2025.8.17
医療専門税理士が教える|小規模企業共済と企業型DCの違い・節税効果

「老後の資金や、もしもの時の退職金、どうやって準備すればいいんだろう…」
開業医や医療法人を経営されている方の中には、このような不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
小規模企業共済や企業型DC(確定拠出年金)は、将来に備えた資金を積み立てながら、同時に税金の負担を軽くできるという大きなメリットがあります。
これらの制度は、支払った掛金が税金の計算のもととなる所得から差し引かれる仕組みになっているため、支払うべき税金が安くなります。つまり、「退職金準備」と「節税」を同時に実現できるのです。
この記事では、医療専門の税理士が、小規模企業共済と企業型DCについて、初心者の方にも分かりやすく解説します。具体的には、以下の内容を網羅しています。
【この記事でわかること】
小規模企業共済と企業型DCの基本的な仕組み
それぞれの制度がどんな人や医療法人におすすめなのか
両制度のメリット・デメリットと5つの違い
医療法人成りにおける制度の切り替え方法
この記事を最後までお読みいただくことで、ご自身の状況に合わせた最適な老後資金・退職金準備の方法が見つかり、同時に賢く節税する方法が理解できます。
- 【基礎知識】小規模企業共済とは?
- 小規模企業共済の仕組みと特徴
- 小規模企業共済はこんな方におすすめ
- 知っておくべきデメリットと注意点
- 【基礎知識】企業型DC(確定拠出年金)とは?
- 企業型DCの仕組みと特徴
- 企業型DCはこんな方や医療法人におすすめ
- 知っておくべきデメリットと注意点
- 小規模企業共済と企業型DC|5つの違いを徹底比較
- 1. 対象者(個人事業主か法人か)の違い
- 2. 掛金の負担者(誰が払うか)の違い
- 3. 掛金の上限と節税効果の違い
- 4. 資金の引き出しやすさ(換金性)の違い
- 5. 運用方法の違い
- 医療法人への組織変更を検討中の方へ|小規模企業共済から企業型DCへの切り替え
- 小規模企業共済の掛金を企業型DCへ移換できる?
- 切り替え時の注意点
- まとめ:退職金準備と節税は専門家への相談が一番の近道
- 退職金・老後資金に不安を抱えている方へ
- 専門家である税理士に相談する重要性
【基礎知識】小規模企業共済とは?
小規模企業共済の仕組みと特徴
小規模企業共済は、国が作った個人事業主や小規模な会社の役員のための積立制度です。将来に備えて積み立てたお金を、事業を廃止したり、役員を退任したりした時に受け取ることができます。これは、会社員にはないご自身の退職後の資金を準備するための仕組みと言えます。
この制度の最大の特徴は、支払った掛金が全額、税金の計算のもととなる所得から差し引かれることです。
積立金
毎月1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で自由に掛金を設定できます。節税効果
支払った掛金の合計額が、その年の税金計算のもととなる所得から差し引かれるため、結果として支払うべき税金が安くなります。運用
預かった掛金は、独立行政法人である中小企業基盤整備機構が安全に運用します。元本割れのリスクは低いですが、運用益は期待できません。
小規模企業共済はこんな方におすすめ
この制度は、以下のような方におすすめです。
個人開業医の先生
個人事業主には会社員のような退職金制度がありません。小規模企業共済は、ご自身の退職後の資金を計画的に準備できるため、最適な制度です。
知っておくべきデメリットと注意点
メリットの多い制度ですが、以下の注意点も理解しておくことが重要です。
短期解約による元本割れ
掛金を積み立てた期間が20年未満で任意に解約した場合、それまでに支払った掛金の総額よりも受け取る共済金が少なくなり、元本割れする可能性があります。特に、個人事業主から医療法人に組織変更(医療法人成り)をする際に、安易に解約すると元本割れのリスクがあるので注意が必要です。
資金の自由度
原則として、積立金は事業を廃止したり、役員を退任したりするまで引き出すことができません。急な資金が必要になった場合でも、積立金を取り崩すことができないため、別途、緊急時の資金を確保しておく必要があります。
運用益の低さ
運用は中小企業基盤整備機構が行うため、元本割れのリスクは低いですが、大きな運用益は期待できません。
【基礎知識】企業型DC(確定拠出年金)とは?
