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JOURNAL

2026.5.7

個人開業医は借入返済前にいくら利益が必要?資金繰りの目安を解説

「利益は出ているのに、借入返済が始まったらお金が苦しくなりそう」
「今の利益水準で、本当に返済していけるのか不安」
「減価償却費があるから大丈夫と言われたが、感覚的によくわからない」

個人で開業した医師・歯科医師の先生から、このような相談を受けることがあります。

個人開業医の資金繰りで大事なのは、損益計算書の利益だけを見るのではなく、所得税・住民税、院長生活費、減価償却費、借入元本返済まで含めて考えることです。

本記事では、借入返済が始まる前に、どれだけ利益を出しておく必要があるのかを、次の式で整理します。

手残り資金 = 税引前利益 - 所得税・住民税 - 院長生活費 + 減価償却費 - 借入元本返済

この金額が少なくとも0以上になるかを、まず確認するという考え方です。

言い換えると、

手残り資金 = 税引後利益 + 減価償却費 - 院長生活費 - 借入元本返済

でも見られます。

今回特に大事なのは、税引「後」まで残った利益で考えることです。利益が出ても、まず所得税・住民税でお金が出ていくからです。

結論からいうと、借入返済が始まる前に必要なのは、単に「黒字になること」ではありません。

税引前利益からまず税金が引かれ、その後に生活費が出ていき、元本返済は経費にならないまま資金だけが出ていくので、返済開始前にそこまで見越した利益水準を作っておく必要があります。

個人開業医が借入返済前に確認すべき税金、生活費、減価償却費、借入元本返済の4要素を示す図

個人開業医がまず確認したい資金繰りの式

改めて、個人開業医が借入返済開始後も資金繰りを回せるかを見るときの基本式は、次のとおりです。

手残り資金 = 税引前利益 - 所得税・住民税 - 院長生活費 + 減価償却費 - 借入元本返済

ここでいう税引前利益は、院長個人にかかる所得税・住民税を引く前の、クリニック事業から生じた利益という意味です。会計上の厳密な表示科目というより、資金繰りを見るための実務上の見方だと考えてください。

この式が0以上なら、ひとまず「返済開始後も最低限は回りそう」という目安になります。
逆にマイナスなら、帳簿上は利益が出ていても、院長個人の生活や借入返済を含めるとお金が足りなくなる可能性があります。

ただし、0ちょうどは安全圏ではありません。
納税時期のズレ、患者数の変動、予定外の修繕などがあるので、実務では少しでもプラスを残す前提で考える方が安全です。

個人開業医の手残り資金を、税引前利益から税金、生活費、借入返済を差し引き減価償却費を足して計算する式を示す図

なぜ黒字でも返済が苦しくなるのか

「黒字ならお金も残るはず」と思いやすいのですが、個人開業医の資金繰りは、そこが一致しません。
理由は、利益とお金の動きが一致しない項目がいくつもあるからです。

具体的には、まず所得税・住民税があります。これは経費ではありませんが、当然ながら実際にはお金が出ていきます。

さらに、院長生活費も経費ではありませんが、家計として現金が出ていきます。
逆に、減価償却費は経費ですが、その年に現金が出ていくわけではありません。

そして、借入元本返済は現金が出ていくのに、経費にはなりません。

このズレがあるため、開業初期は
「利益は出ている」「決算書も赤字ではない」
それでも
「手元資金が増えない」
という状態が起こります。

特に、元本据置期間が終わって返済が本格化する時期は、このズレが一気に表面化しやすいです。だからこそ、返済が始まる前に、利益だけでなく手残り資金がどうなるかまで確認する必要があります。

個人開業医の資金繰りで、税金、生活費、減価償却費、借入元本返済が利益と現金に与える影響の違いを示す比較図

借入金の元本返済が経費にならない理由

ここは、個人開業医の先生が一番つまずきやすいところです。
結論からいうと、借入金の元本返済は経費になりません。

一番わかりやすい理由は、借りたときに収入になっていないからです。
借入金は、売上でも雑収入でもありません。後で返す前提で、一時的に手元に入ってきたお金です。
収入にしていないものを返しているだけなので、返済時にも経費にはならない、と考えると整理しやすいです。

