2025.12.11
MS法人との取引はNG?認定医療法人の「特別の利益」基準と対策
「医療法ではできない不動産管理や物品販売を行うために、MS法人を設立して運営している」
「認定医療法人に移行したいが、身内の会社(MS法人)との取引があると『特別の利益』とみなされ、認定が下りないのではないか?」
認定医療法人への移行を検討される理事長先生から、このような「MS法人(メディカルサービス法人)との契約関係」に関するご相談を頻繁にいただきます。
結論から申し上げますと、MS法人があること自体は問題ありませんし、認定のために解散する必要もありません。
しかし、そのMS法人との取引価格が相場より著しく高かったり、選定プロセスが不透明(言い値での発注など)だったりする場合、認定要件の一つである「特別の利益供与の禁止」に抵触し、認定が拒否されるリスクがあります。
本記事では、厚生労働省の認定要件に基づき、MS法人とのどのような取引が「特別の利益」=「NG」とみなされるのか、その具体的な判断基準と、申請前に済ませておくべき適正化の対策について解説します。
「うちは大丈夫だろうか?」と不安な先生も、まずはこの基準で現状をチェックしてみてください。

- なぜMS法人が問題になる?「特別の利益供与」の禁止とは
- 認定要件「関係者や営利企業に対し特別の利益を与えないこと」
- つまり「不当な利益移転」はNG
- 【実例で確認】取引別にみる「特別の利益」の境界線
- 1.不動産賃貸(家賃・リース料)
- 2.物品販売・役務提供(業務委託費など)
- 3.資産の売買
- 【Q&A】過去の取引価格も遡って修正が必要?
- 結論、これから適正化すれば間に合います
- タイミングは「申請年度の期首」がベスト
- 認定取得に向けた「取引適正化」3つの対策
- 1. MS法人の解散・事業譲渡(「合併」の代替策)
- 2. 取引価格の適正化(契約の見直し)
- 3. 役員構成の分離(兼務の解消)
- 【事例公開】認定取得のために行った「取引価格適正化」の実例
- 事例1:不動産賃貸料の改定(外部データの活用)
- 事例2:業務委託費の根拠作成(相見積もり+利益計算)
- 制度の全体像や他の選択肢について
- 制度の期限と準備にかかる期間
- 1. 申請期限は令和8年(2026年)12月末まで
- 2. 準備には年単位の時間がかかることも
- 3. 駆け込み申請のリスクと早期着手の重要性
- 円滑な事業(医業)承継を実現するために
- 専門的な判断が求められる複雑な手続き
- 医療特化の強みと、税理士による直接対応
- まずは現状の診断から
なぜMS法人が問題になる?「特別の利益供与」の禁止とは
認定医療法人は、相続税や贈与税の猶予・免除という大きな税制優遇を受けるため、一般の医療法人よりも高い「公益性」が求められます。 そのため、医療法人の利益を特定の個人や企業に不当に流すことを防ぐために、「特別の利益供与の禁止」という厳しい要件が設けられています。
認定要件「関係者や営利企業に対し特別の利益を与えないこと」
法令(医療法施行規則)において、認定医療法人はその運営に関し、役員や社員、そして「当該医療法人の関係者」に対して、特別の利益を与えてはならないと定められています 。
この「関係者」には、役員の親族などが含まれますが、MS法人との関係で特に注意すべきなのは、別の禁止規定です。 それは、「株式会社その他の営利事業を営む者」に対して、寄附や特別の利益を与える行為を行わない、という要件です 。
多くのMS法人は「株式会社」や「有限会社」として運営されています。 つまり、MS法人はこの「営利事業を営む者」に該当するため、医療法人からMS法人に対して不当な利益を与えることは、法令で明確に禁止されているのです
つまり「不当な利益移転」はNG