企業型DCの仕組みと特徴
企業型DCは、企業が導入する退職金制度の一つです。企業が従業員や役員のために掛金を拠出し、加入者である従業員が自ら年金資産の運用を行います。
この制度の大きな特徴は、以下の通りです。
掛金は会社が負担:
原則として、掛金は会社が全額負担します。会社が負担した掛金は、全額が経費(損金)となるため、法人税の負担を軽減する効果があります。
運用は従業員自身が行う:
従業員は、会社が提示した金融商品(投資信託や定期預金など)の中から、運用する商品を選びます。運用益は非課税で再投資されます。
受け取り時も税制優遇:
将来、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」が適用され、税負担が軽くなります。
企業型DCはこんな方や医療法人におすすめ
この制度は、以下のような方や医療法人におすすめです。
福利厚生を充実させたい医療法人
企業型DCは、従業員に対する退職金制度を整備する上で非常に有効です。従業員の老後資金形成を支援することで、従業員募集の際に「退職金制度あり」と明記できるようになり、採用力の向上や従業員の定着率アップにも繋がります。
役員退職金を計画的に準備したい医療法人
役員への掛金拠出も可能です。役員退職金を計画的に積み立てながら、法人の税負担を軽減することができます。
知っておくべきデメリットと注意点
メリットの多い制度ですが、以下の注意点も理解しておく必要があります。
原則60歳まで引き出せない
iDeCoと同様に、積み立てた資金は、原則として60歳になるまで引き出すことができません。
運用リスクがある
従業員が自分で運用するため、運用状況によっては元本割れのリスクがあります。
導入・運用コストがかかる
制度導入時のコンサルティング費用や、毎月の口座管理手数料などがかかります。従業員の人数が多い場合は、コストも増加します。
小規模企業共済と企業型DC|5つの違いを徹底比較
小規模企業共済と企業型DCは、どちらも節税効果のある優れた制度ですが、その仕組みや利用方法には大きな違いがあります。ここでは、特に重要な5つのポイントを比較して解説します。
1. 対象者(個人事業主か法人か)の違い
小規模企業共済 | 企業型DC | |
|---|---|---|
個人事業主 | 〇 | × |
医療法人の役員 | × | 〇 |
医療法人の従業員 | × | 〇 |
小規模企業共済は、個人事業主や営利法人の役員などが対象となります。非営利法人である医療法人の役員・従業員は加入できません。
企業型DCは、会社が導入する制度のため、医療法人の役員だけでなく、従業員も加入できます。
2. 掛金の負担者(誰が払うか)の違い
小規模企業共済 | 企業型DC | |
|---|---|---|
掛金の負担者 | 加入者(個人) | 原則、企業(医療法人) |
節税効果 | 個人の所得から差し引かれる | 法人の経費となるため法人税が安くなる |
小規模企業共済の掛金は、加入者である個人が支払います。
企業型DCの掛金は、原則として医療法人が負担します。ただし、規約によっては、従業員や役員自身が個人で掛金を上乗せして拠出することもできます。
3. 掛金の上限と節税効果の違い
小規模企業共済 | 企業型DC | |
|---|---|---|
月額上限 | 1,000円〜70,000円 | 拠出限度額が月額5.5万円(他の企業年金がない場合) |
年間節税額(税率20%の場合) | 最大16.8万円 | 最大13.2万円 |
備考 | 掛金の全額が税金計算のもととなる所得から差し引かれる | 企業が負担した掛金の全額が法人税計算のもととなる経費となる |
小規模企業共済の方が、企業型DCよりも月額の掛金上限が高く、多くの節税効果を得られる可能性があります。
4. 資金の引き出しやすさ(換金性)の違い
小規模企業共済は、任意解約で引き出すことができますが、20年未満の解約は元本割れのリスクがあります。
企業型DCは、原則として60歳まで引き出すことができません。
5. 運用方法の違い
小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構が運用するため、元本割れのリスクが低いのが特徴です。
企業型DCは、加入者自身が運用する金融商品を選びます。運用次第では元本割れのリスクも伴います。
医療法人への組織変更を検討中の方へ|小規模企業共済から企業型DCへの切り替え
小規模企業共済の掛金を企業型DCへ移換できる?
