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JOURNAL

2025.8.25

医師国保と協会けんぽを比較|役員・従業員別のメリット・デメリット

クリニックを開業するときや、職員の採用人数が増えたとき、医療法人化を検討するときには、医師国保と協会けんぽのどちらを選ぶべきか悩むことがあります。

「医師国保の方が保険料は安いのか」
「医療法人にしたら協会けんぽへ切り替えなければならないのか」
「医師国保に加入しながら厚生年金に入れるのか」
「理事長と職員で加入する健康保険を分けられるのか」

このようなご相談は少なくありません。

医師国保と協会けんぽを比較するときは、院長本人の保険料だけを見るのでは不十分です。

理事長・役員本人の負担、医療法人の事業主負担、職員とその家族の負担、休業時の給付まで分けて考える必要があります。

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医師国保と協会けんぽの比較で、最初に押さえたい結論

理事長・医師役員は医師国保、従業員は協会けんぽを第一候補として比較

税務・資金繰りの観点からは、社会保険労務士、医師国保組合、年金事務所による加入可否と保険料の確認を前提として、次の組み合わせが比較候補になります。

税務・資金繰りの観点から考えられる比較候補

理事長・医師である役員:医師国保+厚生年金
従業員:協会けんぽ+厚生年金

加入可否と保険料は社労士等への確認が必要ですが、院長・理事長と従業員では、税務・資金繰り上の比較結果が異なることがあります。

この組み合わせを検討する理由は、理事長・医師役員と従業員では、報酬水準や重視する給付が異なるからです。

理事長や医師役員は、一般の職員に比べて役員報酬が高くなる傾向があります。

協会けんぽの健康保険料は、標準報酬月額や標準賞与額に連動するため、役員報酬が高くなるほど、本人負担と法人負担を合わせた健康保険料も大きくなります。

一方、従業員が協会けんぽに加入すると、次のようなメリットがあります。

  • 給与水準に応じて保険料が決まる

  • 要件を満たす家族を扶養に入れられる

  • 傷病手当金を受けられる

  • 出産手当金を受けられる

  • 健康保険料を医院と職員で折半できる

ただし、同じ医療法人内で加入先を分けられるかどうかは、加入する医師国保組合の規約、法人化前の加入状況、健康保険の適用除外承認の可否などによって変わります。

医療法人は原則として健康保険・厚生年金の適用事業所となりますが、医師国保の加入要件を満たし、健康保険の適用除外承認を受ければ、医師国保を継続できる場合があります。

