2025.7.2
全損で運用しながら退職金積立をする唯一の方法|医療専門税理士解説
- 企業型DCが全損で運用しながら退職金積立をする唯一の選択肢
- なぜ今、企業型DCが注目されるのか?その理由とメリットの全体像
- 企業型DC(確定拠出年金)の具体的なメリット
- 企業型DCは「全額損金」で積立可能(法人の節税効果)
- 運用益は「非課税」で効率的に資産を増やす(個人の節税効果)
- 社会保険料を削減可能(個人・法人ともに)
- 受け取り時は「退職所得分離課税」で税負担を大幅軽減
- 月1万円から始める企業型DC:年齢別・長期積立シミュレーション
- 全損退職金積立(企業型DC)と他制度(保険・中退共など)の違いを徹底比較
- 企業型DCと生命保険の比較:税制優遇と流動性の違い
- 企業型DCと中小企業退職金共済(中退共)の比較:制度設計と運用の違い
- あなたの医療法人に最適な退職金積立方法は?
- まとめ
企業型DCが全損で運用しながら退職金積立をする唯一の選択肢
医療法人の役員や従業員の退職金を全額損金で積立でき、さらに自身で運用先を選べる、日本で唯一の方法が企業型DC(企業型確定拠出年金)です。
この制度は、2001年にスタートした私的年金制度で、原則60歳以降に年金や一時金として受け取ることができます。

なぜ今、企業型DCが注目されるのか?その理由とメリットの全体像
「老後2,000万円問題」が広く認知され、公的年金だけでは豊かな老後を送ることが難しいという認識が広がる中、医療法人の理事長も、ご自身や従業員の将来の生活資金確保に大きな不安を感じているのではないでしょうか。
退職金の支給額は、退職理由や学歴、勤続年数などによって異なります。
しかし、東京都が発表した「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」によると、たとえば4年生大学を卒業し、30年以上同じ会社に勤めた方の退職一時金(平均)は、わずか733.5万円(7,335千円)にとどまっています。

7,335千円という金額は決して十分な額とは言えません。
長引く低金利と社会保険料負担の増加は、個人の資産形成を困難にし、既存の退職金制度や積立方法だけでは、目標とする老後資金に到達することが極めて難しくなっています。
このような背景の中で、全額を法人経費として損金算入でき、社会保険料の削減効果も期待できる企業型DCは、単なる節税策に留まらない、「法人のお金で個人の資産を効率的に増やし、老後の不安を解消する」唯一無二の解決策として、今、最も注目されているのです。
企業型DC(確定拠出年金)の具体的なメリット
企業型DCの導入は、老後資金の不安解消に繋がるだけでなく、法人・個人双方に多くのメリットをもたらします。
ここでは、その具体的なメリットをご紹介します。
企業型DCは「全額損金」で積立可能(法人の節税効果)
企業型DCで法人が従業員のために拠出する掛け金は全額損金として計上することができます。
これは、税務上の費用として認められることを意味し、結果として法人の税負担を大きく軽減します。
通常の生命保険などを活用した退職金積立では、保険料の一部しか損金算入できないケースや、解約返戻金が益金となることで課税が発生するケースがあります。
しかし、企業型DCであれば、拠出時と運用益の両面で税制優遇を受けられるため、より効率的な退職金準備が実現できるのです。
このように、企業型DCは、医療法人の安定した経営基盤を築きながら、賢く退職金を積み立てるための強力なツールとなります。
運用益は「非課税」で効率的に資産を増やす(個人の節税効果)
企業型DCは法人や従業員が拠出した掛け金を運用して積立金を増やすことになりますが、その運用益に対して税金はかからず非課税になります。
これは、資産形成において極めて大きなメリットです。
通常の株式投資や投資信託、銀行預金などで得た利益には、所得税や復興特別所得税、住民税合わせて約20%の税金がかかります。
しかし、企業型DCでは、運用中に発生した利益(利息、配当金、売却益など)には一切課税されません。
想像してみてください。
もし毎年100万円を積み立て、年利3%で運用できる金融商品があったとします。
【通常の課税口座の場合】
運用益3万円から税金約20%(6,000円)が差し引かれ、実際に手元に残るのは2万4,000円。この2万4,000円が翌年の運用に回るため、複利効果が目減りします。
【企業型DC(非課税口座)の場合】