個人事業主として小規模企業共済に加入していた先生が、医療法人成りした場合、小規模企業共済の掛金をそのまま企業型DCへ引き継ぐ(移換する)ことはできません。
医療法人成りした時点で、先生は小規模企業共済の加入資格を失うため、以下のいずれかの手続きが必要になります。
任意解約
医療法人成りを機に、小規模企業共済を解約し、解約手当金を受け取ります。
加入者資格の喪失・継続
医療法人成り後、小規模企業共済を解約せずに掛金の払い込みを停止し、将来、共済金を受け取るための手続きを行います。
切り替え時の注意点
小規模企業共済から企業型DCへの切り替えを検討する際には、以下の点に注意が必要です。
小規模企業共済の元本割れリスク
前述の通り、小規模企業共済を20年未満で任意解約すると、元本割れする可能性があります。医療法人化のタイミングが加入から20年未満の場合は、解約せず、払い込みを停止する選択肢も考慮する必要があります。
企業型DCの導入手続き
企業型DCを導入するには、金融機関との契約や就業規則の変更など、複雑な手続きが必要です。また、従業員への説明会開催など、導入までに時間と費用がかかることも念頭に置いておく必要があります。
専門家への相談
小規模企業共済の解約や企業型DCの導入は、先生ご自身が判断する上で非常に難しい点が多く、将来の税負担にも影響します。専門家である税理士に相談し、総合的な視点から最適な移行プランを検討することが重要です。

まとめ:退職金準備と節税は専門家への相談が一番の近道

退職金・老後資金に不安を抱えている方へ
ここまで、小規模企業共済と企業型DCの仕組みや特徴、それぞれのメリット・デメリットについて解説してきました。しかし、ご自身のライフプランやクリニックの経営状況に最適な制度を判断するのは非常に難しいものです。
多忙な診療の合間に、複雑な制度の比較検討や将来のシミュレーションを行うのは非常に困難です。誤った選択は、将来の資金計画に大きな影響を与える可能性があります。
専門家である税理士に相談する重要性
小規模企業共済の加入から20年未満での医療法人成りや、企業型DCの導入手続きなど、高額な資金が動く判断は、一度実行すると修正が非常に難しいものです。
掛金や運用方法、さらには受け取り時の税金に至るまで、ご自身ですべてをカバーするのは非常に困難です。
私たちのような開業医・医療法人専門の税理士に相談することで、
ご自身のライフプランに合わせた最適な制度の選択
医療法人成り後のスムーズな資金移行
将来の税負担まで見据えた総合的なアドバイス など、専門家の視点から多角的なサポートを受けることができます。
「退職金制度について相談したい」「医療法人化を機に制度の切り替えを検討したい」とお考えの先生は、ぜひ一度、私たち税理士法人シーガルにご相談ください。
私たちは、開業医・医療法人専門の税理士法人として、税務顧問業務のほか、医療法人設立、一般社団法人による診療所開設、医院経営に関するご相談なども幅広く対応可能です。
この記事では、小規模企業共済と企業型DCの違い・節税効果に焦点を当てて解説しました。しかし、クリニックの節税対策には、他にも役員報酬の見直し、設備投資の活用、医療法人化など、多岐にわたる選択肢が存在します。
これらの対策を単体で実行するのではなく、自院の経営状況に合わせて組み合わせることが、手元に残るお金を最大化するための鍵となります。
クリニックの節税対策の全体像を知りたい方は、「【開業医・医療法人専門税理士解説】クリニック経営者のための節税対策」をご覧ください。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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