2025.8.5
クリニックの書面添付制度とは?税務調査との関係や利用率を解説
税務調査が不安、できれば調査の可能性を下げたい、今の申告体制で本当に大丈夫なのか確認したい。
クリニックを経営していると、このように感じる先生は少なくありません。
クリニックの申告では、保険診療と自費診療の売上が混ざることがあります。
現金売上が出ることもあります。
さらに、医療機器や内装など高額な支出も多く、院長個人のお金と医院のお金をきちんと分けて考える必要もあります。
そのため、申告書を作るだけでなく、「なぜその処理にしたのか」を説明できる状態にしておくことが大切です。
そこで知っておきたいのが、書面添付制度です。
医師の先生にわかりやすく言えば、書面添付制度は、税理士が「この申告は、こういう資料を確認して、こういう考え方で作成しました」と説明を添える制度です。
イメージとしては、申告内容について税理士が一定の確認をしたことを示す、確認書や保証書のようなものと考えるとわかりやすいです。
ただし、税務調査が来ないことを保証する制度ではありません。
事前通知を伴う調査であれば、税務署が医院へ直接連絡する前に、まず税務代理権限証書を提出している税理士へ意見を述べる機会が与えられます。
その段階で疑問点が解消すれば、実地調査に進まないこともあります。
一方で、事前通知を行わない調査では、調査通知前の意見聴取は行われません。
結論として、書面添付制度は「税務調査をゼロにする制度」ではありません。
その一方で、申告の質と説明力を高め、調査の省略や負担軽減につなげる制度としては、十分に検討する価値があります。

- 書面添付制度とは何か
- 書面添付制度があると税務調査の流れはどう変わるのか
- 書面添付制度を使うと、どれくらい税務調査が減る可能性があるのか
- 法人税・所得税の利用率はどれくらいか
- 書面添付制度の利用率はなぜ低いのか
- なぜクリニックでは申告の説明力が重要なのか
- 書面添付制度を活用するメリット
- 税務調査の前に、税理士が説明する機会が入る
- 意見聴取の段階で修正すれば、加算税がかからない場合がある
- 申告の中身が見えやすくなる
- 書面添付制度を活用するデメリット
- 書面を付けても、調査がなくなるとは限らない
- 医院側にも、資料整備と協力が必要になる
- 税理士によって品質差が大きい
- 書面添付制度が向いているクリニック
- 書面添付制度を検討するときに確認したいこと
- 1. 月次資料と証憑がそろっているか
- 2. 個人と医院のお金が分かれているか
- 3. 顧問税理士が中身まで見ているか
- よくある質問
- 書面添付を付ければ税務調査は来ませんか
- どれくらい税務調査が減る可能性がありますか
- 法人税や所得税では、どれくらい使われていますか
- 書面添付制度を使うと、税理士費用は上がりますか
- 書面添付制度は「付けるかどうか」より「活かせる体制か」が大切です
- 書面添付制度の活用を相談したい方へ
書面添付制度とは何か

書面添付制度とは、税理士が申告書を作成したときに、どの資料を確認し、どの論点をどう整理して申告したのかを書面で添付できる制度です。
医師の先生にわかりやすく言えば、税理士が申告内容をどこまで確認しているかを見える化する仕組みです。
単に申告書を提出するだけでなく、「こういう資料を見て、こう判断した」という説明が付くので、税務署に対しても、医院側に対しても、申告の中身が伝わりやすくなります。
クリニックでは、たとえば次のような論点が出やすくなります。
保険診療と自費診療の売上整理
院長個人と医院の支出区分
医療機器や内装工事の処理
ご家族への給与や役員報酬
役員貸付金や仮払金の整理
こうした論点は、単なる入力では終わりません。
どの資料を見て、どう確認して、なぜその処理にしたのかを説明できることが大切です。
その意味で、書面添付制度は、申告の中身を見える化する仕組みと考えると理解しやすいです。
書面添付制度があると税務調査の流れはどう変わるのか

通常の税務調査では、税務署から医院側へ事前通知があり、そこから日程調整や資料準備が始まります。
これに対して、書面添付制度を使っていて、税務代理権限証書も提出されている場合は、税務署が医院へ直接連絡する前に、まず税理士へ意見を述べる機会が与えられる流れになります。
意見聴取では、顕著な増減事項や会計処理の変更理由などについて、個別具体的に質疑が行われ、その結果を踏まえて調査に進むかどうかが判断されます。
また、意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合には、税理士等に対して「現時点では調査に移行しない」旨が、原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」により連絡されます。
ただし、その後に新たな疑義が生じた場合は、改めて調査に進む可能性があります。
ここで大事なのは、税務署から医院へ直接連絡が来る前に、税理士が説明できるワンクッションが入ることです。
これが、書面添付制度の実務上の大きな意味です。
書面添付制度を使うと、どれくらい税務調査が減る可能性があるのか

