2025.10.17
非医師運営の医療法人|雇われ理事長への損害賠償と非営利性逸脱の危険
医師の先生方が「経営は専門家や事務長に任せたい」と考えるのは、当然のことです。しかし、外部の非医師や一般事業会社が主導する運営体制の裏には、医療法人の利益を狙った「見えないリスク」が必ず潜んでいます。このリスクは、その法人の経営基盤を揺るがす、極めて重大な問題になりかねません。
私たちは、医療法人の税務・法務に長年携わり、数多くのクリニックを見てきた税理士法人シーガルです。私たちの豊富な知見から見ても、外部の関与が増えることで、法人運営の根幹である非営利性が崩され、最悪の場合、「開設許可の取り消し(法人消滅)」に至る可能性は現実的に存在します。
最も重要な論点は、非医師主導の運営で起きやすい、相場外の取引を通じた不当な利益移転です。これは配当類似行為と見なされる法的リスクがあります。さらに、この体制では、雇われ理事長である医師が、医療行為の全責任に加え、法人倒産時の個人債務を負わされるリスクが集中します。
この記事で、運営体制が抱えるリスク構造を把握し、安定経営のための具体的な対策を見つけてください。
非医師運営の本質:医療法人の利益移転が目的である構造
外部の非医師や一般事業会社が、医療法人の運営に深く関与を提案してくる際、その目的が単なる「経営支援」で終わることは稀です。私たちは、そうした関与の裏には、医療法人が持つ利益を合法的な手法に見せかけて、外部へ移転させるという意図を持つケースがより多いと見ています。
この利益移転の構造こそが、医療法人の非営利性を崩壊させる最大の要因です。
なぜなら、医療法人はその事業の性質上、安定した収益構造を持っています。病気の治療は誰にでも必要なため需要が安定しており、さらに診療報酬という公定価格が適用されるため、一般企業のような激しい価格競争に晒されることがありません。
医療法人の持つ再現性の高い利益を、非医師が実質的に支配する一般事業会社(関連会社)へ移転させる仕組みを構築することに、非医師運営の本質的な狙いがあります。
具体的には、以下のような「高額な取引」が利益移転の温床となります。
高額な賃貸借契約
診療所や病院の建物を、非医師の関連会社から相場を大きく超える賃料で借り上げる。不当なコンサルティングフィー
運営・集患コンサルティングなどの名目で、実態に見合わない高額な報酬を関連会社に支払う。高すぎるリース・売買価格
医療機器のリース契約や、消耗品の売買において、市場価格を無視した価格で関連会社と取引する。

医療法人がこれらの相場外の取引を続けると、本来法人内部に残るべき利益が外部の一般企業へ流出します。そして、この流出行為こそが、次項で解説する「法人消滅リスク」に直結するのです。
法人消滅を招く配当類似行為
前項で解説した相場外の高額取引を通じての利益移転は、単なる「税務上の問題」で終わらず、医療法人にとって最も致命的なリスクに直結します。それが、非営利性の逸脱による「配当類似行為」と見なされることです。
医療法人は、「営利を目的として活動してはならない」という医療法の厳格な規制下にあります。この原則を具体化しているのが医療法第54条です。
(剰余金の配当の禁止) 医療法第54条
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
この規定は、法人の定款にも必ず記載されています。したがって、非医師が関与する関連会社へ市場価格を大きく超える金銭を支払う行為は、実質的に「本来法人に残るべき利益を、第54条および定款に反して間接的な手法で外部へ不当に分配している」と見なされます。これが「配当類似行為」です。
法人消滅の最短ルート(医療法第66条による取消し)
配当類似行為が行政によって確認された場合、これは医療法第54条という法令の規定に違反する重大な行為と判断されます。このとき、都道府県知事は、他の監督手段を経ることなく、最終処分を下す権限を持ちます。
(設立認可の取消) 医療法第66条
都道府県知事は、医療法人が法令の規定に違反し、又は法令の規定に基づく都道府県知事の命令に違反した場合においては、他の方法により監督の目的を達することができないときに限り、設立の認可を取り消すことができる。