ここで誤解してはならないのが、MS法人との取引そのものが禁止されているわけではない、という点です。 禁止されているのは、あくまで「特別の利益」を与えることです。
「特別の利益」とは、社会通念上不相当と認められる行為を指します 。 例えば、身内の会社だからといって相場より高い家賃を払ったり、実態のない手数料を払ったりして、医療法人の利益をMS法人に移すような「不当な利益移転」がこれに該当します 。
逆に言えば、第三者と取引する場合と同じ「適正な価格(相場通り)での取引」であり、かつ正当な手続きを経ていれば、MS法人との契約関係があっても何の問題もありません。
【実例で確認】取引別にみる「特別の利益」の境界線
では、具体的にどのような取引が「特別の利益」つまり「アウト」とみなされるのでしょうか。 厚生労働省の通知に基づき、MS法人との間でよく行われる3つの取引について、NGとなる境界線を解説します。
1.不動産賃貸(家賃・リース料)
MS法人が所有する建物を医療法人が借りている、またはその逆のケースです。 ここで判断基準となるのは、近隣の相場と比較して妥当かどうかです。
セーフの基準
近隣の相場と同程度の家賃設定であること。
アウトの基準(特別の利益)
MS法人から、相場よりも「過大な賃貸料」で借り受けている場合です。 例えば、MS法人が銀行へ返すローンの返済額をカバーするために、相場を無視して不当に高い家賃を設定しているようなケースが該当します。 逆に、医療法人の物件をMS法人へ貸す場合に、「無償または著しく低い価額」で貸すことも禁止されています。
2.物品販売・役務提供(業務委託費など)
リネンサプライ、給食、事務代行、医療機器のリースなどの取引です。 ここでは、「金額の妥当性」と、それを担保するための「選定プロセス」の両方が厳しくチェックされます。
セーフの基準
契約金額が少額であるか、あるいは相見積もりや入札など公正な手続きを経ており、結果として取引金額が市場価格(相場)と同程度であること。
アウトの基準(特別の利益)
契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで契約し、かつ相場より高い金額(または不当な条件)で特定の業者(MS法人)に利益を与えていること。 例えば、他社との比較(相見積もり)を一切せず、MS法人の言い値で相場より高い契約を結んでいる場合は、認定要件を満たしません。
3.資産の売買
MS法人から土地や建物を買い取る、あるいは医療法人の財産を売るケースです。
セーフの基準
不動産鑑定士による鑑定評価などに基づき、適正価格で売買されていること。
アウトの基準(特別の利益)
MS法人から、「過大な対価」で財産を譲り受ける(相場より高く買わされる)こと。あるいは、医療法人の事業目的の用に供するとは認められない財産(個人的に利用する別荘や高級車など)をMS法人から取得することです。
【Q&A】過去の取引価格も遡って修正が必要?
「実は今まで、相場よりかなり高い家賃を払っていたのですが……」
「過去の分まで返金しないと、認定は受けられませんか?」
このようなご質問をよくいただきますが、ご安心ください。 認定審査において重要視されるのは、「申請を行う時点(および認定後)」の取引体制です。
結論、これから適正化すれば間に合います
原則として、過去に支払った金額を遡って返金したり、過去の決算を修正したりする必要はありません。 重要なのは、「認定申請を行う年度(およびそれ以降)」において、適正な取引状態になっていることです。
タイミングは「申請年度の期首」がベスト
ただし、申請の直前になって慌てて契約書を変えるよりも、「申請を行う会計年度のスタート(期首)」に合わせて、家賃や委託費を適正価格に改定しておくのが最もスムーズです。
「うちはもう手遅れかも」と自己判断せず、まずは「これからどう是正するか」を前向きに検討しましょう。過去がどうであれ、現在と未来の体制が適正であれば、認定医療法人への道は開かれています。
認定取得に向けた「取引適正化」3つの対策
認定医療法人(または特定医療法人)の認定を目指す際、最大のハードルとなるのが「MS法人(メディカルサービス法人)との取引」です。
行政庁は「不当に利益がMS法人(営利企業)へ流れていないか」を厳しく審査します。取引関係が認定の要件を満たさない場合、以下の3つのアプローチで「取引の適正化」を行う必要があります。
1. MS法人の解散・事業譲渡(「合併」の代替策)
MS法人が不要である、または取引の透明性を証明することが困難な場合、MS法人そのものをなくすことを検討します。 ただし、株式会社と医療法人は法的に「合併」することができません。 そのため、以下の手順で実質的な統合を行います。
事業譲渡:MS法人が保有する資産(不動産、機器など)や事業を、適正な時価で医療法人へ売却(譲渡)する。
解散・清算:資産を失ったMS法人(株式会社)を法的に解散し、清算手続きを行う。 これにより、MS法人との取引自体が消滅するため、認定の阻害要因を根本から解消できます。
2. 取引価格の適正化(契約の見直し)
MS法人を存続させる場合は、取引内容が「社会通念上適正な額(実勢価格)」であることを証明しなければなりません。
賃料:近隣の不動産相場と比較して高すぎないか(不動産鑑定評価などを活用)。
委託費:業務内容に見合った金額か、実態のない業務への支払いはないか。 これらを客観的なデータに基づいて見直し、契約書を巻き直すことで、行政庁への説明能力を高めます。
3. 役員構成の分離(兼務の解消)
取引金額だけでなく、「人と組織の癒着」もチェックされます。 医療法人の理事長がMS法人の代表取締役を兼務している場合などは、「利益相反取引」とみなされやすくなります。
【事例公開】認定取得のために行った「取引価格適正化」の実例
認定医療法人の審査において最も問われるのは「その価格にした根拠(エビデンス)」です。 「昔からこの金額だったから」「何となくこれくらいだと思った」という主観的な理由では、厳格な審査をクリアすることはできません。 私たち税理士法人シーガルが、実際にクライアントの認定申請に向けて行った2つの是正事例をご紹介します。
事例1:不動産賃貸料の改定(外部データの活用)
MS法人が所有する物件をクリニックが借りているケースにおいて、賃料設定は非常にデリケートな問題です。 この事例では、長年改定されていなかった賃料が適正範囲から外れている可能性があったため、以下の2段階のプロセスで客観的な根拠資料を作成しました。
ステップ1:近隣物件の抽出とマッピング
まず、大手不動産ポータルサイト(アットホーム等)を活用し、対象物件の近隣エリアにある「募集中のテナント物件」をリストアップします。 単にリストにするだけでなく、以下のように地図上にプロットすることで、比較対象とした物件が「本当に近隣にあり、比較対象として適切であること(立地条件が近いこと)」を視覚的に証明します。