ここが一番気になるところだと思います。
結論から言うと、「必ず何%減る」と一律に言い切ることはできません。
ただ、参考になる資料はあります。
名古屋青年税理士連盟の2023年度制度部論文で紹介された法人税データでは、平成28年度の一般の実地調査率は3.4%、書面添付ありの場合の実地調査率は1.2%でした。
また、同論文が引用する名古屋税理士会制度部のアンケートをもとにした平成29年度〜令和4年度の集計では、意見聴取が行われた191件のうち73件が実地調査省略となっており、省略割合は約38%でした。
この2つをあわせて考えると、現実的な理解は次のとおりです。
書面添付を付ければ税務調査が来ない、ではない
ただし、一定割合で実地調査が省略される余地はある
そのため、実務的には、税務調査の省略や効率化が期待できる制度と捉えるのが自然です。
法人税・所得税の利用率はどれくらいか

利用率は、正直かなり低いです。
国税庁の令和6年度事務年報では、税理士関与がある申告件数のうち、書面添付があった割合は、所得税が1.5%、法人税が10.2%でした。
所得税は1%台、法人税でも1割強にとどまっているので、よく話題になる制度のわりに、実際にはまだ広く使われているとは言いにくい状況です。
書面添付制度の利用率はなぜ低いのか

「そんなに意味があるなら、なぜもっと使われていないのか」と感じる先生も多いと思います。
理由はかなり現実的です。
まず、税理士側の手間が増えることです。
書面添付を付けるには、通常の申告よりも、どの資料を見て、どの論点を確認し、どう判断したかを明確にしなければなりません。
そのため、普通の申告より工数が増えます。
次に、税理士側が制度利用に慎重になりやすい理由の一つが、懲戒処分のリスクです。
書面添付は、税理士が確認した資料や判断内容を自ら明らかにする制度なので、記載内容に虚偽があれば懲戒処分の対象になり得ます。
国税庁の資料でも、書面添付の虚偽記載は、戒告または1年以内の税理士業務停止の対象とされています。
そのため、確認資料が不足している先や、事実関係が固まっていない案件では、税理士が書面添付に慎重になるのは自然です。
さらに、判断が分かれる論点を書きにくいという事情もあります。
わざわざ争点になりそうな事項を添付書面に書くことに慎重になる税理士は少なくありません。
そのうえ、意見聴取まで進んでも最終的に調査へ移行すれば、増えた工数や追加費用の負担に対して、制度の効果を感じにくい面もあります。
つまり、制度に意味がないというより、手間・責任・効果の見えにくさが重なって、広がりにくいのが実情です。
なぜクリニックでは申告の説明力が重要なのか

クリニックは、一般的な事業に比べても、申告で説明すべき論点が多くなりやすいです。
たとえば、
保険診療と自費診療が混在する
窓口収入、未収金、返金などの整理が必要になる
自費診療や物販で現金性のある売上が出ることがある
院長個人と医院のお金が混ざりやすい
ご家族への給与や役員報酬の整理が必要になる
医療機器や内装など、高額支出の判断が多い
といった事情があります。
そのため、クリニックでは、申告書を作ること自体よりも、申告の根拠を説明できる状態にしておくことが大切です。
書面添付制度は、その説明力を高めるうえで相性の良い制度です。
書面添付制度を活用するメリット

税務調査の前に、税理士が説明する機会が入る
いきなり医院へ事前通知が来るのではなく、まず税理士へ意見聴取が入る可能性があります。
税務署から直接連絡が来る前に、税理士が前に出られることは、医院側から見ても大きな意味があります。
意見聴取の段階で修正すれば、加算税がかからない場合がある
国税庁は、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出された場合、調査通知前であれば加算税が賦課されないと案内しています。
そのため、書面添付制度を利用している場合は、意見聴取の段階で修正できれば、本税のみで済む可能性がある点も見逃せません。
申告の中身が見えやすくなる
書面添付制度を前提にすると、税理士側は、何を確認して申告したのかを明確にしなければなりません。
そのため、医院側でも、税理士がどこまで資料を確認し、どこまで申告内容を整理しているのかが分かりやすくなります。
書面添付制度を活用するデメリット
書面を付けても、調査がなくなるとは限らない
書面添付があっても、疑問点が解消しなければ税務調査は行われます。
また、事前通知を行わない調査では意見聴取が行われません。
ここは過度に期待しない方がよい部分です。
医院側にも、資料整備と協力が必要になる
良い書面添付は、税理士だけでは作れません。
帳簿、領収書、通帳、カード明細、売上資料が整理されていなければ、書面の中身も薄くなります。
税理士によって品質差が大きい
書面添付制度は、付いていれば同じというものではありません。
医療機関特有の論点を理解しているか、どこまで月次で見ているかで、実際の価値はかなり変わります。
書面添付制度が向いているクリニック