なお、ここでいう「役員は国保」とは、市区町村の国民健康保険に加入するという意味ではありません。

加入要件を満たす医師が、医師国保に加入しながら厚生年金に加入するという意味です。

非医師の役員については、医師国保の組合員資格を満たさないことがあるため、別途確認が必要です。

社会保険の加入可否、健康保険の適用除外承認、実際の保険料額、社会保険手続については、社会保険労務士、医師国保組合、年金事務所へ確認します。

税理士法人シーガルでは、これらの確認結果をもとに、役員報酬、所得税・住民税、法人負担、人件費、法人の資金繰りへの影響を整理します。

医師国保と協会けんぽは、どちらも健康保険の制度

医師国保と協会けんぽは、いずれも病気やけがをしたときの医療費を保障する制度です。

一方、国民年金と厚生年金は、老後の年金や障害年金などを保障する年金制度です。

健康保険と年金は、分けて整理する必要があります。

対象者

健康保険

年金

個人クリニックの院長

医師国保または市区町村国保

原則として国民年金

個人クリニックの職員

医師国保または協会けんぽなど

国民年金または厚生年金

医療法人の理事長・医師役員

協会けんぽ、または適用除外承認を受けた医師国保

原則として厚生年金

医療法人の職員

協会けんぽ、または適用除外承認を受けた医師国保

原則として厚生年金

医師国保と協会けんぽは健康保険、国民年金と厚生年金は年金制度

したがって、一定の要件を満たせば、次の組み合わせも可能です。

  • 健康保険:医師国保

  • 年金:厚生年金

医師国保に加入しているからといって、厚生年金に加入できないわけではありません。

健康保険の適用除外承認を受けることで、医師国保と厚生年金を組み合わせられる場合があります。

個人クリニックと医療法人では加入関係が異なる

医師国保と協会けんぽを比較する前に、クリニックが健康保険・厚生年金の強制適用事業所に該当するかを確認します。

個人クリニックで常時使用する従業員が4人以下の場合

医療を行う個人事業所で、常時使用する従業員が4人以下の場合は、原則として健康保険・厚生年金の強制適用事業所には該当しません。

院長本人は通常、医師国保または市区町村国保と、国民年金に加入します。

職員についても、医師国保などの国民健康保険と国民年金に加入する形が基本です。

ただし、従業員の半数以上の同意を得て任意適用の手続きを行えば、職員について厚生年金を適用することもできます。

医師国保を継続しながら厚生年金に加入する場合には、健康保険の適用除外承認が必要です。

個人クリニックで常時使用する従業員が5人以上の場合

医療を行う個人事業所で、常時使用する従業員が5人以上となった場合、被保険者要件を満たす職員は、原則として健康保険・厚生年金の加入対象になります。

この場合でも、医師国保の加入要件を満たし、健康保険の適用除外承認を受ければ、職員が医師国保と厚生年金を組み合わせることがあります。

一方、個人事業主である院長本人は、自分のクリニックに雇用されているわけではないため、原則として自院の厚生年金には加入しません。

院長本人は、医師国保または市区町村国保と、国民年金を継続する形が基本です。

医療法人の場合

医療法人は、従業員数にかかわらず健康保険・厚生年金の適用事業所です。

役員報酬を受ける理事長や役員、被保険者要件を満たす職員は、原則として健康保険・厚生年金の加入対象になります。

パート職員についても、勤務日数や勤務時間などによって加入対象となることがあります。

ただし、医療法人化前から医師国保に加入している場合など、医師国保組合の加入・継続要件を満たし、健康保険の適用除外承認を受けることで、医療法人化後も医師国保を継続できる場合があります。

