2025.10.13
医療法人専門税理士解説|大手麻生美容クリニックG62億円申告漏れ
全国で100以上のクリニックを運営する麻生美容クリニック(ABC)グループが、国税から合計約62億円の申告漏れを指摘され、追徴課税約12億円を課されたというニュースが話題になっています。
美容医療グループが62億円申告漏れ 「見解の相違」所得隠しも指摘
この巨額な報道のどこに問題があったのか、どうすれば自分のクリニックは安全なのか、詳しく知りたいという方がほとんどだと思います。
この事例の核心は、国税が最も厳しくチェックする「関連会社との取引価格の妥当性」と「所得隠し」にあると考えられます。ABCグループは、グループ内の取引で仕入れを過大に計上していると判断されたことが、申告漏れの主要因と考えられます。
私たちがこの事例から学ぶべきなのは、安定した経営を続けるためには、MS法人との取引価格を市場価格に合わせて適正に保つことが、必須です。
本記事では、私たち医療法人専門の税理士が、この事例の論点を徹底的に解説します。
- なぜ62億円申告漏れで12億円の追徴課税になったのか?【税理士が分析】
- 【論点1】申告漏れの大部分を占めた取引価格の不適正
- 【論点2】前受金計上漏れによる過少申告リスク
- 【論点3】最も重いペナルティ!所得隠しと重加算税
- 申告漏れ総額62億円×法人税率23.2%=14.4億円だが…
- 税理士が教える!MS法人との関連会社取引で失敗しないための2原則
- 【原則1】取引実態と価格の妥当性を示す契約書の作成
- 【原則2】人件費に基づいた適正な価格根拠資料の作成
- よくある質問(FAQ)
- 医療法人は営利目的ではないので、利益を出してはいけないのでしょうか?
- MS法人は節税対策になりますか?
- 多くの医療法人がMS法人を作っているのはなぜですか?
- まとめ
なぜ62億円申告漏れで12億円の追徴課税になったのか?【税理士が分析】
この12億円という追徴課税は、単なる計算ミスで済む話ではありません。取引価格の不適正、売上計上漏れ、そして所得の過少申告が複合的に重なった結果です。

【論点1】申告漏れの大部分を占めた取引価格の不適正
申告漏れ総額62億円の大部分は、関連会社との取引から生じています。具体的には、基幹法人IDEAからの仕入れを過大に計上していたことが原因だと指摘されています。この過大仕入れは、関連会社間の取引価格が妥当ではないと税務署に判断された何よりの証拠です。
そもそも、税務上の原則では、取引価格が「適正な市場価格」から逸脱している場合、その差額分は通常の取引(仕入れや経費)とは認められません。医療法人がMS法人に対して、正当な理由なく市場価格より高い金額を支払ったとき、税務署はその過大支払い分を「寄附金」と認定します。
この寄附金認定がされた場合、まず医療法人側では、「寄附金は全額を損金(経費)にできない」という規定が適用されます。結果として、法人税の課税所得を不当に増やし、過少申告加算税の対象となり、追徴税額12億円の大きな要因になったと考えられます。
ここで特に問題となるのが、グループ全体で「二重課税」されるリスクです。
本来、法人税のグループ法人税制が適用される場合(下図「適用される場合」)、グループ内での寄附金は、支払う側で損金不算入となっても、受け取る側で益金不算入となるため、課税所得への影響は相殺されます(損益調整)。

しかし、麻生美容クリニックグループの医療法人のうち大半は持分なし医療法人であると推測されます。持分なし医療法人は2007年(平成19年)4月以降に設立が可能になった形態であり、税務メリットや事業承継を考慮して、持分ありから移行した可能性も高いです。持分なし医療法人は出資金がないためグループ法人税制の対象外となるうえ、今回の仕入れの過大計上のような通常の取引は、グループ法人税制の損益調整の対象外となる可能性が高いです。