一方で、経費になるのは、借入金そのものではなく、借りるためのコストである利息です。
つまり、毎月の返済額のうち、利息部分は経費になり、元本部分は経費にならない、という理解が基本です。

では、借入金で買った内装や医療機器はどうなるのでしょうか。
ここで出てくるのが減価償却費です。

借入金で固定資産を買った場合、元本返済で経費になるのではなく、買った固定資産が減価償却費として年ごとに経費になる、という形になります。
つまり、
元本返済は経費にならない
でも
借入金で買った設備等は、減価償却費という形で経費になっている
ということです。

ここが、資金繰りを考えるうえで、とても重要です。

借入金で購入した設備について、元本返済は経費にならず、利息は経費になり、固定資産は減価償却費として経費になる流れを示す図

減価償却費を足し戻す理由

資金繰りの式で、減価償却費をプラスするのはなぜか。
答えは、減価償却費は利益を減らすが、その年に現金が出ていくわけではないからです。

たとえば、開業時に医療機器や内装を導入すると、実際のお金はその時点で出ています。
ところが会計や税務では、その全額をその年の経費にはせず、耐用年数に応じて毎年少しずつ減価償却費として落としていきます。

つまり、決算書上は毎年経費になりますが、少なくともその年の現金流出ではありません。
だから、資金繰りを見るときは、いったん利益から引かれている減価償却費を戻す必要があります。

ここを理解すると、「なぜ黒字でも返済が苦しいのか」がかなり見えやすくなります。
利益は減価償却費のぶん小さく見えますが、実際のお金は元本返済や生活費、税金で出ていきます。
したがって、返済を考えるときは、利益だけではなく、利益に減価償却費を戻した後で、税金・生活費・元本返済を差し引くという順番が大切です。

医療機器などの購入時に現金が出ていき、その後は減価償却費として複数年に分けて費用化される流れを示す図

6年前後で減価償却費が薄くなる点にも注意が必要です

ここは、開業後しばらくしてから資金繰りが苦しくなる典型的なポイントです。

医療機器の耐用年数は一律ではありませんが、実務上は6年償却のものが少なくありません。
そのため、開業時にまとめて導入した医療機器が多いクリニックでは、丸6年ほど経過したあたりから、減価償却費として計上できる金額が小さくなりやすいです。

すると、売上や日々の資金の動きが大きく変わっていなくても、経費として落とせる額が減るため、利益は出やすくなります。
その結果、所得税・住民税が増え、手残り資金が少なくなることがあります。

開業後1年目から5年目までは回っていても、6年前後から税負担が重くなり、資金繰りの余裕が急に小さくなるケースは珍しくありません。

ここは見落としやすいですが、とても重要です。
返済計画を見るときは、「今年回るか」だけでなく、減価償却費が薄くなった後に税金がどれだけ増えるか、手残り資金がどこまで減るかまで確認した方が安全です。

具体例で見ると、必要な利益はこう変わります

たとえば、あるクリニックで年間の数字が次のようだとします。

  • 税引前利益:1,600万円

  • 所得税・住民税:350万円

  • 院長生活費:600万円

  • 減価償却費:300万円

  • 借入元本返済:800万円

この場合、資金繰りの目安は、

1,600万円-350万円-600万円+300万円-800万円=150万円

です。
つまり、返済開始後も、年間150万円程度の余力は残る計算です。余裕が大きいとは言えませんが、ひとまず最低ラインは超えている、と考えられます。

逆に、税引前利益が1,400万円だった場合はどうでしょうか。

1,400万円-350万円-600万円+300万円-800万円=▲50万円

となります。
この場合、決算書上は利益が出ていても、実際には年間50万円分の資金が不足する計算です。
つまり、黒字と「返済できる」は同じではありません。

返済開始前に、必要利益をどう逆算するか

考え方としては、まず税引後利益の最低ラインを出すとわかりやすいです。
式を変形すると、資金繰りが0になる最低ラインは、

税引利益 = 院長生活費 + 借入元本返済 - 減価償却費

です。

たとえば、院長生活費が600万円、借入元本返済が800万円、減価償却費が300万円なら、必要な税引後利益は、

600万円+800万円-300万円=1,100万円

です。

つまり、まずは税引「後」で1,100万円残る必要がある、という見方ができます。
そこから逆算して、税引前利益をどこまで作る必要があるかを考えます。税額は、家族構成や各種控除で変わるため最後は個別試算が必要ですが、少なくとも税引後でいくら必要か
を先に押さえると、利益計画はかなり立てやすくなります。