運用益3万円がまるごと再投資されます。税金で引かれる分がないため、「雪だるま式」に効率よく資産が増えていく「複利効果」を最大限に享受できるのです。
この非課税の恩恵は、特に長期で運用すればするほど、雪だるまが大きくなるようにその差は歴然となります。
老後資金という長期的な視点での資産形成において、運用益が非課税であることは、課税される場合と比べて最終的な受取額に大きな差を生み出す、企業型DCの強力な特長です。
では、具体的に毎年100万円ずつ20年間運用を続けた場合、企業型DCと通常の課税口座でどれくらいの差が生まれるか見てみましょう。
【条件】
毎年の積立額:100万円
年間の運用利回り:3%
運用期間:20年
運用益への課税:通常の課税口座は約20%(企業型DCは非課税)
【通常の課税口座の場合のシミュレーション】

【企業型DC(非課税口座)の場合のシミュレーション】

※上記は簡易的なシミュレーションであり、税制改正、個別の運用状況、手数料などによって結果は異なります。小数点以下の端数処理により多少の誤差が生じる場合があります。
この詳細なシミュレーションからも、非課税メリットがいかに長期的な資産形成において強力な効果を発揮するかがお分かりいただけると思います。
運用期間が長くなればなるほど、複利効果と非課税の相乗効果で、最終的な積立額の差は拡大していきます。
社会保険料を削減可能(個人・法人ともに)
給料の約30%にも及ぶ社会保険料は、法人(事業主負担分)と従業員・役員(個人負担分)がそれぞれ負担しており、今日の医療機関経営において多大な負担となっています。
この大きな固定費をいかに最適化するかは、経営の安定化と従業員の満足度向上に直結する重要な課題です。
企業型DCは個人側(役員や従業員負担分)と法人側の社会保険料(会社負担分)の双方の社会保険料の負担を軽減することができます。
なぜ社会保険料が削減できるかというと、企業型DCの掛け金は給与や賞与とは異なり、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の算定対象とならないためです。
たとえば、もし役員報酬の一部を減額し、その減額分を企業型DCの掛け金として拠出した場合を考えてみましょう。
【個人にとってのメリット】
個人の社会保険料負担が減ります。
確かに、企業型DCの掛け金分は手取りとして直接受け取るわけではありません。
しかし、その掛け金が社会保険料の計算対象から外れることで、掛け金に対して通常課されるはずだった社会保険料(約15%)の負担がなくなるため、実質的な「手出し」が減るという形で恩恵を受けられます。
例えば、毎月1万円を掛金として拠出すると、社会保険料が約1,500円(1万円の約15%)減るため、実際の手出しは8,500円(1万円 - 1,500円)になるイメージです。
支払う社会保険料が減る分、将来の退職金に充当できる金額を増やせる、賢い資産形成の方法と言えます。
【法人にとってのメリット】
支払う社会保険料の会社負担分も減ります。
これは、毎月の固定費として出ていくキャッシュアウトを抑えることに直結し、医療法人の経営をより安定させます。
特に社会保険料負担が大きい高所得の医師や、従業員数が多く社会保険料の総額が大きい医療法人にとって、この社会保険料削減効果は非常に魅力的です。
受け取り時は「退職所得分離課税」で税負担を大幅軽減
企業型DCで積み立てた資産は、原則60歳以降に年金、一時金、またはその併用という形で受け取ることができます。
企業型DCを「一時金」として受け取る場合にのみ適用される税制が、「退職所得分離課税」です。
この税制は、給与所得など他の所得と比べて非常に優遇されており、積立金を効率的に受け取るための大きなメリットとなります。
通常の給与や事業所得は、その年の他の所得と合算されて「総合課税」が適用されるため、所得が上がるほど税率も高くなります。
しかし、企業型DCの一時金(退職金として受け取る場合)は、この他の所得とは「分離」して税額が計算されるため、税負担が大幅に軽減されます。
さらに、退職所得には「退職所得控除」という特別な控除制度が適用されます。この控除額は、勤続年数に応じて以下のように計算されます。
勤続20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
勤続20年超の場合: 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
