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JOURNAL

2026.3.21

医療法人の役員賞与(事前確定届出給与)5つの注意点と期限を解説

「理事長に賞与を出したい」
「毎月の役員報酬だけでは報酬設計がしにくい」
「ただ、届出を出したのに損金にならないのは避けたい」。
医療法人の理事長から、事前確定届出給与について、このようなご相談を受けることがあります。

結論からいうと、事前確定届出給与は、支給額と支給日を先に決め、期限内に届け出て、そのとおりに支給できるなら使いやすい制度です。反対に、届出後に任意で「払う・払わない」を動かすほど、事前に確定した給与という説明は弱くなります。

税理士法人シーガルとして、まずおすすめしたいのは、届出を出した以上、できるだけ届出どおりに支給することです。それでも不支給にするなら、少なくとも支給日前に判断し、議事録、会計処理、源泉処理までそろえることが大切です。この記事では、この2点を軸に、医療法人の理事長が押さえておきたい実務を整理します。

事前確定届出給与とは?理事長が押さえる基本

事前確定届出給与の仕組み(役員報酬と役員賞与の違い)の概念図

役員給与は、税務上、何でも損金算入できるわけではありません。医療法人で理事長に賞与を出したいなら、まずは事前確定届出給与として設計できるかを考えるのが基本です。

事前確定届出給与とは、その役員の職務について、所定の時期に、確定した額を支給する定めに基づいて支給する給与です。言い換えると、あとから様子を見て柔軟に決める制度ではありません。先に決めて、先に届け出て、その内容どおりに実行する制度だと理解しておくと、実務でぶれにくくなります。

事前確定届出給与の届出期限と要件

理事長向けに絞ると、押さえるべき要件は「金額」「支給日」「期限内届出」の3つです。金額だけ決めても足りません。支給日まで含めて先に固める必要があります。法人内では、定款や内部ルールに沿って決裁し、その内容に基づいて税務署へ届出を行う流れになります。

届出期限は、原則として決議日等から1か月と会計期間開始の日から4か月のいずれか早い日です。ここは見落としやすいので、「あとで出せばいい」ではなく、決議の場でそのまま締切日まで確認しておいた方が安全です。

事前確定届出給与のメリット

事前確定届出給与の一番のメリットは、理事長への賞与であっても、要件を満たせば法人税上の損金算入を狙える点です。毎月の定期同額給与だけでは組みにくい報酬設計を、年1回や年2回の形で設計しやすくなります。

また、毎月の役員報酬を高くするより、年1回や年2回の役員賞与に寄せた方が、健康保険や厚生年金の上限が効きやすく、年間の社会保険料が下がることがあります。 ただし、ここは誰にでも一律に有利という話ではありません。毎月報酬の額、賞与の額、支給回数、支給月まで含めて見ないと、かえって判断を誤りやすくなります。

事前確定届出給与で失敗しやすい5つの注意点

1.届出額と実支給額が違う

事前確定届出給与は、届け出た金額どおりに支給することが前提です。少しのズレでも軽く見ない方が安全です。実際、国税庁も、届出額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しない考え方を示しています。

2.支給日がずれる

事前確定届出給与は、金額だけではなく支給時期も事前確定です。したがって、「金額は合っているから大丈夫」という整理にはなりません。支給日がずれる可能性があるなら、最初の決議の段階で無理のない日程にしておく必要があります。

3.複数回支給のうち、一部だけ不支給にする

年2回など複数回で届け出る場合は、1回ごとに切り離して考えない方が安全です。実務では、「1回目は払ったから1回目だけは大丈夫」と思いがちですが、そう単純ではありません。複数回の支給を予定しているなら、その職務執行期間全体で、定めどおりに支給されたかを意識して管理した方が安全です。

4.理事長だけ不支給にしたら、他の役員分まで全部ダメだと思い込む

ここは誤解が多いところです。たとえば、A理事長100万円、B理事200万円で届け出て、A理事長だけ届出どおりに支給できなかったとしても、そのことだけを理由にB理事分まで自動的に損金不算入になるわけではありません。 実務上は、役員ごとに見ていく整理になります。

5.届出後に「今年は払わない」と決める

ここが一番大事です。事前確定届出給与は、もともと事前に定めた時期と金額どおりに支給する制度です。したがって、届出後に任意で「今年は払わない」と動かすほど、制度の中心から離れていきます。シーガルでは、こうした運用は利益を見て後から調整したように見えやすく、否認リスクが高まりやすいと考えています。