「医療法人にしたら必ず全員が協会けんぽになる」とは限りません。

一方で、医療法人を設立した後に、希望すればいつでも医師国保へ変更できるわけでもありません。

法人化前からの加入状況や加入期間が問われる医師国保組合もあるため、法人設立登記の後ではなく、法人化を決める前に確認することが重要です。

個人クリニックの従業員数と医療法人による社会保険の加入関係

シーガルが「理事長・医師役員は医師国保」を検討する理由

役員報酬が高いと、協会けんぽの負担も大きくなる

協会けんぽの健康保険料は、標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を掛けて計算します。

役員報酬が上がれば、一定の上限に達するまで健康保険料も増えます。

しかも、医療法人の場合、保険料は理事長本人と医療法人が原則として半分ずつ負担します。

理事長本人だけを見ると「半分負担」に見えますが、医療法人と理事長を合わせれば、保険料の全額が法人とその役員から流出することになります。

医療法人の資金繰りまで考えると、本人負担分だけでなく、法人負担分を加えた金額で比較しなければなりません。

医師国保は役員報酬に直接連動しない

医師国保の保険料は組合ごとに異なります。

定額制の組合もあれば、年齢、所得区分、家族構成などによって保険料を計算する組合もあります。

神奈川県医師国保の場合、第一種組合員の医療分等は、平等割と前年度の市町村民税課税標準額に応じた応能割で計算します。

ただし、協会けんぽのように、毎月の役員報酬へ一定の料率をそのまま掛ける仕組みではありません。

2026年度の神奈川県医師国保では、第一種組合員の医療分等は月額3万円から4万8,000円です。

これに、40歳以上65歳未満の方は月額7,000円の介護保険料、高校卒業年代以上の方は月額1,000円の子ども・子育て支援保険料が加わります。

そのため、役員報酬が高い理事長・医師役員では、協会けんぽより医師国保の方が、健康保険部分の負担を抑えられる可能性があります。

役員報酬月額100万円で比較すると、どのくらい違うか

2026年度の神奈川県を例に、役員報酬月額100万円の理事長を比較します。

月額報酬100万円の場合、協会けんぽの標準報酬月額は98万円です。

2026年度の協会けんぽ神奈川支部では、健康保険料率が9.92%、子ども・子育て支援金率が0.23%、40歳以上65歳未満の介護保険料率が1.62%です。

いずれも原則として労使折半となります。

家族保険料を考慮せず、神奈川県医師国保の第一種組合員が最高等級に該当するものとして比較すると、次のようになります。

以下は、2026年度の公表された保険料率と保険料表を用いた一般的な説明例です。

実際の加入可否、標準報酬月額、保険料額、家族の取扱いについては、社会保険労務士、医師国保組合、年金事務所へ確認してください。

年齢

協会けんぽの健康保険等の総額

医師国保の保険料

月額差

40歳未満

99,470円

49,000円

50,470円

40歳以上65歳未満

115,346円

56,000円

59,346円

協会けんぽの金額は、理事長本人と医療法人の負担額を合計した金額です。

役員報酬月額100万円の場合の年間差額

40歳未満:年間約60万6,000円
40歳以上65歳未満:年間約71万2,000円

健康保険だけでも、これだけの差が生じる可能性があります。

ただし、医師国保では家族一人ごとに保険料がかかります。

役員報酬月額100万円における協会けんぽと神奈川県医師国保の保険料比較

家族構成によっては差が小さくなるため、理事長本人だけでなく、世帯全体で計算する必要があります。

また、この比較に厚生年金保険料は含めていません。

医療法人の理事長が医師国保を選んだ場合でも、原則として厚生年金には加入します。

したがって、医師国保を選ぶことで下がるのは、主に健康保険料、介護保険料、子ども・子育て支援保険料の部分です。

「医師国保にすれば厚生年金保険料までなくなる」ということではありません。

シーガルが「従業員は協会けんぽ」を検討する理由

理事長や医師役員については医師国保が有利になりやすい一方、従業員については協会けんぽが有利になるケースが多くあります。

給与がそれほど高くなければ、本人負担を抑えやすい

医師国保の従業員保険料は、給与額にかかわらず一定額となる組合が少なくありません。

そのため、給与が比較的低い職員では、医師国保の定額保険料よりも、給与に連動する協会けんぽの本人負担額の方が低くなる場合があります。

たとえば、2026年度の神奈川県で月額給与25万円の職員は、標準報酬月額26万円として計算します。

40歳未満の場合、協会けんぽの健康保険料と子ども・子育て支援金の職員負担は、月額約1万3,195円です。

一方、神奈川県医師国保の第二種組合員は、医療分等2万円と子ども・子育て支援保険料1,000円を合わせて月額2万1,000円です。

