最新の中医協資料(医療機関を取り巻く状況について 2025年4月23日分 2025年8月27日分 )が明らかにした2023年度のデータは、多くの経営者が直面している課題の深刻さを、改めて浮き彫りにするものでした。医業利益率がマイナスに転じ、過半数の病院が赤字経営に陥っているという厳しい現実が明らかになったのです。
この状況は、診療報酬の枠を超えた、人件費や材料費、委託費の高騰といった構造的な課題が、経営を圧迫していることに起因します。
本記事では、この中医協資料を医療法人専門の会計士が徹底的に読み解き、皆さまが直面している課題と、この危機を乗り越えるための具体的なヒントを分かりやすく解説いたします。
- 中医協資料が示す「医業利益率マイナス」の衝撃
- 深刻な経営危機:医業利益率がマイナスに転落
- 機能・規模・地域別に異なる利益率の現実
- 病院経営を圧迫するコスト増の正体
- 高騰する人件費:給与増、高齢化、専門職比率の上昇が要因
- 見過ごせない材料費と委託費:収益増を上回るコスト増
- 診療報酬増だけでは解決しない、資金繰りの落とし穴
- ファクタリング増加が警告する、キャッシュフローの危機
- 現預金回転期間が示す、最低限の現預金で運営するリスク
- 医科診療所との比較から見出す、病院経営の特殊な課題
- なぜ医科診療所は安定しているのか?
- 入院収益が赤字の有床診療所の共通点
- 医療法人専門の会計士が提言する、経営改善へのロードマップ
- ステップ1:客観的なデータで現状を正確に把握する
- ステップ2:コスト構造を最適化し、キャッシュフローを改善する
- ステップ3:専門家と連携し、持続可能な経営体制を構築する
中医協資料が示す「医業利益率マイナス」の衝撃
2023年度の医療法人立病院の経営状況は極めて厳しいことが明らかになりました。
深刻な経営危機:医業利益率がマイナスに転落

2023年度の医療法人立病院の医業利益率は、平均値がマイナス0.7%、中央値がマイナス0.9%と、いずれも赤字を示しています。これは、病院が本業である医業活動で利益を上げられていないことを意味します。
医業利益が赤字の病院は全体の55.2%に上り、過半数を超えています。また、経常利益についても41.6%の病院が赤字という厳しい現実が示されています。
機能・規模・地域別に異なる利益率の現実
病院の機能別に見ると、特定機能病院、高度急性期、急性期A・Bといった急性期に分類される病院の医業利益率が、他の分類と比較して低い傾向にあります。特に、高度急性期病院は経常利益率も平均値・中央値ともにマイナスとなっています。
規模別では、一般病院は規模が大きいほど、療養型病院と精神科病院は規模が小さいほど、利益率が低い傾向が見られます。
地域別に見ても、厳しい状況は変わりません。特に人口少数地域型の病院では62.1%が医業利益赤字であり、大都市型(53.5%)や地方都市型(54.6%)でも赤字病院が過半数を超えていることから、地域を問わず病院経営の厳しさがうかがえます。
なお、人口少数地域型とは、二次医療圏のうち、大都市型(人口が100万人以上または人口密度が2,000人/km²以上)と地方都市型(人口が20万人以上または人口10~20万人で人口密度が200人/km²以上)のいずれにも該当しない地域と定義されています。
病院経営を圧迫するコスト増の正体
医業収益の増加を上回る医業費用の増加が、病院経営を圧迫する大きな要因となっています。その中心にあるのが人件費です。
高騰する人件費:給与増、高齢化、専門職比率の上昇が要因
2018年と比較した2024年時点での医療関係職種の所定内給与額は、6年間で11.2%増加しました。

従業者の年齢上昇による人件費の増加も生じており、看護師では6年間で0.8%、リハビリテーション系職種では3.0%に相当します。看護職員に占める看護師比率の上昇も、6年間で看護職員の人件費の1.1%に相当する増加要因となっています。

見過ごせない材料費と委託費:収益増を上回るコスト増
人件費だけでなく、材料費や委託費も高騰しています。病院の医薬品費は2019年度から2023年度にかけて21.1%増加しました。

また、医療機器の保守点検、医療事務、入院患者の食事など、主要な委託費は2018年6月から2024年6月にかけて25.1%増加しました。これらのコスト増が、医業収益の増加を上回り、経営を圧迫する大きな要因となっています。

診療報酬増だけでは解決しない、資金繰りの落とし穴
損益計算書上の利益がプラスであっても、キャッシュフローが回らなければ経営は立ち行かなくなります。多くの病院がこの資金繰りの問題に直面していることを示しています。
ファクタリング増加が警告する、キャッシュフローの危機
資金繰りの改善策の一つとして、診療報酬債権の譲渡(ファクタリング)が利用されています。医科の診療報酬債権の譲渡件数は、2023年度から2024年度にかけて増加傾向にあります。