例えば、30年間勤務した方の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 800万円 + 700万円 = 1,500万円」となり、この金額までは税金がかからないことになります。
実際に税金がかかるのは、「(一時金の額 - 退職所得控除額) ÷ 2」で計算された金額に対してです。
控除額が大きく、さらにその半分にしか課税されないため、退職金にかかる税負担を大幅に抑えることが可能です。
このように、企業型DCは、積み立てから運用、そして受け取りに至るまで、税制面で手厚い優遇が用意されており、医療法人の経営者や従業員の皆様が老後資金を効率的かつ有利に形成するための強力なツールとなるのです。
月1万円から始める企業型DC:年齢別・長期積立シミュレーション
老後の生活資金について考えるとき、「毎月いくら積み立てればいいんだろう?」と悩む方も多いでしょう。
まとまった金額を一度に用意するのは難しくても、企業型DCは月々1万円という無理のない金額からでも、長期で積立を続けることで大きな資産を築ける可能性を秘めています。
ここでは、月1万円(年間12万円)を企業型DCで積み立てた場合、年齢(運用開始時期)によって将来の資産がどう変わるのか、具体的なシミュレーションで見ていきましょう。
非課税運用による複利効果が、いかに効率的な資産形成を可能にするかがお分かりいただけるはずです。
なお、比較的堅実な年利3%で運用できた場合の年齢別シミュレーションをご紹介します。
S&P500などの長期平均リターンはこれよりも高い傾向にありますが、ここではより実現可能性の高い数字を採用しています。

※上記は簡易的なシミュレーションであり、実際の運用成果や手数料、税制改正などによって結果は異なります。小数点以下の端数処理により多少の誤差が生じる場合があります。
このシミュレーションが示す通り、月々1万円という少額でも、30歳から始めれば約582万円もの老後資金を築ける可能性があります。
これは、元本の360万円に対して、非課税の運用益だけで約222万円も増えていることを意味します。
一方で、運用開始が遅れると、同じ月額でも最終的な積立額は大きく減少することが分かります。
全損退職金積立(企業型DC)と他制度(保険・中退共など)の違いを徹底比較
医療法人の退職金制度を検討する際、企業型DC以外にも、生命保険を活用した積立や中小企業退職金共済(中退共)など、いくつかの選択肢が存在します。
しかし、「全額損金で運用しながら退職金を積み立てられる」という点で、企業型DCはこれらの他制度とは一線を画す、唯一無二の存在です。
ここでは、企業型DCがなぜこれほどまでに注目されるのかを明確にするため、他制度との具体的な違いを比較し、それぞれのメリット・デメリットを徹底解説します。
企業型DCと生命保険の比較:税制優遇と流動性の違い
生命保険、特に福利厚生プランとして活用される終身保険などは、企業の退職金準備として利用されることがあります。
【企業型DCの主な特徴】
掛金の全額損金算入: 企業が拠出する掛金は、法人税計算上、全額損金となります。これにより、法人の税負担を大きく軽減できます。
運用益が非課税: 運用期間中に得られた利益は、非課税で再投資されます。この非課税メリットにより、効率的な複利運用が可能です。
社会保険料削減効果: 掛金は社会保険料の算定対象外であるため、法人・個人双方の社会保険料負担を軽減できます。
流動性の制限: 原則として、資産の引き出しは60歳以降となり、途中の引き出しは基本的にできません。
運用は加入者が選択: 運用商品は加入者自身が選択・指図します。
掛金の上限額: 法令で定められた拠出限度額があります(例:企業型DCのみの場合は月額55,000円、iDeCoと併用の場合は月額27,500円など)。
【生命保険(福利厚生プラン)の主な特徴】
損金算入の制限: 保険の種類によっては、保険料の一部(例: 1/2や1/3など)しか損金算入できないケースが多いです。全額損金となることは稀です。
運用益への課税: 満期保険金や解約返戻金を受け取る際、運用益部分に対して法人税などが課税される可能性があります。
社会保険料削減効果なし: 社会保険料の削減効果はありません。
流動性(中途解約返戻金): 一定期間経過すれば、中途解約返戻金として資金を取り崩すことが可能です。ただし、解約時期によっては元本割れのリスクがあります。
運用は保険会社に一任: 運用は保険会社が行うため、加入者が個別に運用商品を選ぶことはできません。