グループ法人税制が適用されない場合(上図「適用されない場合」)は、寄附金認定され損金不算入となった過大支払い分について、関連会社(IDEA)側では通常の売上として全額が課税対象となってしまいます。つまり、医療法人の課税所得が増える一方で、IDEAの収益も課税対象となるため、グループ全体で大幅に税負担が増加するという結果を招いたのです。
過少申告加算税の税率は、原則10%ですが、追加で納める税額が一定の基準を超えると15%に増加するため、この巨額な事例では15%が適用されたものと推察します。
【論点2】前受金計上漏れによる過少申告リスク
前受け金(コース契約金など)の売上計上漏れも、大きな指摘事項の一つです。本来、美容クリニックの収入は施術した都度(役務提供の都度)計上するのが原則です。患者から受け取った現金を適正な時期に売上として計上しなかったため、これも過少申告加算税の対象となり、追徴税額を押し上げました。前受け金の計上漏れは、意図的な所得隠しではないとしても、処理を誤れば多額の過少申告加算税が課されるリスクがあります。
【論点3】最も重いペナルティ!所得隠しと重加算税
そして、基幹法人IDEAが指摘された約3億円の所得隠しは、税務署が意図的な行為だと判断したと考えられます。
重加算税は、申告納税制度において、申告義務が適切に履行されなかった場合に行政が課す加算税の一種です。事実を隠ぺい・仮装して、法人税などを少なく申告したり、あるいは申告をしなかったりした場合などに課されます。
一般的な所得隠しは、売上を帳簿外の別口座に入金したり、売上をなかったことにしたりする手法が取られます。今回の約3億円の所得隠しは、税務署が意図的であると判断した結果、最も重い加算税(重加算税)の対象となった可能性が高いです。
重加算税の税率は、本来納めるべき税額の35%(無申告の場合は40%)です。
申告漏れ総額62億円×法人税率23.2%=14.4億円だが…
追徴税額12億円が申告漏れ総額62億円に対して約20%と低く見える理由を考えます。法人税率は約23.2%ですから、もし62億円全額に課税されると単純計算で約14.4億円(62億円 × 23.2%)の法人税本体が発生します。しかし、追徴税額は12億円にとどまっています。
このことから、ABCグループの各法人には、多額の欠損金があった可能性が高いと考えられます。欠損金があれば、その法人税額に乗じる加算税も免除されるのが原則です。
しかし、今回の事例で巨額な追徴課税が発生したのは、所得隠しや不適正処理により課税所得が大幅に増加し、欠損金で相殺しきれないほどの法人税本体や加算税が発生したためだと考えられます。この複合的な要因こそが、巨額な追徴課税に繋がった構造だと理解すべきでしょう。
税理士が教える!MS法人との関連会社取引で失敗しないための2原則
これまでの分析で、私たちは麻生美容クリニックの事例から、MS法人(今回の事例の基幹法人IDEAのように、医療法人の経営や事務を支援する法人であり、メディカルサービス法人の略)との取引価格が税務調査で最も厳しく否認されるリスクを学びました。
このリスクは、多額の追徴課税につながる可能性があり、経営者が真剣に取り組むべき課題です。その危機から貴院を守るために、今すぐ実践すべき2つの重要な対策をご紹介します。
【原則1】取引実態と価格の妥当性を示す契約書の作成
MS法人との取引では、まず契約書自体が、取引の実態と価格の妥当性を証明する最初の証拠となります。契約書には、業務内容、料金の計算根拠、期間、支払い条件などを具体的に明記しなければなりません。
【原則2】人件費に基づいた適正な価格根拠資料の作成
取引価格が市場価格と比べて妥当であることを証明する価格根拠資料は、寄附金課税を回避するための最重要書類です。単に「グループ会社だから」という理由だけで高額な取引を続けると、寄附金課税の対象となり、経費として認められません。
MS法人の取引金額を決める際は、人件費、原価、その他経費をベースに、そこに適正な利益を加算した明確な計算根拠を設定することが重要です。この計算根拠こそが、取引価格の妥当性を裏付ける鍵です。
税理士法人シーガルでは、このような利益率が一覧でわかるような資料を作成しています。以下がそのサンプル資料になります。

