2025.12.8
自費診療や介護収入はどうなる?認定医療法人の80%要件判定ガイド
「認定医療法人に移行したいが、うちは自由診療があるから無理かもしれない」
「介護施設の収入や予防接種は、80%の計算に含まれるのだろうか?」
また、産婦人科や歯科、健診センターを運営されている理事長先生からは、よくこのようなご相談をいただきます。 「分娩費用やインプラント、人間ドックは自費扱いだから、認定要件の計算では不利になるのではないか?」
相続税対策の切り札となる「認定医療法人制度」ですが、申請の第一関門となる「社会保険診療報酬等が全収入の80%を超えること」という要件(医療法施行規則 第57条の2)で、多くの先生方が判断に迷われています。
結論から申し上げますと、介護保険収入や定期予防接種、そして一定額までの助産収入(出産費用)などは、「80%(分子)」の側に含めることが可能です。 これらを正しく計算に組み込むことで、一見自費率が高そうな医療法人でも、認定をクリアできるケースは多々あります。
一方で、美容外科などの完全な自由診療は含まれないため、その割合が高いクリニックは事前のシミュレーションが不可欠です。
本記事では、厚生労働省のガイドラインに基づき、一見複雑なこの「80%判定ルール」について、何が含まれて何が含まれないのか、医療専門税理士が判定のポイントをわかりやすく解説します。 自己判断で諦める前に、まずは正しい計算方法を確認しましょう。
- そもそも「80%要件」とは?計算式の仕組みを解説
- 判定式:「社会保険診療等の収入 ÷ 全収入 > 80%」
- 【判定ガイド】80%計算の「分子」に含まれるもの(有利な収入)
- 1. 介護保険収入・障害福祉サービス(老健・訪問看護など)
- 2.予防接種・健診は「法律に基づくもの」ならOK
- 3.助産(出産)に係る収入は「1件50万円」までOK
- 4.条件を満たした労災・自賠責保険
- 【判定ガイド】80%計算の「分子」に含まれないもの(不利な収入)
- 1.完全な自由診療(美容・審美・脱毛など)
- 2.任意の予防接種・人間ドック
- 3.その他の雑収入
- 80%ギリギリでも諦めない!ただし「一時しのぎ」は危険
- 直近決算でのシミュレーションと「将来予測」
- 分母と分子のコントロール(構造的な見直し)
- 【当法人の支援事例】80%要件のクリア事例
- 事例1:判定「78%」からの改善!1年かけて体制を整えた病院
- 事例2:誤解を解消して即申請!予防接種・健診の判定を見直した内科
- まとめ:微妙な判定やシミュレーションはシーガルへ
- 本記事の出典・参考文献
そもそも「80%要件」とは?計算式の仕組みを解説
認定医療法人になるための最も重要なハードルの一つが、「社会保険診療等に係る収入金額が、全収入金額の80%を超えること」です。
なぜこのような基準があるのかというと、認定医療法人は税金が優遇される特例措置だからです。 「税金を免除する代わりに、公益性の高い(=保険診療を中心とした)医療を行っている法人に限りますよ」という、国からのメッセージと言えます。
判定式:「社会保険診療等の収入 ÷ 全収入 > 80%」

具体的な計算式(判定式)は以下のようになります。 一見シンプルに見えますが、「何が分子に含まれるか」の判断が非常に複雑です。
【判定式】
( 社会保険診療等の収入金額 ÷ 全収入金額 ) > 80%
この計算において重要なのは、以下の2点です。
1.分母(全収入金額)
本来業務(診療所や病院の収入)だけでなく、附帯業務(介護事業、売店、駐車場収入など)も含めた、法人のすべての売上が対象です。2.分子(社会保険診療等)
ここが最大のポイントです。通常の健康保険や国民健康保険の収入が入るのは当然ですが、法律上、「介護保険収入」や「特定の予防接種」などもここ(分子)に含めて良いことになっています。
つまり、「一見すると自費(分子に入らない)に見えるが、実は分子に入れて計算して良いもの」を漏れなくピックアップできるかが、80%をクリアする鍵となります。
【判定ガイド】80%計算の「分子」に含まれるもの(有利な収入)

「うちは介護事業の比率が高いからダメかもしれない」
「お産は自費だから、産婦人科は不利なのではないか」
そう思われている先生も多いですが、実は以下の項目は、厚生労働省の規定により「社会保険診療等(分子)」に含めて計算することが可能です。 これらを正しくカウントすることで、認定のハードルはぐっと下がります。
1. 介護保険収入・障害福祉サービス(老健・訪問看護など)
