2024.6.22
医療法人の役員貸付金の消し方と放置リスクを専門税理士が解説
医療法人の決算書を見たとき、役員貸付金が大きく残っていて驚くことがあります。
「昔からある数字で、そのままにしている」
「理事長貸付金が増えているが、どこから手を付ければよいか分からない」
「返した方がよいとは思うが、どう解消すればよいのか分からない」
このように考えている先生は少なくありません。
結論からいうと、役員貸付金は、思いつきで消すものではありません。
まず、本当に貸付金なのか、それとも立替や経費の計上漏れなのかを確認し、そのうえで、実際に返済する、役員報酬や退職金と整合する形で整理する、利息や書類を整えるという順番で進める必要があります。
放置しておくと、税金の面では利息差額の給与課税の問題が出やすく、医療法人としては剰余金配当の禁止との関係でも説明が難しくなります。国税庁は、役員や使用人に無利息または低い利息で金銭を貸し付けた場合、一定の例外を除き、利息相当額と実際の利息との差額が給与として課税されると説明しています。
この記事では、医療法人の役員貸付金について、
役員貸付金とは何か
なぜ発生するのか
放置すると何がまずいのか
どう解消するのが現実的か
を順番に整理します。
- 役員貸付金とは何か
- 役員貸付金はどうして発生するのか
- 税理士と顧問先のコミュニケーション不足
- 理事長個人の資金不足を法人が埋めている
- 私的な支出を法人口座で払っている
- まず確認すべきことは「本当に貸付金かどうか」です
- 1 本当に個人への貸付なのか
- 2 契約書、返済条件、利息があるか
- 3 返済能力があるか
- 役員貸付金を放置すると何が問題なのか
- 無利息・低利だと給与課税の問題が出る
- 本当に貸付金なのか説明しづらくなる
- 医療法人としての説明も難しくなる
- 金融機関や承継の場面で見え方が悪くなる
- 相続のときに、返済義務や債務控除の説明が必要になる
- 役員貸付金の解消方法
- 1 役員本人が現金で返済する
- 2 役員報酬の手取りから毎月定額で返済する
- 3 役員退職金で整理する
- 4 持分なし医療法人では、基金返還や代替基金の状況も確認する
- 5 建物保証金と相殺する
- 6 役員個人の資産を法人に売却して整理する
- やらない方がよい整理の仕方
- 無利息のまま何年も放置する
- 役員報酬の支払管理と返済管理を一体化して分かりにくくする
- 法人側で安易に免除する
- まとめ
役員貸付金とは何か

役員貸付金とは、医療法人が理事長や理事などの役員に貸しているお金です。
医療法人から見ると「貸付金」であり、役員個人から見ると、医療法人に返済しなければならないお金です。ここを最初にはっきり押さえておく必要があります。
ただし、決算書に役員貸付金と書いてあっても、本当に貸付金とは限りません。
実際には、
何の支出か分からず、とりあえず役員貸付金で処理されている
本来は経費になる支出が、資料不足で役員貸付金に振られている
個人が負担すべき支出を、法人口座から払っている
役員報酬や立替金として整理すべきものが、そのまま残っている
といったケースもあります。
そのため、役員貸付金を見つけたら、最初にやるべきことは
「これは本当に貸付金なのか」
の確認です。
役員貸付金はどうして発生するのか

役員貸付金が発生する理由は、大きく分けると3つあります。
税理士と顧問先のコミュニケーション不足
かなり多いのがこのケースです。
通帳やカード明細に、税理士側では内容を判断できない支出があると、とりあえず役員貸付金で処理されることがあります。
本来であれば、その都度
「これは経費ですか」
「これは理事長個人の支出ですか」
と確認していくべきですが、確認が十分でないまま月次処理や決算が進むと、役員貸付金が年々膨らみます。
この場合、後から中身を見直すと、実は経費だった、立替だった、ということもあります。
つまり、役員貸付金があるからすぐ返済方法の話ではなく、まず中身の洗い直しが必要です。
理事長個人の資金不足を法人が埋めている
これは典型的な役員貸付金です。
理事長個人の口座残高が足りないときに、医療法人から一時的に出金し、そのまま返していないケースです。
生活費、住宅関係、学費、個人の借入返済など、事業と関係のないお金が法人口座から出ていくと、役員貸付金が増えます。
私的な支出を法人口座で払っている
理事長個人や家族の私的支出を法人口座や法人カードで払っていると、これも役員貸付金になりやすいです。
たとえば、
個人の所得税や住民税
個人の保険料
家族旅行
自宅関係の支出
医療法人の事業と関係の薄い買い物
などです。
まず確認すべきことは「本当に貸付金かどうか」です