よくある質問(FAQ)
医療法人は営利目的ではないので、利益を出してはいけないのでしょうか?
これはよくある誤解です。医療法人は非営利法人であり、営利を目的として活動することはできません。しかし、「営利目的ではない」というのは、得られた利益を配当として出資者(社員)に分配してはいけないという意味です。これは、医療法第54条で配当が禁止されているためです。
医療法第54条
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
医療法人が事業活動を通じて利益(剰余金)を出すこと自体は全く問題ありません。むしろ、設備の更新や医療の質の維持・向上のために、継続的に利益を出す必要があります。
重要なのは、「配当禁止」の規定に反する行為です。今回の麻生美容クリニックグループのように、MS法人への不適正な取引価格による支払い(過大仕入れ)は、医療法人の利益を不当にMS法人へ流出させる行為として、税務上は「寄附金」と認定されます。そして、この行為は医療法上の「配当類似行為」と見なされ、医療法人の解散命令につながるなど、非常に大きなリスクをはらんでいます。利益を出すことではなく、不適正な取引価格によって利益を外部に流出させることが問題となるのです。
MS法人は節税対策になりますか?
MS法人(メディカル・サービス法人)を設立すること自体が、直接的な節税対策になるわけではありません。むしろ、納税額が増えることのほうが圧倒的に多いです。
当法人が作成したシミュレーションデータからも、その事実は明らかです。
この試算は、医療法人が単体で年間利益3,500万円を上げている状態から、MS法人に年間利益1,500万円を移転させた場合の納税額を比較したものです。医療法人では事業税の軽減規定があること、MS法人には消費税が課税されることなどを加味しています。
具体的な試算例として、医療法人とMS法人を設立したグループ全体の納税額は、医療法人単体の場合と比べて年間約286万円も増加するという試算結果が出ています 。
この巨額な増税の主な原因は、消費税の増加と法人事業税などの増加です。医療法人単体の場合は消費税の納税額が75万円で済んでいたのに対し、MS法人を設立するとグループ全体で消費税が325万円になり、消費税の負担が約250万円も増加してしまうことがわかります 。

この増税の主な原因は、消費税の増加と事業税の増加の二点にあります。
医療法人が持つ事業税の軽減規定がMS法人には適用されないこと、さらにMS法人には消費税が課税されるためです(医療法人の自費診療割合が極めて高い場合やMS法人が免税事業者である場合を除きます)。
多くの医療法人がMS法人を作っているのはなぜですか?
MS法人を作る最大の目的は、税金が増えるデメリットを上回る事業上・相続上のメリットを得るためです。
医療法人ではできない事業ができる: 役員社宅の取得、不動産賃貸、株式売買など、医療法人の枠外の事業を行うことで、資産の保全やリスク分散が可能です。
業務・所得分散: 経理事務や受付業務などの周辺業務をMS法人に委託することで、医療法人は診療に集中できます。
相続対策: MS法人は株式会社ですので、ホールディングス化や事業承継税制などといった相続対策がしやすくなるというメリットもあります。
まとめ
今回の麻生美容クリニック62億円申告漏れの事例は、MS法人を活用する全ての医療法人が直面する税務リスクの典型例として、非常に参考になる情報を提供しています。
追徴課税12億円という結果は、所得隠しによる重いペナルティだけでなく、関連会社との取引価格の妥当性が欠けていたことで過少申告加算税が課されることを証明しました。
MS法人活用は、医療法人ではできない事業ができたり、相続対策がしやすいといった大きなメリットがある一方で、取引価格の不適正や消費税負担の増加といった多くの「落とし穴」が存在します。リスクを理解せずに安易に導入すると、かえって税金やコストの負担が増え、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。
MS法人の設立自体を否定するものではありませんが、メリットとデメリットを十分に比較衡量し、ご自身が納得いくまで検討を重ねることが必要です。
MS法人の設立・運営、そして取引価格の適正性といった判断は、一度実行すると修正が非常に難しいものです。私たちのような医療法人専門の税理士にご相談いただくことで、ご自身の状況に合わせた最適なスキームの選択、そして将来の税負担まで見据えた総合的なアドバイスなど、多角的なサポートを受けることができます。
MS法人活用ついて具体的に検討したいとお考えの先生は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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