医療法人が運営する「介護老人保健施設(老健)」や「訪問看護ステーション」、「通所リハビリテーション(デイケア)」などの介護保険法に基づく収入は、原則として分子に含まれます。 また、障害者自立支援法に基づく収入も対象です。
これにより、医療と介護を複合的に経営されている法人様は、要件を満たしやすい傾向にあります。
※ただし、有料老人ホームの家賃収入や食費など、介護保険外の収入は除外されるため、正確な区分けが必要です。
2.予防接種・健診は「法律に基づくもの」ならOK
予防接種や健康診断は、全てが自費(対象外)というわけではありません。以下のものは分子に含まれます。
定期予防接種・臨時予防接種
(例:高齢者のインフルエンザ、小児の定期接種、コロナワクチンなど、予防接種法に基づき自治体から委託されたもの)特定健康診査・特定保健指導
(いわゆるメタボ健診など、高齢者医療確保法に基づくもの)がん検診
(健康増進法に基づくもの)
「自治体からクーポンが届くもの」や「法律で義務付けられているもの」は、基本的にプラス評価となるとお考えください。
3.助産(出産)に係る収入は「1件50万円」までOK

産婦人科の理事長先生の中には、「分娩費は全額自費(自由診療)扱いだから、うちは80%要件を満たせない」と最初から諦めている方がいらっしゃいます。 先生のご認識の通り、本来であれば助産収入は「自由診療」であり、原則として「社会保険診療等(分子)」には1円も含まれません。
しかし、この認定要件の計算においては、「平成26年 厚生労働省告示 第337号」という規定により、以下の特例が認められています。
助産に係る収入のうち、「出産育児一時金の金額(現行50万円)」に相当する金額までは、「社会保険診療等(分子)」に含めて計算して良い。
つまり、1件のお産につき50万円までは、国が認めた保険診療と同じ扱いとして計算できるのです。 これにより、分娩件数が多い産婦人科医院であっても、認定要件をクリアできる可能性が十分にあります。
ただし、50万円を超える部分や、「無痛分娩(和痛分娩)」の手技料、「個室代(差額ベッド代)」などは、この特例の対象外です。 これらは原則通り「自由診療」として扱われ、80%計算の「分子」には含まれず「分母」にだけ入るため、数値を下げる要因となります。
4.条件を満たした労災・自賠責保険
労働者災害補償保険(労災)や、自動車損害賠償責任保険(自賠責)による診療収入は、「社会保険診療報酬と同一の基準」で計算されている場合に限り、分子に含まれます。 独自に高い点数単価を設定している場合は対象外となりますが、労災準拠(1点12円など)で算定している場合は要件クリアの助けとなります。
【判定ガイド】80%計算の「分子」に含まれないもの(不利な収入)
一方で、以下の収入は「全収入(分母)」には入りますが、「社会保険診療(分子)」には入りません。 これらの割合が増えすぎると、80%の数値を押し下げる要因となります。
1.完全な自由診療(美容・審美・脱毛など)
医療的な処置であっても、公的保険が適用されない自由診療は分子に含まれません。
美容外科、美容皮膚科(二重整形、シミ取りレーザーなど)
審美歯科(インプラント、ホワイトニング、矯正歯科など)
AGA治療、ED治療
これらの売上が法人全体の20%を超えている場合、認定を受けるのは難しくなります。
2.任意の予防接種・人間ドック
「法律に基づかない」任意の予防接種や健診は対象外です。
任意のインフルエンザ予防接種(一般の方など)
人間ドック(全額自己負担のもの)
雇入時健診・定期健診(労働安全衛生法に基づくもの)
※労働安全衛生法の健診については判断が細かく分かれるため、必ず税理士による確認が必要です。
3.その他の雑収入
診療以外の収入も、分母(全収入)にはカウントされるため、比率を下げる要因になります。
差額ベッド代
文書料(診断書作成代など)
売店、自動販売機の売上
駐車場収入
「チリも積もれば」で、大規模病院などでは差額ベッド代や売店収入が意外と大きな割合を占め、80%の足かせになるケースがあるため注意が必要です。
80%ギリギリでも諦めない!ただし「一時しのぎ」は危険
「計算してみたら78%だった…」という場合でも、対策の余地はあります。
しかし、ここで絶対に誤解してはいけないのが、「申請する年だけクリアすれば良いわけではない」ということです。
認定医療法人制度では、認定を受けた日の属する会計年度から、移行完了後の6年間が経過するまで、毎期連続してこの80%要件を満たし続ける義務があります。 もし、途中でたった1期でも80%を下回れば、その時点で認定は取り消され、遡及課税となります。
そのため、「今年だけ自費診療を減らして調整しよう」といった一時的な対策は、将来の自分たちの首を絞めることになりかねません。