配当類似行為は「法令の規定に違反」する行為であり、この第66条による設立認可の取消しが、医療法人格の喪失、すなわち法人消滅という最悪の結末を招く法的根拠となります。

非医師主導の運営体制における相場外取引は、税務調査対策という次元を超え、法人そのものの存続に関わる重大な違法行為であるという認識が不可欠です。
雇われ理事長に集中する「金銭・法務」3つの致命的リスク
これまでのセクションで論じた法人消滅リスク(医療法違反)に加え、非医師主導の運営体制は、法人と医師個人の双方に、取り返しのつかない金銭的・法的な損失を発生させます。
ここでは、非医師の関与によって雇われ理事長に集中する、以下の3つの致命的なリスクを解説します。

【金銭リスク①】不当な利益移転が招く「法人側の二重課税」
非医師が目的とする相場外の高額取引について、税務当局はその超過分を「寄附金」と見なして課税所得に加算する可能性が極めて高くなります。
寄附金と認定されると、その金額は法人の損金(費用)として認められなくなります。結果として、医療法人は利益移転のために不当に高い金額を支払った上に、その不当な支払い分に対して追加で法人税も課されるという、二重の損失(二重課税)を負います。

例えば、適正な費用が70であるべきところ、医療法人が関連会社に90を支払っていたとします(20の超過)。図の右端の通り、この二重課税により、本来30であったはずのグループ全体の課税所得が、この処理によって50へと増加します。この増加した20が二重に課税される部分であり、外部への利益移転を目指したはずの金額まで課税対象になってしまうことを意味します。多額の追徴課税により法人の資金繰りが一気に悪化することを覚悟しなければなりません。
実際に、大手美容クリニックグループが関連会社との不適正な取引を理由に巨額の申告漏れと追徴課税を指摘されています。寄附金課税がもたらす実際のリスクについて、詳しくは「医療法人専門税理士解説|大手麻生美容クリニックG62億円申告漏れ」をご参照ください。
【金銭リスク②】法人倒産時に医師個人が負う「全債務保証」
さらに深刻なのが、医師個人が全財産を失うリスクです。
ここでいう「個人保証」とは、法人が銀行から借りたお金を返せなくなった場合に、その法人に代わって、個人(この場合は医師)が残りの全額を返済する責任を負うことを意味します。
非医師が実質的な運営資金を調達する際、「資金調達の形式的な代表者」として、まず医師個人に金融機関の融資を受けてもらうスキームが使われます。このとき、「一時的に名義を貸してもらうだけだから」「すぐに法人に債務が移行する」といった説明を受けるのが一般的です。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。運営主体が法人化し、代表者が非医師に代わったとしても、金融機関が融資の代表者保証を新しい非医師の代表者に変更することを認めない、あるいは極めて難しいため、元の医師の個人保証(連帯保証)はそのまま残されるケースが非常に多いのです。
この結果、非医師の不適切な運営や利益移転が原因で法人が倒産した場合、法人ではなく、保証人である医師個人に全債務が請求されます。これは、理事長個人の全財産を失い、自己破産を余儀なくされる可能性のある、極めて深刻な金銭的リスクです。
【法務リスク③】管理者・代表者としての「損害賠償責任」
非医師主導の運営体制では、管理者(院長)を兼ねることが多い雇われ理事長に、運営上の法的責任が集中します。
医療行為の全責任:管理者かつ法人代表者である医師に、医療事故や過失が発生した場合の最終責任が集中します。
代表者の賠償責任:不当な利益移転(相場外取引)を理事長が形式的に承認する行為は、「重大な過失」と見なされます。このとき、理事長個人は第三者に対して以下の責任を負います。
医療法第48条
医療法人の評議員又は理事若しくは監事(中略)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