ステップ2:比較検討書による単価算出
次に、マップで特定した物件の具体的なデータ(賃料、坪数、築年数)を一覧表にまとめます。 以下の資料では、近隣物件の「坪単価」を算出し、その平均値や中央値を割り出しています。これにより、「このエリアの相場は坪あたり〇〇円である」という客観的な事実が確定します。

この事例では、調査の結果、従来の賃料設定が相場と乖離していることが数字で明らかになりました。 最終的に、この資料に基づいて「改定後賃料」を決定し、契約書を再締結しました。こうすることで、行政庁に対しても「身内だから金額を操作したのではなく、市場データに基づいて決定した」と自信を持って主張できるのです。
事例2:業務委託費の根拠作成(相見積もり+利益計算)
「事務代行」や「レセプト請求代行」などの業務委託費は、不動産と違って相場が見えにくく、最も指摘を受けやすい項目です。 そこで私たちは、外部業者からの「相見積もり」に加えて、MS法人側の「利益計算」を行うことで、価格の妥当性を二重に証明しています。
取引ごとのコストと利益を可視化する
MS法人の業務委託費を決める際、単に「月額〇〇万円」と決めるのではなく、「そのサービスを提供するためにかかっている原価」と「適正な利益」を積み上げて計算する必要があります。 私たち税理士法人シーガルでは、以下のような詳細な計算書を作成し、各取引の利益率が適正範囲(社会通念上妥当なライン)に収まっているかを検証しています。