不支給を考えるときに、シーガルが重視していること

1.まずは届出どおりに支給することを基本にする

シーガルがまず重視しているのは、届出どおりに支給することを基本にすることです。事前確定届出給与は、「とりあえず届出だけ出しておいて、あとで払うかどうかを決める」制度ではありません。あとから任意に動かすほど、説明は難しくなります。

不支給の可能性が高いなら、本来は届出前の段階で、支給額や支給時期の設計を無理のない水準に見直しておくことが大切です。届出を出した後で悩むより、届出前に設計を詰めておいた方が安全です。

2.それでも不支給にするなら、支給日前に判断して処理をそろえる

それでも不支給にするなら、少なくとも支給日前に判断し、社員総会や理事会等で必要な決議を行い、議事録、会計処理、源泉処理までそろえることが大切です。支給日を過ぎてから「実質は不支給でした」と後追いで整理するよりは、支給日前に方針を固めておいた方が、実務上はまだ整理しやすいです。

ここで大事なのは、不支給なのか、単なる未払なのかを曖昧にしないことです。支給日前に不支給を決めたのか、支給日を過ぎたけれど払っていないだけなのかで、見え方はかなり変わります。事前確定届出給与は賞与として源泉徴収の対象になるため、税務と給与実務を別々に動かさない方が安全です。

理事長が、そのリスクを理解したうえで不支給を選ぶこと自体は、経営判断としてあり得ます。シーガルとしても、その判断を頭ごなしに否定するものではありません。ただし、届出どおりに支給する場合より慎重な整理が必要になることは、先に共有しておいた方がよいと考えています。

事前確定届出給与と社会保険・源泉実務

社会保険の面では、事前確定届出給与を出せば自動的に有利になるわけではありません。ただ、毎月給与を高くするより、年1回や年2回の役員賞与に寄せた方が、社会保険料が下がるケースはあります。 賞与については、健康保険の標準賞与額の上限が年度累計573万円、厚生年金保険の標準賞与額の上限が1か月150万円です。また、賞与として扱われるのは原則年3回以下の支給で、年4回以上になると標準報酬月額の対象になります。

たとえば、年収2,000万円を月額10万円×12か月+役員賞与940万円×2回で受け取る前提で考えます。ここでは、東京協会けんぽ・40歳未満・令和8年3月分以降の保険料率・健康保険料と厚生年金保険料のみで概算します。

協会けんぽ東京支部の令和8年度保険料額表では、月額10万円に対応する標準報酬月額は98,000円です。健康保険の計算ベースは98,000円×12か月+5,730,000円=6,906,000円、厚生年金の計算ベースは98,000円×12か月+1,500,000円×2回=4,176,000円になります。

この前提で概算すると、健康保険料は年約68万円、厚生年金保険料は年約76万円で、合計は年約144万円です。会社と本人は原則折半なので、本人負担は年約72万円が目安です。なお、40歳以上64歳以下は介護保険料が上乗せされ、2026年4月分以降は子ども・子育て支援金も別途かかるため、実際の負担はこの試算より増えます。

比較のため、同じ年収2,000万円を毎月給与だけで受け取り、毎月約166.7万円の役員報酬にしたとします。この場合、協会けんぽ東京支部の保険料額表では、健康保険は上限の標準報酬月額1,390,000円、厚生年金は上限の650,000円をベースに計算します。すると、健康保険料は年約164万円、厚生年金保険料は年約143万円で、合計は年約307万円です。

項目

A:毎月報酬のみ

B:月給+役員賞与(事前確定届出給与)

報酬設計のイメージ

毎月均等(高額月給)

低めの月給 + 年2回賞与

月額役員報酬

約166.7万円

10万円

役員賞与(年2回計)

0円

1,880万円(940万円×2)

想定年収

2,000万円

2,000万円

健康保険料(年額)

約82万円

約34万円

厚生年金保険料(年額)

約71.5万円

約38万円

社会保険料 合計(年額)

約153.5万円

約72万円

手取り増減(年額イメージ)