ファクタリングには手数料がかかり、その相場は一般的に1.0%~2.0%程度です。ただでさえ低い医業利益率からさらに手数料が差し引かれるため、利益をさらに悪化させる要因となります。
また、社会保険診療報酬支払基金(社保)や国民健康保険団体連合会(国保)への請求から入金までには、通常約2か月かかります。ファクタリングを利用すると、この入金サイクルを短縮できますが、一度利用を始めると、ファクタリングを止めるにはこの2か月分の運転資金を自前で用意する必要が出てきます。そのため、一度ファクタリングを利用すると、それをやめることは非常に難しいという側面があります。
会計士の視点から言えば、ファクタリングは一時的な資金繰りの手段であり、継続的に利用することは利益を圧迫する要因となります。根本的な経営改善なしに安易に利用することは、決して望ましいことではありません。
現預金回転期間が示す、最低限の現預金で運営するリスク
病院のみを経営する医療法人の現預金回転期間の中央値は、わずか3.0か月と非常に短いです。これは、最低限の現預金で事業運営が行われている可能性が高いことを意味します。

また、これらの法人の約4割は債務償還年数がマイナスとなっています。

債務償還年数とは、借入金を何年で返済できるかを示す指標です。
具体的には、(短期借入金+長期借入金)から、すぐに現金化できる資産(事業未収金や棚卸資産)とすぐに支払うべき負債(買掛金や支払手形)を差し引いた金額を、経常利益に減価償却費などを加えた返済原資で割ることで計算されます。
この年数がマイナスであるということは、借入金の返済原資となる経常利益自体が赤字であり、実質的に借入金を返済できる見込みがない状況を意味します。
このような状況では、予期せぬ大きな支出や、設備投資のタイミングで資金不足に陥るリスクが高まります。
医科診療所との比較から見出す、病院経営の特殊な課題
病院経営の厳しさが浮き彫りになる一方で、同じ医療法人立の医科診療所は、比較的安定した経営を維持しています。この違いから、病院経営特有の課題が見えてきます。
なぜ医科診療所は安定しているのか?
病院が医業利益率で赤字に苦しむ中、医療法人立の医科診療所は、医業利益率の平均値が6.9%、中央値が4.1%といずれもプラスです。医業利益の黒字割合も66.6%と、病院と比較して安定した経営を維持しています。

これは、診療所では院長が経営の意思決定者である理事長を兼ねることが多いため、医業収入を確実に確保し、無駄なコストを徹底的に削減する意識が経営の隅々まで行き届いている点が大きな要因です。また、外来診療が中心であるため、人件費や材料費などの固定費が病院ほどかからないことなども、安定経営の要因として考えられます。
入院収益が赤字の有床診療所の共通点
しかし、医科診療所の中でも、入院収益のある有床診療所は、入院収益がない無床診療所と比べて利益率が低い傾向にあります。医業利益が赤字の有床診療所は約半数を占めており、入院施設を持つことで発生する固定費(人件費、設備費など)が経営を圧迫している可能性が示唆されます。このことから、入院機能を持つこと自体が、経営の難易度を上げていることがわかります。
医療法人専門の会計士が提言する、経営改善へのロードマップ
厳しい経営環境と、それに伴う構造的な課題が明らかになった今、病院経営者の皆さまが取るべき行動とは何でしょうか。多忙な日々の業務の中で、経営改善の糸口を見つけるためのロードマップを提言します。
ステップ1:客観的なデータで現状を正確に把握する
まずは、自院の経営状況を多角的に分析することが不可欠です。医業利益率や経常利益率といった損益計算書上の数字だけでなく、現預金回転期間や債務償還年数といったキャッシュフローの指標も用いて、自院の「今」を正確に把握する必要があります。
特に、病院以外に介護老人保健施設(老健)や診療所など、複数の部門を運営している場合は、部門ごとに損益を適切に作成し、どの部門が利益を生み、どの部門がコストを圧迫しているのかを正確に把握することが、経営改善の第一歩となります。
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ステップ2:コスト構造を最適化し、キャッシュフローを改善する
経営を圧迫しているコスト増を抑制しつつ、診療報酬の適切な算定を徹底することで、収支の改善を図ります。また、現預金の確保に向けた具体的な計画を立て、資金繰りの安定化を目指します。
ステップ3:専門家と連携し、持続可能な経営体制を構築する
激変する経営環境に対応するためには、専門家の知見が不可欠です。税理士法人シーガルは、医療法人専門の税理士・会計士として、最新のデータを読み解き、貴院の状況に合わせた具体的な経営改善策をご提案します。
特に、税務顧問として日々の会計・税務をサポートしながら、経営改善に向けたアドバイスを継続的に行うことで、皆さまが安心して本業に専念できる環境を構築します。厳しい時代を生き抜くための羅針盤として、ぜひお気軽にご相談ください。