以下も、2026年度の公表資料を用いた一般的な説明例です。

40歳未満の職員

職員本人の月額負担

協会けんぽ

約13,195円

神奈川県医師国保

21,000円

差額

約7,805円

40歳以上65歳未満の場合は、次のようになります。

40歳以上65歳未満の職員

職員本人の月額負担

協会けんぽ

約15,301円

神奈川県医師国保

27,000円

差額

約11,699円

月額給与25万円の職員における協会けんぽと神奈川県医師国保の本人負担比較

医師国保には、健康保険料を事業主と職員で半分ずつ負担する法律上の仕組みがありません。

そのため、全額を職員負担とする場合には、職員側の負担感が大きくなることがあります。

医院が福利厚生として医師国保の保険料を補助することもできますが、その場合は医院側にも負担が発生します。

扶養家族がいる職員には協会けんぽが有利になりやすい

協会けんぽでは、収入などの要件を満たす配偶者や子どもを被扶養者にできます。

被扶養者が増えても、その人数に応じて健康保険料が増えるわけではありません。

一方、医師国保には、協会けんぽのような保険料負担のない扶養制度がありません。

配偶者や子どもも家族組合員として加入し、一人ずつ保険料がかかります。

神奈川県医師国保の場合、家族一人につき医療分等が月額1万4,000円です。

高校卒業年代以上であれば子ども・子育て支援保険料が月額500円、40歳以上65歳未満であれば介護保険料が月額6,000円加わります。

そのため、扶養する配偶者や子どもがいる従業員では、協会けんぽの方が負担を抑えやすいといえます。

傷病手当金が手厚い

協会けんぽの被保険者本人が、業務外の病気やけがで働けず、給与の支払いを受けられない場合には、傷病手当金の対象になります。

1日当たりの支給額は、原則として標準報酬月額を基に計算した金額の3分の2です。

支給期間は、支給開始日から通算して最長1年6か月です。

医師国保にも、組合独自の傷病手当金が設けられている場合があります。

神奈川県医師国保では、第一種組合員に月額3万円を最長1年間、第二種組合員に月額1万5,000円を最長6か月支給する制度があります。

ただし、給与に連動する協会けんぽの傷病手当金と比べると、職員の休業中の所得補償としては差が大きくなることがあります。

出産手当金がある

協会けんぽの被保険者本人が出産のために仕事を休み、給与の支払いを受けられない場合には、出産手当金の対象になります。

原則として、出産予定日前42日から出産後56日までが支給対象期間です。

支給額は、原則として標準報酬月額を基に計算した金額の3分の2です。

神奈川県医師国保には出産育児一時金はありますが、休業中の所得を補償する出産手当金はありません。

妊娠・出産を予定する従業員にとって、出産手当金の有無は大きな違いです。

採用時に説明しやすい

協会けんぽと厚生年金の組み合わせは、一般企業でも広く採用されています。

扶養、傷病手当金、出産手当金などの制度も職員に説明しやすいため、採用時の認識違いを防ぎやすくなります。

医師国保が悪い制度ということではありません。

ただし、職員に医師国保へ加入してもらう場合には、次の内容を事前に説明する必要があります。

  • 家族にも一人ずつ保険料がかかること

  • 健康保険料の事業主折半がないこと

  • 傷病手当金の金額と支給期間

  • 出産手当金の有無

  • 自家診療の給付制限

従業員の扶養、傷病手当金、出産手当金における医師国保と協会けんぽの違い

医師国保のメリット・デメリット

ここまでの内容を、医師国保のメリットとデメリットに整理します。

医師国保のメリット

【1.役員報酬にそのまま比例して保険料が増えない】

医師国保は、組合ごとの定額、所得区分、年齢区分などによって保険料を決めます。

協会けんぽのように、毎月の役員報酬に保険料率をそのまま掛ける仕組みではありません。

そのため、役員報酬が高い理事長や医師役員ほど、健康保険料の削減効果が大きくなる可能性があります。

ただし、医師国保も必ず完全な定額とは限りません。

加入する医師国保組合の保険料表を確認する必要があります。

【2.健康保険料の法律上の事業主折半がない】

医師国保には、協会けんぽのような健康保険料の事業主折半義務がありません。

理事長や医師役員が医師国保に加入する場合、医療法人の健康保険料負担を抑えられる可能性があります。

ただし、厚生年金保険料については、医療法人に事業主負担が発生します。

【3.医師向けの独自給付や保健事業がある】

医師国保によっては、独自の傷病手当金、健康診断費用の補助、予防接種の補助などを設けています。

内容は組合ごとに異なるため、実際に加入する医師国保の規約を確認します。

医師国保のデメリット

【1.保険料負担のない扶養制度がない】