約81.5万円 の増加

つまり、この例では、「月10万円+役員賞与940万円×2回」という設計にすると、毎月給与だけで受け取る設計に比べて、健康保険料と厚生年金保険料の合計で年約163万円、本人負担ベースでも年約81万円ほど軽くなる計算です。事前確定届出給与が社会保険料の見直しでよく検討されるのは、この差が出やすいからです。もっとも、賞与の支給月が年度をまたぐと健康保険の573万円上限の効き方が変わります。実際には、支給月まで含めた個別試算が欠かせません。

税務面では、事前確定届出給与は通常、賞与として源泉徴収の対象です。また、賞与を支給したときは、原則として支給日から5日以内に賞与支払届を提出します。登録している賞与支払予定月に、いずれの被保険者および70歳以上被用者にも賞与を支給しなかった場合は、賞与不支給報告書の提出が必要です。

役員報酬の設計による社会保険料負担額の比較グラフ

事前確定届出給与の実務チェックリスト

医療法人のための事前確定届出給与・実務チェックリスト

理事長と事務長、経理担当で共有しやすいように、実務の流れを絞ると次の順番です。

まず、理事長賞与を出す目的を整理することです。毎月報酬を補うためなのか、社会保険も含めた報酬設計の見直しなのか、不支給の可能性まで考えるのかを先に分けておくと、途中でぶれにくくなります。

次に、支給額、支給日、支給回数を決め、届出期限を確認することです。原則は、決議日等から1か月と会計期間開始の日から4か月のいずれか早い日です。

支給日が近づいたら、届出どおりに支給するのか、不支給にするのかを支給日前に最終確認します。もし不支給なら、支給日前に書類と処理方針をそろえることが大切です。議事録、辞退書の有無、会計処理、源泉処理の足並みをそろえます。

支給後は、源泉徴収と社会保険の届出まで終えることも忘れないようにします。届出を出して終わりではなく、最後の実行と処理まで含めて管理することが重要です。

まとめ

事前確定届出給与は、医療法人の理事長に賞与を出すときに使いやすい制度です。
ただし、制度の中心は、事前に決めた内容どおりに支給することにあります。

したがって、シーガルでは、まず届出どおりに支給することを基本に考えます。
それでも不支給にするなら、少なくとも支給日前に判断し、議事録、会計処理、源泉処理をそろえることが大切です。

理事長がリスクを理解したうえで不支給を選ぶこと自体はあり得ます。
ただし、その場合は、届出どおりに支給する場合より慎重な整理が必要になる。
この点は、最初に押さえておいた方が安全です。

役員賞与の設計は、届出前から相談した方が進めやすいです

事前確定届出給与は、届出書を出すところだけを見ても、うまく運びません。
本当に大事なのは、その前の設計です。理事長賞与をいくらにするのか、いつ支給するのか、毎月の役員報酬とどう分けるのか。不支給の可能性があるなら、どのタイミングで判断し、どこまで書類や処理をそろえるのか。こうした点が曖昧なまま届出を出すと、あとで動きにくくなります。

医療法人では、税務だけ見れば足りる話でもありません。社員総会や理事会の決議、議事録、会計処理、源泉徴収、社会保険、資金繰りまでつながっているため、理事長賞与の設計は、思っている以上に全体を見ながら進める必要があります。単発で答えを出すより、法人の状況を踏まえて継続的に整理した方が、現実的な判断をしやすいテーマです。

税理士法人シーガルは、開業医・医療法人に特化した税理士法人です。代表税理士が直接担当し、医療法人設立、相続、医業承継にも対応しています。事前確定届出給与のように、税額だけでなく、理事長報酬の設計や法人運営まで関わる論点は、税務顧問のなかで一緒に整えていく方が進めやすいと考えています。

「今年の役員賞与はいくらまでなら無理がないのか」
「届出を出す前に、毎月報酬とのバランスを見直したい」
「不支給の可能性もあるので、先に安全な進め方を確認したい」
「税務だけでなく、源泉や社会保険まで含めてまとめて見てほしい」

このようなお悩みがある理事長先生は、届出を出してから悩む前に、一度整理してみてください。
事前確定届出給与は、使い方を間違えなければ有効な制度です。
ただし、ポイントは制度の名前を知っていることではありません。
いつ、何を決めて、どう実行するか。
この順番まで含めて整えておくことが、実務ではいちばん大切です。

この記事の監修者

中込 政博

税理士法人シーガル

代表社員/

税理士・公認会計士

中込 政博

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤 大樹

税理士法人シーガル

代表社員/

税理士・行政書士

遠藤 大樹

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!

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