役員貸付金が大きいと、つい「どう消すか」に意識が向きます。
ただ、最初にやるべきことは、中身の確認です。
順番としては、次の3つです。
1 本当に個人への貸付なのか
通帳、カード明細、領収書、請求書を見て、支出の中身を確認します。
本当は経費なのに役員貸付金にしていたなら、まずは経費へ直すべきです。
逆に、本当に役員個人の支出なら、貸付金として扱うしかありません。
2 契約書、返済条件、利息があるか
本当に貸付なら、金額、貸付日、利率、返済方法、返済期限を確認します。
何もなければ、少なくともこれから整える必要があります。
国税庁は、役員への無利息または低い利息での貸付について、一定の例外を除き、利息相当額と実際の利息との差額が給与として課税されると説明しています。ですから、利息条件を放置したままにするのは危険です。
3 返済能力があるか
理事長個人に、現実的に返せる資金があるのかを見ます。
返せない金額を「貸付金」として残していても、後で苦しくなるだけです。
返済の原資が役員報酬なのか、退職金なのか、個人資産の売却なのかで、整理の仕方は変わります。
役員貸付金を放置すると何が問題なのか
役員貸付金があると、少なくとも次の5つの問題が起きやすくなります。
無利息・低利だと給与課税の問題が出る
国税庁は、役員または使用人に無利息または低い利息で金銭を貸し付けた場合、一定の例外を除き、本来取るべき利息と実際の利息との差額は給与として課税されると説明しています。会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金利、それ以外は貸付年ごとの基準利率で判定します。
つまり、役員貸付金は残高だけでなく、利息をどうしているかも大事です。
契約書がない、利息を取っていない、返済もしていない、という状態はかなり危険です。
本当に貸付金なのか説明しづらくなる
何年も返済がなく、利息もなく、契約もないと、帳簿に貸付金と書いてあっても、実態としてはそう見えにくくなります。
税務調査では、名称より実態を見られます。
返済意思があるのか、返済能力があるのか、役員報酬や賞与の代わりではないのか、という点は見られやすくなります。
医療法人としての説明も難しくなる
医療法第54条は、医療法人は剰余金の配当をしてはならないと定めています。長期間返済されない役員貸付金や、私的支出がそのまま残っているような状態は、形式は貸付金でも、実質的には役員個人に法人のお金が流れているように見えやすくなります。直ちに何がどう扱われるかは個別事情によりますが、少なくとも、医療法人として説明しやすい状態ではありません。
金融機関や承継の場面で見え方が悪くなる
役員貸付金が大きい決算書は、第三者から見ると、法人と個人のお金の線引きが曖昧に見えます。
金融機関の融資判断、医療法人の承継、相続のときの整理でも、役員貸付金が残っていると説明が増えます。
相続のときに、返済義務や債務控除の説明が必要になる
役員貸付金は、役員個人から見ると医療法人への返済義務です。
そのため、役員が亡くなった場合には、死亡日時点の貸付金残高を前提に、相続の中で整理する必要が出てきます。
ここで大事なのは、相続税の計算で債務控除できるのは、被相続人が死亡したときに現に存在し、かつ確実と認められる債務に限られるという点です。したがって、役員貸付金について、金銭消費貸借契約書、返済条件、利息の定め、実際の返済履歴が弱いと、相続税の場面で「確実な債務」として説明しにくくなる可能性があります。言い換えると、適切な契約書がないと、そもそも債務控除できない可能性があるということです。
役員貸付金の解消方法