配偶者や子どもも家族組合員として加入し、原則として一人ずつ保険料がかかります。

理事長本人は医師国保の方が安くても、家族保険料を含めると協会けんぽとの差が縮まることがあります。

【2.休業時の給付内容が組合ごとに異なる】

傷病手当金や出産手当金の有無、金額、支給期間は、医師国保組合によって異なります。

協会けんぽと比較するときは、保険料だけでなく、休業時に受けられる給付も確認する必要があります。

【3.自家診療の給付制限がある場合がある】

医師国保によっては、自分が所属する医療機関で本人や家族を診療した場合に、保険給付の対象としない自家診療の給付制限があります。

神奈川県医師国保では、組合員や家族が所属する医療機関や同一医療法人の医療機関で受診した場合、原則として保険請求や給付ができません。

【4.加入・継続に要件がある】

医師国保は、希望すれば誰でも加入できる制度ではありません。

医師会への加入、住所地、勤務先、法人化前の加入状況など、組合ごとの要件があります。

また、一度協会けんぽに加入した後は、医師国保へ変更できない場合もあります。

医療法人化や社会保険加入の後から考えるのではなく、その前に確認することが重要です。

協会けんぽのメリット・デメリット

協会けんぽのメリット

【1.従業員の家族や休業時の保障が手厚い】

協会けんぽには、保険料負担のない扶養制度、傷病手当金、出産手当金があります。

特に、扶養家族がいる職員や、病気・けが、妊娠・出産による休業に備えたい職員にとって大きなメリットがあります。

【2.給与が比較的低い職員は本人負担を抑えやすい】

協会けんぽの保険料は給与に連動します。

そのため、給与水準がそれほど高くない職員では、医師国保の定額保険料より本人負担が低くなることがあります。

【3.制度を職員に説明しやすい】

協会けんぽと厚生年金の組み合わせは、一般企業でも広く利用されています。

採用時に制度を説明しやすく、入職後の認識違いを防ぎやすい点もメリットです。

協会けんぽのデメリット

【1.医療法人に事業主負担が発生する】

協会けんぽの健康保険料と厚生年金保険料は、原則として事業主と被保険者が半分ずつ負担します。

職員を採用するときは、給与だけでなく、次の費用を含めて人件費を計算する必要があります。

給与
+健康保険料の事業主負担
+厚生年金保険料の事業主負担
+雇用保険・労災保険
=医院が負担する実質人件費

額面給与だけで人件費予算を組むと、実際の資金流出を過小に見積もることになります。

【2.役員報酬が高いと健康保険料も高くなる】

理事長や医師役員の役員報酬が高くなると、一定の上限に達するまで健康保険料も増えます。

役員報酬は、所得税と住民税だけでなく、法人・個人双方の社会保険料を含めて決める必要があります。

【3.保険料率が年度や都道府県によって変わる】

協会けんぽの健康保険料率は都道府県支部ごとに異なり、毎年度見直されます。

2026年度は子ども・子育て支援金制度も始まっています。

役員報酬や給与を検討するときは、最新年度の保険料率で再計算します。

医師国保と協会けんぽの違いを一覧で比較

比較項目

医師国保

協会けんぽ

保険料の計算

組合ごとの定額、所得区分、年齢区分など

標準報酬月額・標準賞与額に保険料率を掛ける

役員報酬との関係

役員報酬に直接比例しない

役員報酬が上がると一定の上限まで増える

健康保険料の事業主負担

法律上の折半義務なし

原則として事業主と被保険者が折半

家族の加入

家族一人ごとに保険料がかかる

要件を満たす被扶養者に追加保険料なし

傷病手当金

組合ごとに異なる

原則として標準報酬を基に計算した額の3分の2

傷病手当金の期間

組合ごとに異なる

支給開始日から通算して最長1年6か月

出産手当金

組合ごとに異なる。神奈川県医師国保にはない

あり

出産育児一時金

あり

あり

高額療養費

あり

あり

厚生年金との併用

適用除外承認により可能な場合がある

原則として厚生年金にも加入

自家診療

給付制限がある場合がある

通常の健康保険の取扱い

加入条件

医師国保組合ごとに要件がある

健康保険の適用関係により判断

向いている人

報酬が高い理事長・医師役員など

扶養や休業時の給付を重視する従業員など

全員を医師国保にすることが最適とは限らない

医師国保には、医院側に健康保険料の法律上の事業主負担がないというメリットがあります。

そのため、医院経営だけを見れば、職員も医師国保にした方が安く見えることがあります。

しかし、職員側では次のような不利益が生じる可能性があります。

  • 協会けんぽより本人負担が高い

  • 家族一人ごとに保険料がかかる

  • 傷病手当金の給付額や支給期間が限定される

  • 出産手当金がない

  • 健康保険料を医院と折半できない

医院の負担が少ない制度が、職員にとっても有利とは限りません。