次のようなクリニックは、書面添付制度を前向きに検討しやすいです。
月次資料の提出が比較的安定している
自費診療や自由診療の集計ルールが明確
院長個人と医院のお金が分かれている
設備投資や役員報酬など、説明が必要な論点を事前に相談している
税務調査を減らしたいだけでなく、申告体制そのものを整えたい
逆に、
資料提出が遅い
個人と法人のお金が混ざっている
役員貸付金や仮払金の整理ができていない
決算直前まで資料が固まらない
という状態なら、先に整えるべき部分が多いです。
その場合は、書面添付を付ける前に、まず申告体制を立て直す方が先です。
書面添付制度を検討するときに確認したいこと
書面添付制度を本当に活かせるかどうかを考えるときは、次の3点を見れば十分です。
1. 月次資料と証憑がそろっているか
後から領収書を探すような状態では、良い書面は作れません。
2. 個人と医院のお金が分かれているか
院長個人の支出が混ざると、制度以前に、申告そのものの説明が難しくなります。
3. 顧問税理士が中身まで見ているか
単に会計ソフトへ入力して申告するだけではなく、売上の流れ、支出の中身、設備投資や役員報酬まで確認しているかが重要です。
よくある質問
書面添付を付ければ税務調査は来ませんか
来ないとまでは言えません。
ただし、事前通知を伴う調査であれば、税理士への意見聴取が入り、そこで疑問点が解消すれば、実地調査に進まない可能性があります。
一方で、事前通知を行わない場合には調査通知前の意見聴取は行われません。
どれくらい税務調査が減る可能性がありますか
一律には言えません。
ただ、参考になる資料では、法人税データで一般の実地調査率3.4%に対して、書面添付ありは1.2%という整理があります。
また、一部集計では、意見聴取が行われた案件のうち約38%が実地調査省略という見方もできます。
そのため、税務調査の省略や効率化が期待できる制度と理解するのが自然です。
法人税や所得税では、どれくらい使われていますか
国税庁の令和6年度事務年報では、所得税は1.5%、法人税は10.2%でした。
所得税は特に低く、法人税も1割強です。
書面添付制度を使うと、税理士費用は上がりますか
事務所によりますが、追加の確認や書面作成の工数が増えるため、費用が上がる可能性はあります。
実際、現場では、制度のメリットよりも事務負担や責任の重さを大きく感じる税理士が少なくありません。
書面添付制度は「付けるかどうか」より「活かせる体制か」が大切です
書面添付制度は、制度の知識だけで判断するものではありません。
実際には、クリニックの会計体制、証憑管理、個人と医院の資金区分、税理士の関与の深さによって、活かせるかどうかが大きく変わります。
たとえば、月次資料がそろっていない、個人と医院のお金が混ざっている、決算直前まで論点が整理できていないという状態では、制度を付けても効果を感じにくいことがあります。
逆に、資料提出や論点整理ができていれば、申告の説明力を高める手段として機能しやすくなります。
そのため、書面添付制度を検討するときは、制度があるかどうかだけでなく、今の申告体制で本当に活かせる状態かまで見ておくことが大切です。
書面添付制度の活用を相談したい方へ
書面添付制度を付けるべきかどうかは、制度だけを見ても判断しにくい部分があります。
クリニックの会計体制や証憑管理、個人と医院の資金区分、現在の申告の進め方まで含めて整理すると、向き不向きが見えやすくなります。
「うちでも書面添付制度を活用できるのか知りたい」
「今の申告体制で、どこまで対応できるのか確認したい」
「制度を付ける前に、先に整えるべき点を整理したい」
このような場合は、ご状況に応じてご相談ください。


この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
\税理士変更をご検討中の方へ/
ゆるやかな税理士変更プラン
60日の移行期間中は無料!
移行期間中はいつでもキャンセルできますので、現在の税理士との契約継続を選択することも可能です。移行期間終了後に自動で正式契約に切り替わることもありません。