直近決算でのシミュレーションと「将来予測」
まずは、直近の数値でシミュレーションを行いますが、同時に「将来の事業計画」とも照らし合わせる必要があります。 「来年は自費診療に力を入れたい」「新しい美容機器を導入する」といった計画がある場合、要件を満たせなくなるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。
分母と分子のコントロール(構造的な見直し)

数値が足りない場合は、恒久的に80%を超えられるような「事業構造の見直し」を検討します。
1.分子(社会保険診療等)を増やす
・介護事業(通所リハビリや訪問看護など)の稼働率を上げる施策を打ち、安定的な保険収入の割合を高める。
・定期予防接種や特定健診の受入体制を強化する。
2.分母(全収入)の調整
・80%要件の足かせとなっている「対象外の売上(雑収入や過度な自費診療)」のバランスを見直す。
このように、申請時だけでなく「認定を受けている期間中ずっとクリアできるか?」という視点で対策を立てることが、認定医療法人への移行を成功させる絶対条件です。
【当法人の支援事例】80%要件のクリア事例
税理士法人シーガルでは、認定要件を満たせるかどうかの「事前シミュレーション」から、要件をクリアするための「改善提案」までを行っております。 実際の現場でどのように要件をクリアしたのか、2つの事例をご紹介します。
事例1:判定「78%」からの改善!1年かけて体制を整えた病院
(医療療養病床・介護医療院 / 持分評価額 6億円)
相談時の状況: 差額ベッド代や売店収入などの割合が大きく、直近決算での社会保険診療割合は「78%」。あと2%足りず、そのままでは申請できない状態でした。
当法人の対策: 無理に申請せず、「申請を翌年に持ち越す」という戦略を提案しました。 1年かけて、分子(プラス評価)に含まれる「通所リハビリテーション」と「訪問看護」の受入体制を強化。保険収入の比率を構造的に高める経営改善を行いました。
結果: 翌期の決算では割合が「82%」まで上昇。安定した数値を確保した上で申請を行い、2年目で無事に認定を取得しました。
事例2:誤解を解消して即申請!予防接種・健診の判定を見直した内科
(内科・消化器内科 / 持分評価額 2億円)
相談時の状況: 地域のかかりつけ医として、予防接種や市町村の健康診断を積極的に行っているクリニック。「健診やワクチンは自費扱いだから、80%には届かないだろう」と理事長は諦めていました。
当法人の対策: 収入項目の詳細な洗い出しを実施。 理事長が「自費(対象外)」だと思い込んでいた売上のうち、「定期予防接種」や「特定健康診査(メタボ健診)」などを、法令に基づき正しく「社会保険診療等(分子)」に振り分け直しました。
結果: 正確に再計算した結果、要件ギリギリどころか「85%」も満たしていることが判明。 事業構造を変える必要がなかったため、ご相談いただいたその年に申請を行い、最短ルートでの認定を実現しました。
まとめ:微妙な判定やシミュレーションはシーガルへ
本記事では、認定医療法人の難所である「80%要件」の判定基準について解説しました。
最後に重要なポイントを整理します。
介護・福祉収入は、基本的に計算のプラス評価(分子)になる。
助産収入は、特例により「1件50万円」まではプラス評価になる。
予防接種や健診は、「法律に基づくもの」かどうかで仕分けが必要。
認定後も維持が必要であり、計算ミスは将来の認定取消(遡及課税)に直結する。
「自院の収入構造で認定が取れるのか知りたい」
「80%ギリギリのラインだが、対策はないか?」
このようにお考えの理事長先生は、医療法人・個人開業医専門の税理士法人シーガルへご相談ください。 貴院の決算書・元帳を拝見し、認定要件をクリアできるかどうかの「正確な判定シミュレーション」を実施いたします。
本記事の出典・参考文献
本記事の判定基準および計算式は、以下の厚生労働省の公式資料および法令に基づき作成しています。
厚生労働省:「持分なし医療法人」への移行に関する手引書(令和5年5月改訂版)
・制度の概要および80%要件の計算式について
厚生労働省医政局長通知:持分の定めのない医療法人への移行に関する計画の認定制度について(医政支発0331第4号 最終改正)
・助産(出産)に係る収入金額の特例(50万円限度)の規定について
・予防接種および健康診査に係る収入金額の取扱いについて
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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