(※本資料に記載されている数値は、すべて解説用のサンプル値です)
この資料のポイント
この表は、MS法人全体の経費を、「受付事務」「レセプト事務」「建物賃貸」というサービスごとに分解して計算したものです。
按分(あんぶん)基準の明確化: 表の中央にある「按分基準」にご注目ください。例えば水道光熱費や地代家賃は「面積割合(2:3:5)」、給与は「業務従事割合」など、明確なルールに基づいて経費を各サービスに振り分けています。
利益率の検証: 経費を積み上げた結果、最終的な「利益率」がいくらになるかを確認します(この表の下部では約28%~40%となっています)。
もしこの利益率が異常に高ければ「医療法人から利益を吸い上げすぎ」となり、逆に赤字であれば「医療法人に利益を付け替えている」となります。 このように「かかったコスト+適正な利益」という論理的な積み上げを行うことで、認定審査に耐えうる強固なエビデンスとなるのです。
制度の全体像や他の選択肢について
本記事では、認定医療法人制度を活用するメリットや、その前提となるMS法人対策について深掘りしました。
制度の全体的な仕組み、移行に向けた具体的なスケジュール、あるいは認定医療法人以外の事業承継方法(M&Aや出資持分譲渡など)を含めた総論については、以下のメイン記事で詳しく解説しています。
全体像を改めて確認したい方や、他の選択肢と比較検討したい方は、あわせてご覧ください。
認定医療法人とは?持分なし移行の仕組みと相続税対策を完全解説

制度の期限と準備にかかる期間

認定医療法人制度を活用して税制優遇措置を受けるためには、法律で定められた期限内に申請を行う必要があります。制度自体が期間限定の特例措置である点に注意が必要です。
1. 申請期限は令和8年(2026年)12月末まで
現在の法律では、認定医療法人の認定を受けるための移行計画の申請期限は、令和8年(2026年)12月31日までとなっています。 過去にも期限の延長が行われてきた経緯があるため、今後も再延長される可能性はゼロではありません。しかし、現時点ではあくまでこの日付がリミットであり、法改正が行われない限り、期限後の申請は認められなくなります。「まだ先の話」と考えず、現行の期限に間に合わせる意識が重要です。
2. 準備には年単位の時間がかかることも
申請期限までまだ余裕があるように見えても、実務上の準備には相当な期間を要します。 特に、前述したMS法人との取引適正化や、出資持分の評価、複数の出資者との合意形成といった課題をクリアするためには、現状分析から対策の実行まで、半年から1年以上の時間がかかるケースが一般的です。 MS法人の解散や事業譲渡を伴う場合は、法務・税務の手続きが複雑になるため、さらに余裕を持ったスケジュールが必要となります。
3. 駆け込み申請のリスクと早期着手の重要性
期限間際になると申請が殺到し、行政庁の事前相談や審査に時間がかかることが予想されます。また、準備不足のまま申請を行うと、要件不備で認定が下りず、再提出等の対応に追われている間に期限が来てしまうリスクもあります。 延長の可能性に期待してギリギリまで待つのではなく、可能な限り早期に専門家へ相談し、余裕を持ったロードマップを作成することが成功の鍵となります。
円滑な事業(医業)承継を実現するために
認定医療法人制度への移行は、単なる書類上の手続きではありません。特にMS法人との取引関係がある場合、税務、法務、そして医療法という複数の視点からの詳細な分析と対策が不可欠です。
専門的な判断が求められる複雑な手続き
これまで解説した通り、MS法人との取引適正化や、場合によっては事業譲渡・解散といったスキームを実行するには、高度な専門知識が求められます。 行政庁の認定基準は厳格であり、安易な自己判断で手続きを進めると、認定が下りないばかりか、税務調査のリスクを高める結果にもなりかねません。
医療特化の強みと、税理士による直接対応
私たち税理士法人シーガルは、医療法人と個人開業医に特化した税理士法人です。 日々の医業経営や医療法特有のルールを深く理解しているからこそ、事業(医業)承継という大きな転換点においても、医院の実情に即した現実的なサポートが可能です。 大手事務所のように担当者が頻繁に変わることなく、経験豊富な代表税理士2名が、最初のご相談から手続き完了まで責任を持って直接対応いたします。
まずは現状の診断から
令和8年12月末という期限は刻一刻と迫っています。 持分あり医療法人の事業承継に不安をお持ちの理事長様は、具体的な対策を決定する前に、まずは私たちにご相談ください。医療経営の専門家として現状を正確に診断し、期限内に認定を取得するための確実なロードマップをご提案いたします。早めの行動が、将来の地域医療と医院の経営を守ることにつながります。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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