすと、所得税、住民税、社会保険料、医療法人の負担が増えます。
また、役員給与の変更時期によっては、法人税上の損金算入に影響します。
役員報酬の増額前に、個人の手取りと医療法人の資金流出を確認することが必要です。
法人が安易に債権放棄する
医療法人が役員貸付金を免除すると、役員個人に経済的利益が生じます。
その結果、役員給与としての課税、源泉所得税、法人税上の損金算入など、別の問題が生じる可能性があります。
役員貸付金を消す目的だけで債権放棄する方法は、原則としておすすめできません。
実態のない保証金や契約書を後から作る
建物保証金との相殺は、実際の賃貸借契約と合理的な保証金額が前提です。
役員貸付金を消すためだけに、相場とかけ離れた保証金を設定したり、事実と異なる日付の契約書を作成したりすることは避けるべきです。
帳簿だけで相殺する
退職金、基金返還、資産売却、建物保証金のいずれも、会計仕訳だけでは相殺できません。
相殺する双方の債権・債務が有効に成立しており、金額が確定していることが必要です。
そのうえで、相殺合意書や議事録などを整備します。

役員貸付金の整理で用意したい書類
役員貸付金を整理するときは、次の資料を用意します。
役員貸付金の取引別明細
総勘定元帳
通帳・法人カード明細
領収書・請求書
金銭消費貸借契約書
利息計算表
返済計画書
返済実績が分かる通帳
理事会・社員総会等の議事録
相殺合意書
退職金規程
基金拠出契約書
建物賃貸借契約書
不動産や設備の時価資料
すべての方法を一度に検討する必要はありません。
まず取引明細を作り、本当の貸付金残高を確定させることが最初のステップです。
役員貸付金はいつまでに整理すべきか
役員貸付金には、一律の返済期限があるわけではありません。
ただし、次の予定がある場合は、早めに整理する必要があります。
金融機関へ融資を申し込む
診療所を建て替える
高額医療機器を購入する
理事長や役員の退任を予定している
後継者へ医療法人を承継する
医療法人の解散を検討している
理事長の相続対策を進める
役員報酬を変更する
役員貸付金が多額の場合、数か月で全額を返済することは難しいため、3年から5年程度の返済計画が必要になることもあります。
融資、承継、退任の直前ではなく、予定が決まる前から整理を始めることが重要です。
医療法人の役員貸付金に関するよくある質問
役員貸付金に利息を付ければ放置しても問題ありませんか?
利息を計上していれば、無利息貸付に関する問題は一定程度整理できます。
ただし、返済がなく残高が増え続けている場合は、金融機関、承継、相続などの問題が残ります。
利息を計上することと、貸付金を回収することは別の問題です。
金銭消費貸借契約書がなくても、今から作れますか?
現在の残高や過去の資金移動を確認したうえで、今後の返済条件を定めることは可能です。
ただし、事実と異なる内容や日付で、過去から契約が存在したように見せることは避けます。
残高確認書、現在日付の契約書、返済計画書などを整え、今後の返済を開始する方法が考えられます。
役員報酬から直接差し引いて返済できますか?
会計上、相殺処理が可能な場合はあります。
ただし、役員報酬の総額、所得税、住民税、社会保険料、実際の返済額が分かりにくくなることがあります。
そのため、役員報酬を通常どおり支給し、その後に個人口座から医療法人へ返済する方法の方が、通帳と会計処理を確認しやすくなります。
建物保証金へ振り替えれば認定利息は不要ですか?
適正な建物賃貸借契約に基づく合理的な保証金として成立し、役員貸付金との相殺が有効に行われていれば、その部分は金銭貸付ではなくなります。
そのため、相殺後の金額について、役員貸付金に対する認定利息を計上する必要は基本的にありません。
ただし、役員貸付金という資産が差入保証金という資産に置き換わるだけなので、実質的な債権回収ではありません。
また、保証金額が不自然に高い場合や、実態のない契約である場合には、別途説明が必要です。
基金と役員貸付金はそのまま相殺できますか?
基金が計上されているだけでは相殺できません。
定款、基金拠出契約、返還可能額、代替基金、必要な機関決定を確認し、基金返還請求権が具体的に確定した後に相殺を検討します。
理事長が亡くなった場合、役員貸付金はどうなりますか?
理事長個人の医療法人に対する債務として、相続の中で整理することになります。
債務控除を検討する場合は、死亡時に債務が存在し、その金額が確実であることを説明できる資料が重要です。
契約書だけでなく、貸付金明細、利息計算、返済履歴、総勘定元帳なども確認します。
まとめ
医療法人の役員貸付金は、単に決算書の表示を整えるだけでは解決しません。
最初に確認すべきことは、本当に役員個人への貸付金なのかです。
貸付金であれば、次の順番で整理します。
役員貸付金の取引別明細を作る
本当の貸付金残高を確定する
利率と返済条件を整える
役員本人が返済できる金額を確認する
現金返済や毎月返済を開始する
退職金、基金返還、資産売却との相殺を検討する
新しい役員貸付金が発生しない仕組みを作る
建物保証金との相殺については、役員貸付金から差入保証金へ資産が置き換わるだけであり、実質的な回収ではありません。
一方、適正な建物保証金として成立すれば、金銭貸付ではなくなるため、その金額について役員貸付金の認定利息を計上する必要は基本的になくなります。
したがって、建物保証金との相殺は、役員貸付金を完全に解消する方法ではないものの、認定利息の問題を整理する方法にはなり得るという位置づけです。
役員貸付金は、残高、発生原因、利息、返済能力、退任時期、基金、個人資産、相続まで一緒に確認しなければ、適切な解消方法を判断できません。
今の税理士と比較しながら整理したい方へ
税理士法人シーガルでは、税理士変更に不安がある医療法人向けに、60日間無料の「ゆるやかな税理士変更プラン」を用意しています。
60日の移行期間中は無料で、期間中はいつでもキャンセルできます。
現在の税理士との契約をすぐに終了する必要はありません。現在の税理士との契約継続を選ぶこともでき、移行期間終了後に自動で正式契約へ切り替わることもありません。
「今の税理士から、役員貸付金をどう解消するのか説明がない」
「認定利息が適切に計上されているか確認したい」
「退職金、基金返還、建物保証金のどれが使えるか整理したい」
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