採用や定着まで考えるなら、医院側のコストだけでなく、職員の手取りと給付内容も確認する必要があります。

全員を協会けんぽにすることが最適とも限らない

一方で、職員に合わせて理事長や医師役員まで協会けんぽに統一すると、役員報酬が高い場合に健康保険料が大きくなります。

特に、理事長と医療法人を実質的に一つの経済単位として考えると、本人負担分と法人負担分の両方が資金流出になります。

「全員同じ健康保険に入った方が分かりやすい」という理由だけで決めると、年間数十万円以上の差を見落とす可能性があります。

制度上可能であれば、役員と従業員を分けて比較する方が合理的です。

「役員は医師国保、従業員は協会けんぽ」が合わないケース

次のような場合には、この組み合わせを採れない、または有利にならないことがあります。

医師国保の加入・継続要件を満たさない

医師会への加入状況、住所、勤務先、法人化前の加入期間などによって、医師国保を継続できない場合があります。

適用除外承認を受けられない

医療法人の理事長や役員が医師国保を継続するには、原則として健康保険の適用除外承認が必要です。

申請期限を過ぎた場合や、医師国保組合の証明を受けられない場合には、協会けんぽへ加入することになります。

医師ではない役員がいる

医師国保の第一種組合員になれるのは、組合の資格要件を満たす医師です。

配偶者などの非医師を役員にしている場合、その役員が医師国保へ加入できるとは限りません。

理事長の扶養家族が多い

医師国保では、家族一人ごとに保険料がかかります。

理事長本人の保険料は医師国保の方が安くても、家族保険料を含めると協会けんぽの方が有利になることがあります。

医師国保の給付内容では不足する

理事長本人についても、長期休業時の所得補償を重視する場合には、医師国保の傷病手当金だけでは不足することがあります。

その場合は、協会けんぽの給付との比較に加え、民間の所得補償保険なども含めて検討します。

役員は医師国保、従業員は協会けんぽという組み合わせが合わないケース

医療法人化や採用前に確認したいこと

医師国保と協会けんぽの選択は、法人化や採用の後から自由にやり直せるとは限りません。

特に、次のタイミングでは事前確認が必要です。

  • 個人クリニックから医療法人へ移行する

  • 常時使用する従業員が5人以上になる

  • 常勤職員を新たに採用する

  • 勤務時間の長いパート職員を採用する

  • 医師国保から協会けんぽへの切替えを検討する

  • 理事長や医師役員だけ医師国保を継続したい

  • 役員報酬を大幅に変更する

  • 家族を扶養に入れる予定がある

健康保険の適用除外承認申請は、日本年金機構上、原則として事実発生日から14日以内の提出が必要です。

ただし、神奈川県医師国保は、適用日から5日以内に年金事務所へ申請しなければ、適用除外が認められない場合があると案内しています。

法人設立登記や5人目の採用が終わってからではなく、法人化や採用の前から準備し、事実発生後は直ちに申請することが重要です。

役員は医師国保、従業員は協会けんぽという組み合わせが合わないケース

実際の加入可否、適用除外承認、保険料額、社会保険手続については、医師国保組合、年金事務所、社会保険労務士へ確認します。

そのうえで、確認された社会保険料を役員報酬の設計に反映し、所得税・住民税、法人の人件費、法人に残る資金、毎月の資金繰りを税理士と整理するとよいでしょう。

求人票には加入する健康保険を具体的に書く

職員募集の求人票に「社会保険完備」とだけ記載すると、入職後に認識の違いが生じることがあります。

協会けんぽに加入する場合は、次のように具体的に記載します。

  • 協会けんぽ

  • 厚生年金

  • 雇用保険

  • 労災保険

医師国保と厚生年金に加入する場合は、次のように記載します。

  • 医師国民健康保険組合

  • 厚生年金

  • 雇用保険

  • 労災保険

医師国保の場合には、家族保険料、健康保険料の負担方法、傷病手当金、出産手当金などが協会けんぽと異なります。

保険の名称だけでなく、職員本人の負担額や給付内容まで説明しておくと、入職後の認識違いを防げます。

求人票の記載方法については、次の記事でも解説しています。

【例文あり】クリニック求人票の書き方|求職者に響く募集要項作成術

医師国保と協会けんぽに関するよくある質問

医師国保に加入したまま厚生年金に入れますか?

一定の要件を満たし、健康保険の適用除外承認を受ければ、医師国保に加入したまま厚生年金に加入できる場合があります。

医療法人化した場合や、個人クリニックで常時使用する従業員が5人以上となった場合などに利用される加入形態です。

ただし、加入する医師国保組合の要件と申請期限を確認する必要があります。

同じ医療法人で、理事長は医師国保、従業員は協会けんぽにできますか?