非医師の指示であったとしても、個人的な資産から多額の賠償金を支払う事態に発展するリスクは、得られる役員報酬と比べて桁違いに大きく、責任と報酬のバランスが完全に崩壊しています。
代替案:非医師が医療機関を運営したいなら一般社団法人がおすすめ
これまでのセクションで、非医師主導による医療法人運営が、いかに法人消滅リスクや理事長個人の損害賠償リスクを含んでいるかを見てきました。
しかし、「医師ではないが、医療機関の設立・運営に貢献したい」という意図を持つ方がいることも事実です。そうしたケースで、非営利性と合法性を保ちながら運営を実現するための一つの代替策が、一般社団法人の活用です。
一般社団法人なら非医師が実質的な運営主体になれる
一般社団法人は、医療法人とは異なり、理事長の資格に医師の制限がありません。そのため、非医師が理事長となり、実質的な経営判断や運営を担うことが可能です。
ただし、私たち税理士法人シーガルが一般社団法人の開設をおすすめするのは、以下の関係性が構築できる場合に限ります。
医師と非医師の役割が明確に分離・独立していること。
経営と医療の意思決定において、管理者である医師と代表者である非医師が対等な立場で議論し、物事が進められる関係であること。
運営主体が法人化し、「開設者」(一般社団法人)と「管理者」(医師)が明確に分離されていても、医師が管理者としての権限を十分に発揮できない体制は、健全とは言えません。
一般社団法人でも「配当類似行為」と「個人保証リスク」は伴う
ここで重要なのは、一般社団法人であっても営利を目的としないという原則です。医療機関の運営を行う場合、剰余金分配は禁止されます。
さらに、一般社団法人が金融機関から融資を受ける際にも、代表理事の個人保証が求められるのが一般的です。つまり、個人保証のリスクは医療法人特有のものではなく、一般社団法人を利用したとしても、融資を受ける者が背負うリスクとして常に存在します。
一般社団法人を利用したとしても、関連会社への相場外の高額な支払いを通じた利益移転(配当類似行為)や、個人保証による債務リスクは許されません。「医療法人ではないから何でもできる」という誤った認識は、新たな法人運営リスクを生むことになります。
一般社団法人で診療所を開設する際の詳細な手続きや非営利性の要件、医療法人とのより詳しい比較については、別記事「一般社団法人による診療所・クリニック開設、医療法人との違い」をご参照ください。
まとめ:不当な利益流出を防ぐ体制への移行
この記事を通じて、非医師主導の医療法人運営が、いかに深刻なリスクを抱えているかをご理解いただけたことと思います。相場外の取引を通じた不当な利益移転は、配当類似行為として医療法に違反し、最悪の場合、医療法第66条による設立認可の取消し、すなわち法人消滅という致命的な結果を招きます。
さらに、この体制を受け入れた雇われ理事長(医師)は、医療行為の全責任に加え、法人代表者としての重い損害賠償責任という、個人資産を失いかねないリスクを負うことになります。そのため、私たち税理士法人シーガルは雇われ理事長という体制をオススメしておりません。
法人と先生自身を守るためには、お金の流れを透明にして、不適正な利益の流出を徹底的に防ぐことが何よりも大切です。「自分の医療法人は大丈夫だろう」という甘い考えが、後になって莫大な税金や法律トラブルを招くことになります。
非医師が運営に関与したい場合の代替案として、一般社団法人の活用という選択肢もご紹介しましたが、どちらの法人形態を選ぶにせよ、非営利性の厳守は絶対条件です。
私たち税理士法人シーガルは、病院やクリニック専門の税理士として、こうした利益移転が潜むリスクを熟知しています。手遅れとなり、巨額の追徴課税や法人消滅という最悪の事態になる前に、まずは専門家にご相談ください。私たちは、先生の医療法人の運営体制を健全なものへ移行させ、安定した経営をサポートいたします。
この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
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