2026.3.15
医療法人の資産運用は可能?厚労省基準・決議・理事長責任を解説
「医療法人でも、余裕資金をそのまま預金に置いておくだけでよいのだろうか」
「投資信託や保険を、法人名義で活用しても大丈夫なのだろうか」
「資産運用をするなら、理事会や社員総会では何を決めるべきなのだろうか」
医療法人の理事長先生から、このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げますと、医療法人でも資産運用はできます。
ただし、何でも自由に買ってよいわけではありません。厚労省は、現金を「国公債若しくは確実な有価証券」に換えて保管すると示す一方で、「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でない」とも明記しています。つまり、医療法人の資産運用は、投機ではなく、あくまで安全性と説明可能性を重視した資金管理の一環として行うべき、というのが基本です。

本記事では、厚生労働省の資料をもとに、医療法人における資産運用の考え方、投資信託や保険の位置づけ、理事会・社員総会の決議、そして最終的に理事長が負う責任まで整理して解説します。
医療法人でも資産運用はできる。ただし自由な投資ではない
まず押さえたいのは、医療法人の資産運用は一律に禁止されていないという点です。厚労省の「医療法人運営管理指導要綱」では、医療事業の経営上必要な運用財産は適正に管理し、現金は銀行や信託会社への預入れ、信託、または国公債若しくは確実な有価証券に換えて保管するものとされています。
一方で、厚労省は同じ箇所で、売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないと書いています。したがって、ここでいう資産運用は、一般的な個人投資のように値上がり益を狙って積極的に売買することとは違います。医療法人でも資産運用はできるが、投機は避けるべきという理解が正確です。
「確実な有価証券」の考え方|シーガルでは日本国債と同程度の信用力を一つの目安にする
問題は、厚労省がいう「確実な有価証券」が何を指すのかです。
厚労省は、この言葉を使っている一方で、ここに当てはまる商品を細かく列挙してはいません。医療法人会計の資料では、有価証券の例として、「短期間で換金可能な証券投資信託等の有価証券」や、「貸借対照表日から1年以内に満期の到来する債券」が挙げられています。
したがって、医療法人で投資信託や債券を検討する余地はあります。もっとも、商品名だけで判断するのは危険です。大事なのは、換金性、価格変動リスク、元本毀損リスク、保有目的です。厚労省の資料が書いているのは、あくまで「確実な有価証券」です。価格変動が大きく、説明が難しい商品まで広く許容した文脈ではありません。
この点について、シーガルでは一つの実務的な目安として、日本国債と同程度の格付け・信用力があるかどうかを見ます。
参考までに、2026年3月13日時点で確認できる主要格付会社の日本国の長期格付は、JCRがAAA、R&IがAA+、S&PがA+、Moody’sがA1、FitchがAで、いずれも見通しは安定的です。したがって、シーガルでは一つの目安として、各格付会社ベースで日本国と同程度の信用力があるかを確認します。

もちろん、格付けだけで全てが決まるわけではありません。満期までの期間、途中解約時の価格変動、円建てか外貨建てか、流動性が十分か、といった点も合わせて見ます。ただ、少なくとも日本国債と同程度の信用力を一つの基準に置く、という整理は、厚労省の「確実な有価証券」という文言に沿った実務判断として使いやすいと考えています。
投資信託はどこまで検討できるか|S&P500やオルカンは慎重にみる
投資信託については、厚労省の会計資料で「短期間で換金可能な証券投資信託等」という表現が出てくる以上、医療法人で一切触れてはいけない、とは言いにくいです。実務でも、投資信託だから即NGという整理にはなりません。
ただし、どの投資信託でもよいわけではありません。
たとえば、一般の先生方にもなじみがある投資信託として、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)や、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)〈オルカン〉のような商品があります。どちらも知名度は高いですが、株式中心のインデックスファンドです。価格変動を前提にした商品ですので、医療法人の余裕資金を入れる場合には、「確実な有価証券」として説明できるかをかなり慎重に見る必要があります。知名度が高いことと、医療法人で持ちやすいことは、同じではありません。

シーガルの感覚では、S&P500やオルカンのような株式中心の商品は、個人資産であればごく一般的でも、医療法人の資金管理としては慎重に考えるべき対象です。少なくとも、短期売買で回す発想とは相性がよくありませんし、理事会や社員総会で説明するときにも、運用目的と商品性の整合が問われます。医療法人で投資信託を検討するなら、商品名の知名度ではなく、医療法人の財産管理として説明できるかを先に考えるべきです。
保険は「保険」として整理してよい|シーガルでは前向きに考えている
保険については、有価証券の運用と同じ土俵で扱いすぎない方がよいと考えています。
シーガルでは、保険はあくまで保険契約であり、保障機能を持つ商品として整理しています。解約返戻金や、変額保険の特別勘定による増減は、あくまで副次的な効果です。したがって、保険を直ちに「医療法人が禁止される投機的投資」と同じように見る必要はない、というのがシーガルの考え方です。
もちろん、保険であれば何でもよいわけではありません。税務処理、返戻率、解約時期、最終的なキャッシュの残り方まで確認する必要があります。ただ、保険は保険として整理できるため、投資信託や株式の話とは分けて考えた方が実務的です。むしろ、医療法人で資産形成や退職金準備を考える場面では、保険の方が説明しやすいケースもあります。
この点は、以前の記事「医療法人の保険活用|節税しながら投資|返戻率100%未満は注意!」で詳しく解説しています。
医療法人の資産運用では理事会・社員総会の決議が重要
資産運用の話になると、商品選びに意識が向きがちです。
しかし、実務で本当に大事なのは、どういう手続を踏んだかです。
社団医療法人のモデル定款では、資産は社員総会で定めた方法によって理事長が管理するとされ、現金は国公債又は確実な有価証券に換えて保管する建て付けです。さらに、収支予算は理事会及び社員総会の議決を経て定めるとされています。つまり、資産運用を進めるなら、理事長だけで決めるのではなく、理事会・社員総会まで見据えて整理するのが基本です。
また、厚労省の基本通知では、理事会は医療法人の業務執行を決定し、重要な資産の処分及び譲受けのような重要事項は、理事に委任できないとされています。一定額以上の資金を動かす場合や、医療法人の資金管理方針に影響する場合には、理事会での決議を経て、必要に応じて社員総会まで通しておく方が安全です。
議事録には、最低でも次の点は残しておきたいところです。

