2025.8.25
【開業医必見】医師国保と協会けんぽ|メリット・デメリットを徹底比較

クリニックを開業する際、または医療法人を設立する際に、必ず検討しなければならないのが「社会保険」です。
特に、全国の開業医が加入する「医師国保」と、多くの一般企業が加入する「協会けんぽ」は、保険料の計算方法から給付内容、加入対象者まで、その仕組みが大きく異なります。
「どちらを選べばいいのかわからない」
「保険料が安い方が良いのだろうか」
「従業員の採用に影響は出るのか」といった疑問を持つ先生も少なくありません。
この記事では、医師国保と協会けんぽのそれぞれの特徴を、保険料や給付内容、採用活動への影響といった観点から徹底的に比較・解説します。ご自身のクリニックにとって最適な社会保険制度を選択するための判断材料として、ぜひご活用ください。
社会保険の選択は、保険料だけで決まりません。
採用力、人件費、将来の医療法人化まで見据えると、結論が変わることがあります。
「自院ではどこから整理すべきか知りたい」 という先生は、まず医療専門の税務顧問サービスをご覧ください。
- はじめに:なぜ社会保険が採用のカギになるのか
- 求職者が重視する福利厚生
- 医師国保と協会けんぽの大きな違い
- 医師国保とは?特徴とメリット・デメリット
- 医師国保の概要
- 医師国保のメリット
- 医師国保のデメリット
- 協会けんぽとは?特徴とメリット・デメリット
- 協会けんぽの概要
- 協会けんぽのメリット
- 協会けんぽのデメリット
- 【徹底比較】保険料・給付内容・加入対象者の違い
- 保険料(月額)の比較
- 扶養家族がいる場合の比較
- 傷病手当金・出産手当金の比較
- その他給付内容の比較
- クリニック経営者が最適な選択をするためのポイント
- 医療法人化の有無で変わる選択肢
- 従業員構成や給与水準から判断する
- 具体的な比較例:神奈川県医師国保 vs 協会けんぽ(神奈川)
- 求人票に明記することで安心感を与える
- 当面のキャッシュフローと将来のコストを見据える
- まとめ:自院に合った社会保険制度を選び、採用力を高める
- 専門家を選ぶ際のポイント
- 税理士法人シーガルが提供できるサポート内容
はじめに:なぜ社会保険が採用のカギになるのか
求職者が重視する福利厚生
クリニックの採用活動において、給与や勤務条件と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されるのが「福利厚生」です。
特に社会保険は、求職者が長期的なキャリアを考える上で欠かせない要素であり、その内容が応募の決め手となることも少なくありません。求職者は、給与から差し引かれる保険料の負担額だけでなく、病気や出産時にどれだけ手厚いサポートを受けられるかを真剣に検討しています。
医師国保と協会けんぽの大きな違い
医師国保は、医師やその家族、従業員が加入できる制度ですが、保険料は所得に関係なく一律の自治体が多く、給付内容も協会けんぽに比べて限定的です。
一方、協会けんぽは給与額に応じて保険料が計算され、出産手当金や傷病手当金が充実しています。こうした違いは、特に女性スタッフや扶養家族を持つスタッフにとって、入職を決める大きな理由となり得ます。
最適な人材を確保するためには、これら二つの制度の特性を深く理解しておくことが不可欠です。
医師国保とは?特徴とメリット・デメリット
医師国保の概要
医師国保(正式名称:医師国民健康保険組合)は、地域や職種ごとに設立された国民健康保険組合の一つで、医師(歯科医師国保の場合は歯科医師)、またはその家族や従業員が加入できる医療保険制度です。全国に複数の組合が存在し、それぞれ独自のルールを設けています。個人事業主のクリニックや、特定の条件を満たした医療法人に勤務する方が主な加入対象となります。
医師国保のメリット
保険料が所得に左右されないことが多い
多くの医師国保組合では、保険料が所得額ではなく、年齢や家族構成によって計算されるため、所得が上がっても保険料が急激に増えることがありません。特に高所得の先生にとっては、協会けんぽよりも保険料負担を抑えられる大きなメリットとなります。
扶養家族の保険料が安い
妻や子、両親などを扶養に入れる場合でも、被扶養者としての保険料が定額だったり、無料だったりする組合が多く、家族が多いほど保険料の負担が軽減されます。
事業主負担分がない
医師国保は国民健康保険の一種であるため、協会けんぽと異なり、事業主が従業員の保険料を半分負担する必要がありません。クリニックの経営者にとっては、人件費コストを抑える大きなメリットとなります。
医師国保のデメリット
給付内容が限定的
協会けんぽにある「出産手当金」といった、給与の補償にあたる給付制度が基本的にありません。クリニックの従業員は女性の割合が多いため、育児休業中の経済的な保障がないことは、求職者にとって大きな懸念材料となります。
保険料が安くなるとは限らない
組合によっては、所得が低い場合でも一定額の保険料を支払う必要があるため、所得が低い従業員にとっては協会けんぽよりも負担が大きくなる可能性があります。
年金が厚生年金に非加入
医師国保は国民健康保険の一種であり、厚生年金には加入できません。将来の年金額が国民年金のみとなるため、老後の生活資金を別途で準備する必要があります。
協会けんぽとは?特徴とメリット・デメリット
協会けんぽの概要
協会けんぽ(全国健康保険協会)は、中小企業の従業員やその家族が加入する公的な医療保険制度です。全国健康保険協会が運営しており、保険料や給付内容が全国一律で定められている点が特徴です。医療法人や、従業員数が一定数を超える個人クリニックが主な加入対象となります。
協会けんぽのメリット
給付内容が手厚い
出産手当金や傷病手当金など、従業員が病気や怪我、出産で働けない期間に給与の一部が補償される制度が充実しています。これは、特に女性従業員が多いクリニックにとって、安心感を提供し、採用競争力を高める大きなメリットとなります。
保険料が給与額に連動
保険料は給与額(標準報酬月額)と賞与額に応じて決まるため、所得が低い従業員は保険料負担を抑えることができます。
厚生年金に加入できる
協会けんぽは厚生年金とセットで加入するため、将来の年金額が増え、従業員の老後の生活設計にも安心感を与えられます。
協会けんぽのデメリット
事業主負担分が発生する
協会けんぽの保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担するため、クリニック側にも人件費としてコストが発生します。
保険料が所得によって変動する
高所得の従業員の場合、所得が増えるにつれて保険料も増えるため、医師国保に比べて保険料負担が大きくなる可能性があります。
扶養家族の保険料負担
扶養家族が多い場合、被扶養者としての保険料が不要な医師国保と比べて、世帯全体で見た保険料負担が大きくなることがあります。
【徹底比較】保険料・給付内容・加入対象者の違い