役員貸付金の解消方法は、現実的には次の6つです。
1 役員本人が現金で返済する
もっとも基本で、もっとも安全な方法です。
理事長個人の預金などから、医療法人へ返済します。
説明もシンプルで、帳簿と実際の資金移動が一致します。
少額なら、まずこの方法を優先して考えるのがよいです。
2 役員報酬の手取りから毎月定額で返済する
すぐに一括返済できない場合は、役員報酬の手取りから返していく方法があります。
この場合、毎月定額で返済することをおすすめします。
理由は、返済の流れが分かりやすくなるからです。
また、役員報酬は、そもそも毎月同じ時期に、毎月所定の金額で支払っている形の方が説明しやすいです。役員報酬の支払管理と貸付金の返済管理が混ざると、役員報酬を定期で支払っているのか、貸付金の返済をどう処理しているのかが見えにくくなることがあります。
したがって、整理の仕方としては、
役員報酬は毎月所定どおり支払う
その後、個人から法人へ毎月定額で返済する
という流れが一番きれいです。
「今月は返済しない」「来月だけ多めに返す」といったやり方より、毎月一定額で返済した方が、帳簿も通帳も追いやすくなります。
3 役員退職金で整理する
理事長や役員が退任するタイミングで、役員退職金を支給し、その支払債務と役員貸付金を整理する方法は、かなり現実的です。
退職金は、所得税上、原則として
(収入金額 − 退職所得控除額)× 1/2
で退職所得が計算されるため、給与所得より税負担が軽くなることが多いです。もっとも、役員等勤続年数が5年以下である人の特定役員退職手当等には2分の1計算が使えないなどの例外があります。
つまり、役員貸付金が大きく、退任時期も近いなら、退職金で整理する方が、毎月の報酬で返すより現実的なことがあります。
ただし、退職金は万能ではありません。
金額が適正か、退任の事実があるか、規程や議事録が整っているかが重要です。
詳しくは、関連記事「医療法人解散で退職金はいくら?適正額の決め方」もあわせてご覧ください。
4 持分なし医療法人では、基金返還や代替基金の状況も確認する
基金制度のある持分なし医療法人であれば、基金の返還や、その前提となる代替基金の設定状況が、役員貸付金の整理と関係してくることがあります。
これは誰でも使える方法ではありません。
基金制度があること、定款や基金拠出契約の確認が必要なこと、代替基金の設定状況を見なければならないことなど、前提条件があります。
ただ、持分なし医療法人で基金制度がある場合には、基金返還請求権と役員貸付金の整理をどう組み合わせるかを検討する余地があります。
たとえば、理事長が医療法人に対して1,000万円の基金を拠出しており、役員貸付金も1,000万円あるケースを考えます。
この場合、代替基金の設定状況や定款・基金契約の内容に問題がなく、基金返還が可能な状態であれば、基金返還請求権1,000万円の範囲で、役員貸付金1,000万円を整理できる可能性があります。
もっとも、ここで注意したいのは、基金があるから必ずそのまま役員貸付金を消せるわけではないという点です。
基金返還には、代替基金の額、返還の手続、定款や契約の内容などを確認する必要があります。したがって、基金返還で整理できるかどうかは、金額だけでなく、返還できる状態にあるかまで含めて見ないと判断できません。
5 建物保証金と相殺する
役員個人が所有する建物を医療法人に貸している場合、建物保証金を設定して役員貸付金と整理するというやり方はあります。
第三者からテナントを借りるときには、地域差はありますが、賃料の6か月分程度の保証金を設定することは珍しくありません。
そのため、役員個人から医療法人に建物を貸している場合でも、これまで保証金を設定していなかったのであれば、一定額の保証金を設定する余地があります。
たとえば、理事長個人が所有する建物を医療法人が借りていて、月額賃料が100万円だとします。
この場合、6か月分の600万円を建物保証金として設定し、その600万円分について役員貸付金と整理する、という考え方はあり得ます。
ただし、これは本質的な返済というより、貸付金が保証金に置き換わるだけに近いです。
保証金も、医療法人から見れば将来返還しなければならない債務ですので、根本的に「消えた」とまでは言いにくいです。
その意味では、建物保証金との整理は、役員貸付金を完全に解消する方法というより、科目の整理や、利息認定の問題を少し整える程度と考えた方がよいです。
ですから、建物保証金を設定したから安心、とは言えません。役員貸付金が多額であれば、別の方法も含めて全体で整理する必要があります。
6 役員個人の資産を法人に売却して整理する
役員個人が持っている資産を、医療法人が本当に必要な範囲で買い取ることで、結果として貸付金を整理するケースはあります。
たとえば、医療法人が事業で使う建物や設備などで、法人に取得の必要性があり、価格も適正である場合です。
ただし、この方法は条件付きです。
何でも売ればよいわけではありませんし、価格が恣意的だと問題になります。
さらに、医療法人が持てる資産か、本当に必要かも確認が必要です。
やらない方がよい整理の仕方

役員貸付金は、次のようなやり方で処理しようとすると危険です。
無利息のまま何年も放置する
利息差額の給与課税の問題が出やすくなります。
役員報酬の支払管理と返済管理を一体化して分かりにくくする
役員報酬の支払時期や金額、貸付金の返済の流れが見えにくくなります。
役員報酬は役員報酬、返済は返済として、できるだけ分けて管理した方が安全です。
法人側で安易に免除する
役員個人に経済的利益が移るため、新たな課税や説明問題を生みやすいです。
「消した」つもりが、別の問題に変わるだけになりがちです。
「役員貸付金が本当に貸付金なのかを確認したい」
「利息や返済方法をどう整えるべきか整理したい」
「役員報酬や退職金、基金返還などのどれで解消するのがよいか相談したい」
このようなお悩みがある先生は、自己判断だけで動く前に、まず全体を整理した方が安全です。
まとめ
医療法人の役員貸付金は、単に決算書の見栄えが悪いだけの問題ではありません。
放置すると、
無利息・低利貸付による給与課税
本当に貸付金なのかという説明の弱さ
医療法上の剰余金配当禁止との関係
金融機関や承継時の見え方の悪さ
相続のときに返済義務や債務控除の説明が必要になること
といった問題が出やすくなります。
また、役員貸付金という名前が付いていても、本当に貸付金とは限らないことも大事です。
まずは中身を確認し、
貸付なら返済条件を整える
経費なら直す
退職金、基金返還、建物保証金などで整理できるなら筋の通る形で整理する
という順番で進めることが大切です。
私たち税理士法人シーガルは、開業医・医療法人専門の税理士法人です。
役員貸付金のように、税金の整理だけでなく、医療法上の見え方、承継、相続まで含めて考えないと危ない論点は、早めに医療に詳しい税理士へ相談しておいた方が安全です。
「今の税理士はいるが、別の視点でも確認したい」
「役員貸付金だけでも一度整理したい」
という場合は、比較しながら進めることもできます。


この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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