利益が足りないなら、まず収入を増やす必要があります

式だけ見ると、手の打ち方は大きく3つです。
利益を増やすか、生活費を見直すか、返済条件を見直すかです。

ただし、個人開業医の経営として一番王道なのは、やはり利益を増やすことです。
端的に言えば、収入を増やす必要があります。

もちろん、無駄な支出の見直しも大切です。ですが、借入返済が本格化するタイミングで資金繰りを改善するなら、固定費削減だけでは限界があります。
新患数、再診率、自費率、診療単価など、売上に直結する部分の改善を避けて通るのは難しいです。

増患・集患の入口としてすぐ動きやすいのは、地域検索対策です。
関連記事のクリニックや診療所の増患・集患のためスグ取り組みたいMEO対策では、Googleビジネスプロフィールの整備や口コミ対応など、比較的着手しやすい施策を整理しています。
借入返済前に利益計画を見直すなら、資金繰りだけでなく、患者数をどう増やすかも一緒に考える方が実務的です。

「今の利益水準で返済が始まっても回るか判断したい」
「生活費まで含めて、どれだけ利益が必要か見てほしい」
「増患・集患も含めて、返済前の利益計画を整理したい」

このようなお悩みがある先生や事務長の方は、自己判断だけで進める前に、まずはご相談ください。

借入返済の見通しだけでなく、利益計画、増患施策、資金繰りまでまとめて整理したい先生や事務長の方は、ご状況に近いメニューからお進みください。

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返済前に確認したい3つのポイント

1.年単位だけでなく、月単位でも回るか

年ベースでプラスでも、納税月や賞与月だけ大きく資金が減ることがあります。
個人開業医は、年間収支だけで安心せず、月次資金繰り表でも確認した方が安全です。

2.6年前後に減価償却費が減った後も回るか

開業時にまとめて導入した医療機器は、6年償却のものが少なくありません。
そのため、開業当初は減価償却費の足し戻しで式が回っていても、6年前後で減価償却費が薄くなると、急に余裕がなくなることがあります。
ここは最初から見ておくべきポイントです。

3.追加の設備投資がないか

開業後しばらくすると、追加の医療機器、改装、IT投資が必要になることがあります。
これがあると、再び借入が増えたり、減価償却費や返済計画が変わったりします。

設備投資と減価償却の考え方をもう一度整理したい方は、関連記事のクリニックの設備投資で節税になる?も参考になります。

また、借入額そのものや運転資金の考え方を見直したい方は、関連記事の開業医が知っておくべき運転資金の目安|融資額の決め方と計算方法、これから開業予定で利益計画と事業計画書をあわせて見直したい方は、開業医専門の税理士が教える|融資の鍵を握る事業計画書完全ガイドも参考になります。

まとめ

個人開業医が、借入返済前にどれだけ利益を出すべきかを考えるときは、単に「黒字かどうか」では足りません。
見るべき式は、

税引前利益-所得税・住民税-院長生活費+減価償却費-借入元本返済

です。

言い換えると、

税引後利益 + 減価償却費 - 院長生活費 - 借入元本返済

が、少なくとも0以上になるかを確認する必要があります。
今回いちばん大事なのは、税引「後」まで残った利益で見ることです。

特に押さえたいのは、

税金がまず引かれること
元本返済は経費にならないこと
減価償却費は利益を減らしても現金を減らさないこと
6年前後で減価償却費が薄くなる可能性があること

の4点です。

「今の利益水準で返済が始まっても回るか判断したい」
「生活費まで含めて、どれだけ利益が必要か見てほしい」
「増患・集患も含めて、返済前の利益計画を整理したい」

このようなお悩みがある先生や事務長の方は、自己判断だけで進める前に、まずはご相談ください。

返済開始前の見通しだけでなく、利益計画、増患施策、設備投資までまとめて整理したい先生や事務長の方は、ご状況に近いメニューからお進みください。

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この記事の監修者

中込 政博

税理士法人シーガル

代表社員/

税理士・公認会計士

中込 政博

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

遠藤 大樹

税理士法人シーガル

代表社員/

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遠藤 大樹

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!

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