できる場合があります。

理事長や医師役員について健康保険の適用除外承認を受け、医師国保と厚生年金に加入し、従業員については協会けんぽと厚生年金に加入する形です。

ただし、医師国保は組合ごとに規約や取扱いが異なります。

同一事業所内での加入関係、法人化前の加入状況、加入期間、非医師役員の取扱いなどを、医師国保組合と年金事務所へ事前に確認します。

医療法人にすると必ず協会けんぽになりますか?

医療法人は健康保険・厚生年金の適用事業所ですが、必ず全員が協会けんぽになるとは限りません。

医師国保の加入・継続要件を満たし、健康保険の適用除外承認を受けることで、健康保険は医師国保、年金は厚生年金という組み合わせにできる場合があります。

ただし、医療法人設立後に新たに自由に医師国保へ加入できるとは限りません。

法人化前からの確認が必要です。

結局、医師国保と協会けんぽのどちらが安いですか?

すべての人に共通する答えはありません。

ただし、シーガルでは、制度上可能であれば、次の組み合わせをまず比較します。

  • 役員報酬が高い理事長・医師役員:医師国保

  • 給与所得者である従業員:協会けんぽ

比較するときは、少なくとも次の金額を分けて計算します。

  • 理事長・医師役員本人の健康保険料

  • 医療法人の健康保険料負担

  • 配偶者や子どもの保険料

  • 職員本人の保険料

  • 職員の家族の保険料

  • 傷病手当金や出産手当金の給付差

  • 厚生年金保険料

  • 社会保険料を支払った後の法人の資金繰り

本人負担だけではなく、法人負担を含めた年間総額で比較することが大切です。

医師国保と協会けんぽは、役員報酬・採用計画と一緒に考える

医師国保と協会けんぽの選択は、健康保険だけで完結する話ではありません。

医療法人の役員報酬を変更すると、次の金額が変わります。

  • 理事長個人の所得税・住民税

  • 協会けんぽの健康保険料

  • 厚生年金保険料

  • 医療法人の社会保険料負担

  • 理事長個人の手取り

  • 医療法人に残る資金

職員を採用するときも、給与額だけではなく、健康保険料と厚生年金保険料の事業主負担を含めて判断する必要があります。

医師国保と協会けんぽを比較するときは、役員報酬、職員給与、採用人数、家族構成、法人の資金繰りを一つの表にまとめると判断しやすくなります。

医師国保と協会けんぽの比較で整理する理事長、法人、家族、従業員の負担額

まとめ

医師国保と協会けんぽには、それぞれメリットとデメリットがあります。

医師国保は、役員報酬に健康保険料が直接連動せず、健康保険料について法律上の事業主折半がない点が特徴です。

一方、協会けんぽには、扶養家族に追加の健康保険料がかからず、傷病手当金や出産手当金が手厚いというメリットがあります。

そのため、税務・資金繰りの観点からは、社労士等による加入可否と保険料の確認を前提として、次の組み合わせが比較候補になります。

  • 理事長・医師役員は医師国保+厚生年金

  • 従業員は協会けんぽ+厚生年金

最終的な加入可否、適用除外承認、保険料額、社会保険手続については、社会保険労務士、医師国保組合、年金事務所への確認が必要です。

役員報酬が高い理事長を協会けんぽにすると、本人負担と法人負担を合わせた健康保険料が大きくなるためです。

一方、従業員については、本人負担、扶養、休業時の給付、採用時の説明のしやすさを考えると、協会けんぽが適しているケースが多くあります。

ただし、医師国保の加入・継続要件や、同一法人内で加入先を分けられるかどうかは、医師国保組合ごとに確認が必要です。

全員を同じ制度に揃えることを先に決めるのではなく、役員と従業員を分け、法人負担と本人負担の年間総額を計算してから判断することが大切です。

医師国保と協会けんぽの選択は、保険料だけでなく、役員報酬、個人の手取り、医療法人の負担、従業員の福利厚生、法人の資金繰りまで含めて考える必要があります。

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この記事の監修者

中込 政博

税理士法人シーガル

代表社員/

税理士・公認会計士

中込 政博

あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

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遠藤 大樹

医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!

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