ここまで、医師国保と協会けんぽそれぞれの特徴を解説してきましたが、両者の違いをより具体的に理解するために、以下に主要な項目を比較しました。
保険料(月額)の比較
医師国保 | 協会けんぽ | |
|---|---|---|
保険料の計算方法 | 所得に関係なく、年齢や世帯人数などで決まることが多い。 | 給与額(標準報酬月額)と賞与額に応じて決まる。 |
事業主の負担 | なし | あり(従業員と折半して負担) |
扶養家族がいる場合の比較
医師国保 | 協会けんぽ | |
|---|---|---|
扶養家族の保険料 | 扶養の概念がないため、同一世帯の家族もそれぞれが被保険者となり、保険料を支払う。 | 被扶養者の保険料は不要。ただし、保険料は被保険者本人の給与額で決まる。 |
傷病手当金・出産手当金の比較
医師国保 | 協会けんぽ | |
|---|---|---|
傷病手当金 | なし | あり |
出産手当金 | なし | あり |
その他給付内容の比較
医師国保 | 協会けんぽ | |
|---|---|---|
高額療養費制度 | あり | あり |
任意継続 | なし | あり |
健康診断 | 組合によって異なる | 一般検診に加え、特定健診や特定保健指導が利用可能 |
表で違いはわかっても、「自院ではどちらが合うのか決めきれない」 先生は多いと思います。
社会保険の選択は、スタッフ構成、給与水準、採用方針、将来の医療法人化で結論が変わります。
採用と経営の両面から方向性を整理したい方は、無料相談をご利用ください。