保険料の上限の柔軟性: 法令による明確な上限は企業型DCほど厳しくなく、保険契約の内容や企業の判断によって比較的柔軟に設定できます。
生命保険は流動性に優れる側面がありますが、税制優遇の面では企業型DCの方が圧倒的に有利であることが分かります。
特に、掛金の全額損金算入と運用益の非課税は、長期的な資産形成において大きな差を生み出します。
また、保険料の上限は企業型DCよりも柔軟に設定できる傾向にありますが、税務上の損金算入割合には注意が必要です。
企業型DCと中小企業退職金共済(中退共)の比較:制度設計と運用の違い
中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業のための退職金制度として広く利用されています。
【企業型DCの主な特徴(再掲)】
掛金の全額損金算入: 法人の全額損金です。
運用益が非課税: 運用期間中は非課税です。
社会保険料削減効果: 法人・個人双方の社会保険料削減効果があります。
運用は加入者が選択: 加入者自身の責任で運用を行います。
掛金の上限額: 個人の確定拠出年金と合わせた拠出限度額があります。
【中小企業退職金共済(中退共)の主な特徴】
掛金の全額損金算入: 掛金は全額損金算入が可能です。この点は企業型DCと同様のメリットです。
運用益の低さ(元本割れリスクも): 中退共の運用は国が安全性を重視して行っているため、比較的低利回りに設定されています。インフレが進む状況では実質的な価値が目減りする可能性があり、運用期間が短い場合には元本割れのリスクもあります。
社会保険料削減効果なし: 掛金は社会保険料の算定対象外ですが、社会保険料そのものの削減効果はありません。
運用は国が管理: 運用は独立行政法人勤労者退職金共済機構が行うため、加入者が運用商品を個別に選択することはできません。
掛金の上限額: 従業員ごとに定められた月額の掛金上限があります。
外部積立型: 法人外部で積立が行われるため、積立金の管理負担が少ないです。
中退共も掛金の全額損金算入という大きなメリットがありますが、運用を個人が選択できない点、運用益の期待値が低い点、そして社会保険料削減効果がない点が企業型DCとの主な違いです。
特に、理事長や役員が高額な掛金を設定し、自身のライフプランに合わせて積極的に運用したいと考える場合は、企業型DCが有利となるでしょう。
あなたの医療法人に最適な退職金積立方法は?
ここまで、企業型DCが持つ税制面での優遇(掛金の全額損金算入、運用益の非課税、社会保険料削減)や、他の退職金制度との比較を通じて、その「唯一無二」とも言えるメリットをご紹介してきました。
しかし、「最適な退職金積立方法」は、それぞれの医療法人の現状や目標によって異なります。
もし、あなたの医療法人が以下の点に一つでも当てはまるなら、企業型DCは最適な解決策となる可能性が高いです。
法人税の負担を軽減したい:企業が拠出する掛金は全額損金となり、法人の税負担を直接的に軽減できます。
社会保険料の負担を減らしたい:役員報酬の一部をDC掛金に充てることで、法人と個人の社会保険料負担を双方で削減できます。これは特に高所得の役員や多くの従業員を抱える法人にとって大きなメリットです。
効率的に資産形成したい:運用益は非課税で再投資され、複利効果を最大限に享受できます。また、受け取り時には退職所得控除などの優遇税制が適用されるため、税負担を大幅に抑えられます。
優秀な人材を確保・定着させたい:手厚い退職金制度は、従業員満足度を高め、採用競争力を向上させる強力な福利厚生となります。
既存の退職金制度に課題を感じている:現在の積立方法で十分な退職金が準備できるか不安、または税制優遇が少ないと感じているなら、見直しのタイミングかもしれません。
まとめ
企業型DCは、そのメリットの大きさから注目されていますが、導入には制度設計や従業員への説明、運用商品の選定など、専門的な知識が必要です。
特に、医療法人の場合は、役員報酬とのバランスや、将来的な事業承継なども考慮に入れた上で、最適なプランを立てる必要があります。
私たち税理士法人シーガルは開業医・医療法人専門の税理士法人ですので税務顧問業務のほか、医療法人設立、一般社団法人による診療所開設、医院経営に関するご相談なども対応可能です。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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