運用の目的
対象商品
投資金額の上限
選定理由
解約又は見直しの基準
途中で問題が起きた場合の対応方針
管轄官庁から後で確認を受けたときに、なぜその商品を選んだのか、なぜその金額なのかを説明できることが大切です。シーガルでは、指摘を受けたときに反論できるよう、最初から議事録、商品資料、選定理由を揃えておくべきだと考えています。
短期的な売買を頻繁に繰り返すのはおすすめしない
医療法人で資産運用を考えるとき、短期売買を頻繁に繰り返す運用はおすすめしません。
厚労省が「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でない」としている点から見ても、方向性として合いません。
加えて、有価証券の売却損益は、通常「雑益・雑損失」の内訳書に記載しますが、都道府県の事業税申告において、頻繁な短期売買は目につきやすくなる可能性があります。
たとえば、神奈川県の「医療法人等に係る所得金額の計算書 記載の手引」では、申告時の添付書類として、勘定科目内訳明細書のうち、雑益・雑損失等の内訳書の提出を求めています。
したがって、短期的な売買を頻繁に繰り返して売却損益が度々発生すると、県税事務所の目に留まりやすくなる可能性がある、とシーガルでは考えています。
SNS上の「人件費や物価高騰のためならOK」という説明は、厚労省資料には明記されていない
XなどのSNSでは、「人件費や物価高騰に充てるためなら、医療法人でも資産運用できる」という説明を見かけることがあります。
少なくとも私が確認した厚労省の運営管理指導要綱やモデル定款には、そのような文言は見当たりませんでした。厚労省の一次資料として押さえるべきなのは、やはり「国公債若しくは確実な有価証券」と、「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でない」という整理です。
シーガルの判断|医療法人の資産運用は理事長責任のもとでできる
ここまでを踏まえた、税理士法人シーガルとしての結論は明確です。
医療法人でも資産運用はできます。 ただし、厚労省資料、定款、理事会・社員総会の決議、議事録の整備を前提に、理事長の責任のもとで一定範囲で行う、という形で進めるべきです。
理事長は、医療法人を代表し、医療法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有するとされています。また、理事は、法令、定款、社員総会等の決議を遵守し、医療法人のため忠実に職務を行わなければならないとされています。したがって、最終的な判断は、金融機関や営業担当者に任せるものではありません。理事長が責任を持って判断するテーマです。
シーガルでは、資産運用の可否は、単に「買ってよいか」で判断しません。
①私の医療法人では、どの商品なら説明できるか。
②私の医療法人では、どこまでの金額なら妥当か。
③私の医療法人では、理事会や社員総会で何を決めるべきか。
この順番で整理していきます。そのうえで、管轄官庁から指摘を受けたときに説明できるだけの根拠を残しておく、というのがシーガルのスタンスです。
医療法人の資産運用は、顧問レベルで整理した方が安全です
医療法人の資産運用は、単なる商品選びでは終わりません。
医療法、定款、理事会・社員総会、会計、税務、事業税、将来の資金繰りまで一体で見なければ、正しい判断はしにくいテーマです。とくに、保険を使うか、投資信託を使うか、あるいは預金中心で持つかは、法人ごとの状況で答えが変わります。
私たち税理士法人シーガルは、開業医・医療法人専門の税理士法人です。シーガルの税務顧問サービスは医療専門で、代表税理士が直接担当し、医療法人設立、相続、医業承継にも対応しています。資産運用のように、税務だけでなく医療法人特有のルールまで絡む論点は、単発のやり取りより、顧問レベルで継続的に見ていく方が安全です。
税理士法人シーガルの無料の初回面談は、現状整理と顧問契約のご説明の場です。
現在どのようなお悩みがあるか、シーガルで継続的に対応すべきテーマかを確認できます。なお、資料確認を前提とする個別具体的な税務判断は、顧問契約後のサービスとしています。
「私の医療法人では、どこまでなら安全に資産運用できるのか」
「理事会と社員総会では、何を決めるべきか」
「保険と投資信託のどちらが、自院の資金管理に合っているのか」
このようなお悩みがある理事長先生は、自己判断だけで進める前に、一度整理してみてください。
医療法人でも資産運用はできます。
ただし、大切なのは「できるかどうか」だけではありません。
どういう根拠で、どういう手続を踏み、誰の責任で進めるか。
ここまで整理して初めて、医療法人の資産運用は実務として成立すると考えています。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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