クリニック経営者が最適な選択をするためのポイント
医師国保と協会けんぽのどちらを選ぶべきか、正解は一つではありません。クリニックの状況や将来のビジョンに合わせて、以下の3つの視点から総合的に判断することが重要です。
医療法人化の有無で変わる選択肢
個人事業主のクリニックは、従業員5名未満の場合、社会保険の加入が任意となるため、医師国保と協会けんぽのいずれかを選択できます。一方、医療法人は社会保険(協会けんぽ・厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。
しかし、従業員数が5名未満であれば、医療法人化後も医師国保を継続できる場合があります。これは、従業員の社会保障を手厚くする目的があるためです。したがって、将来的に医療法人化を検討している場合は、従業員数も考慮に入れる必要があります。
従業員構成や給与水準から判断する
医師国保と協会けんぽのどちらを選ぶかは、従業員の給与水準や構成によっても判断が異なります。
具体的な比較例:神奈川県医師国保 vs 協会けんぽ(神奈川)
※神奈川県医師国保および協会けんぽの保険料は、2025年4月1日現在の情報に基づいています。
【院長の視点】医師国保の方が保険料が安いケースが多い
医師国保では所得に関わらず、院長(第一種組合員)の保険料は月額48,000円(最高額)です。
一方、協会けんぽの保険料は給与額に連動します。院長の月給が100万円の場合、保険料の総額は月額97,216円となり、事業主であるクリニックと従業員である院長が半分ずつ(それぞれ48,608円)を負担します。
しかし、院長はクリニックの代表者として、事業主負担分と個人負担分の両方を実質的に支払うことになります。この合計額(約97,700円)は医師国保の保険料(48,000円)と比べて大きく、クリニックのキャッシュフローに大きな影響を与えます。
【従業員の視点】協会けんぽの方が手厚い給付を受けられる
保険料と事業主負担
神奈川県医師国保では、従業員(第二種組合員)の保険料は月額14,000円で、全額従業員が負担します。一方、協会けんぽでは、月給25万円の従業員の場合、健康保険料は約24,475円となり、そのうち約12,237円を事業主が負担します。
給付内容
医師国保には、出産手当金や傷病手当金が基本的にありません。多くの女性スタッフにとって、育児休業中の経済的保障がないことは大きな懸念材料となります。
専門学校などでは「医師国保のクリニックは就職先として避けるべき」とアドバイスされることもあり、求職者にとって入職の大きな判断材料となることを理解しておく必要があります。
このように、院長と従業員では、社会保険制度に対するメリット・デメリットが大きく異なります。目先のコストだけでなく、採用競争力という長期的な視点を持って判断することが重要です。
求人票に明記することで安心感を与える
多くの求職者は、福利厚生の中でも特に社会保険を重視します。求人票に単に「社会保険完備」と記載するだけでなく、具体的な健康保険名(例:協会けんぽ)を明記することで、安心して働ける職場であることを効果的にアピールできます。
求人票に社会保険の情報をどのように記載すべきか、具体的な例文や書き方のポイントを知りたい先生は、【例文あり】クリニック求人票の書き方|求職者に響く募集要項作成術をぜひご覧ください。

求人票の書き方だけでなく、社会保険の選び方や給与設計も含めて採用戦略を整理したい方は、無料相談をご利用ください。
当面のキャッシュフローと将来のコストを見据える
医師国保は事業主負担分がないため、人件費コストを抑えられます。これは、開業初期などキャッシュフローが不安定な時期には大きなメリットです。
しかし、将来的に従業員が増えたり、医療法人化したりする際には、協会けんぽへの切り替えに伴うコスト(事業主負担分の発生)を考慮しなければなりません。目先のコストだけでなく、長期的な視点でどちらが経営に安定をもたらすかを慎重に検討しましょう。
社会保険の選択は、今月の保険料だけの話ではありません。
採用、人件費、医療法人化、将来の資金繰りまでまとめて考える方が安全です。
単発ではなく、医院経営全体を継続的に相談したい方は、医療専門の税務顧問サービスをご覧ください。


まとめ:自院に合った社会保険制度を選び、採用力を高める
医師国保と協会けんぽ、それぞれの制度に一長一短があります。重要なのは、「目先のコスト」と「将来の採用力」のバランスをいかに取るかです。
「人」が財産であるクリニック経営において、従業員が安心して働ける環境を整えることは、単なる義務ではなく、クリニックの未来を左右する重要な投資です。しかし、社会保険制度は複雑であり、どちらを選択するかによって、人件費、採用力、従業員の満足度、ひいてはクリニックの将来に大きな影響を与えます。
専門家を選ぶ際のポイント
クリニック経営に関する問題は、社会保険制度だけでなく、採用・育成、労務管理など多岐にわたります。これらを自院だけで解決することは、非常に困難です。社会保険制度は、給与や勤務条件など、採用活動の他の要素とも密接に関わっているため、全体を俯瞰した専門家の知見が不可欠となります。
税理士法人シーガルが提供できるサポート内容
私たち税理士法人シーガルは、開業医・医療法人専門の税理士として、税務顧問業務のほか、医療法人設立、一般社団法人による診療所開設、医院経営に関するご相談なども幅広く対応可能です。
社会保険制度の選択は、従業員のモチベーションや離職率に直接影響します。求人票の書き方や給与設定を含め、最適な採用戦略を具体的に検討したいとお考えの先生は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
クリニックのスタッフ採用・育成・定着について、さらに深く知りたい方は、「【クリニック向け】優秀なスタッフ採用・育成・定着の完全ガイド」をぜひご覧ください。
社会保険の選択は、採用だけでなく、医院経営全体に影響します。
ご状況に近いメニューからお進みください。


この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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