2026.5.1
医療法人・開業医とMS法人取引 令和8年改正と価格根拠資料を解説
「MS法人との取引は、今までどおりでも大丈夫なのか」
「管理料や広告費の金額は、どうやって説明すればよいのか」
「税務調査が入ってから資料を作れば足りるのか」
医療法人や開業医の先生から、MS法人との取引について、このような相談を受けることがあります。
背景として押さえたいのが、令和8年度税制改正で創設された「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」です。
今回の改正では、関連者との一定の取引について、契約書や請求書などに、役務の内容や対価の計算明細など、対価算定に必要な事項の記載・記録がなければ、その不足事項を明らかにする書類を取得または作成し、保存することが求められる方向になりました。
しかも、今回の改正は、単に「説明資料があると安心」というレベルの話ではありません。
保存が法令どおりに行われていないことは、青色申告の承認取消事由等になり得るとされています。
結論からいうと、今回の改正を受けて大事なのは、MS法人との取引をやめることではなく、取引実態と価格根拠を先に作って残すことです。
特に、契約書があるだけ、請求書があるだけ、毎月同額で請求しているだけ、という状態では弱いです。これからは、何をやったのか、いくらで計算したのか、第三者に頼む場合と比べておかしくないのかまで、一つずつ説明できるようにしておく必要があります。

関連法人取引の見直しは、税務調査が入ってから資料を作るより、平時に整理した方がはるかに進めやすいです。
「今の管理料や広告費のままでよいか、まず方向性だけ確認したい」という先生は、無料相談をご利用ください。

- 令和8年度税制改正で何が変わったのか
- そもそも「関連者」はどこまで入るのか
- 医療法人とMS法人で、特に見直したい取引
- 何を保存しておけばよいのか
- 1.契約書
- 2.実績資料
- 3.対価の計算明細
- 4.価格の妥当性資料
- 5.社内承認資料
- 価格根拠資料は、どう作ればよいのか
- ステップ1 役務を分解する
- ステップ2 原価を拾う
- ステップ3 適正利益を乗せる
- 上場会社の決算書を価格根拠資料に使ってよいのか
- 利益率だけでなく、賃料や利回りを使う場面もあります
- 税務調査で弱い資料の典型例
- いますぐやるべき実務対応
- よくある質問
- 個人開業医も今回の改正の対象ですか
- MS法人との取引はもう危ないのでしょうか
- 価格根拠資料は毎年作り直す必要がありますか
- まとめ
令和8年度税制改正で何が変わったのか
今回の改正で新しく求められるのは、「関連者との一定の取引について、対価算定の中身が見える書類を残すこと」です。
財務省大綱では、対象となるのは、関連者との特定取引であり、しかも販売費、一般管理費その他の費用の額の基因となるものに限ると整理されています。
税制改正の大綱上、対象として明示されているのは、大きくいうと、
工業所有権、著作権、プログラムなどの譲渡・貸付け
研究開発や広告宣伝等の事業活動
専用資産の使用や維持管理
経営の管理・指導
情報の提供
これらに類する役務の提供
です。
ここで大事なのは、「関連法人取引が全部この新特例の対象になる」とまでは書かれていないことです。
少なくとも大綱ベースでは、対象はかなり具体的に列挙されています。したがって、MS法人との取引があるから一律にアウトという話ではありません。
ただし、医療法人とMS法人の間で実際によくある取引、たとえば広告運用、ブランド使用、システム利用、経営支援、情報提供、本部機能の提供などは、今回の新特例で特に意識すべき領域です。
逆に、物品販売や法人間貸借は、少なくとも財務省大綱で列挙された「特定取引」の中心としては書かれていません。
ただし、ここは誤解しない方がよくて、今回の新特例の中心に書かれていないだけで、価格の妥当性や必要経費性の説明が不要になるわけではありません。
今回の改正は、特に役務提供や無形資産の取引に重点が置かれている、という理解がわかりやすいです。
なお、今回の新特例は、大綱上、「内国法人」を対象にした制度として書かれています。
そのため、医療法人とMS法人の取引は特に意識が必要です。
一方で、個人開業医とMS法人の取引は、この新特例の文言上の直接対象とは整理が異なります。もっとも、個人開業医であっても、必要経費性や対価の妥当性を説明する必要がある点は変わりません。

そもそも「関連者」はどこまで入るのか
今回の大綱は、関連者は移転価格税制における関連者と同様の基準で判定するとしています。
関連者というと、株式を50%超持っている会社だけをイメージしがちです。
しかし、移転価格税制の資料では、直接・間接の持株関係だけでなく、役員の過半数の兼務、事業の相当部分の依存、資金調達の相当部分の依存など、実質的な支配・被支配関係も問題になります。
そのため、名義上は別法人でも、
理事長やその親族がMS法人を保有している
役員や幹部がほぼ重なっている
売上の大半がその医療法人との取引で成り立っている
運転資金を医療法人側に依存している
といった場合は、「うちは別会社だから関係ない」とは即断しない方が安全です。
医療法人とMS法人で、特に見直したい取引
MS法人との取引のうち、今回の改正を踏まえて特に見直したいのは、「役務の中身が見えにくいもの」「価格の算定根拠が外から見えにくいもの」です。
典型例は、次のような取引です。
広告運用、Webマーケティング、SNS運用
ブランド使用料、商標使用料、ノウハウ使用料
グループ共通システムの利用料
本部による経営指導、情報提供、マネジメントフィー
予約センター、コールセンター、カウンセリングセンターの運営費
専用設備や専用資産の利用・維持管理に係る費用
これらは、今回の新特例で列挙されている広告宣伝、専用資産の使用・維持管理、経営の管理・指導、情報提供にかなり近い取引です。
関連記事として、認定医療法人との関係まで含めて、MS法人取引の「特別の利益」リスクを見たい方は、「MS法人との取引はNG?認定医療法人の『特別の利益』基準と対策」もあわせてご覧ください。
また、近時の申告漏れ報道を事例ベースで読みたい方は、
「大手麻生美容クリニックG62億円申告漏れ」も参考になります。
何を保存しておけばよいのか
ここは、契約書と請求書だけでは足りないと考えてください。
今回の改正を踏まえると、最低でも次の5層で資料をそろえると強いです。
1.契約書
まず必要なのは契約書です。
ただし、タイトルだけ立派で、中身が「経営支援業務一式」「広告運用一式」では弱いです。契約書には、少なくとも次の点を落とし込んでおきたいです。
役務の内容
提供の頻度
誰がどこまでやるか
成果物や報告物
対価の計算方法
支払条件
契約期間
見直し時期
2.実績資料
次に必要なのが、本当にその業務をやったことを示す資料です。
たとえば、広告なら媒体別レポート、配信結果、改善提案書。システムならID数、利用ログ、保守対応記録。経営指導なら会議資料、レポート、改善提案、対応履歴です。
税務調査で弱いのは、契約書はあるが、月次の実績が出てこないケースです。
請求書の摘要欄に「業務委託料 300万円」と書いてあるだけでは、かなり説明しづらいです。
3.対価の計算明細
今回の改正で特に重要になるのが、ここです。
いくら請求するのかではなく、どう計算したのかを残す必要があります。
少なくとも、
直接人件費
直接経費
共通費の按分
利益部分
最終金額
まで見える形にしておきたいです。
4.価格の妥当性資料
これが、今回いちばん差がつく部分です。
「うちは昔からこの金額です」では弱いです。
「外部業者に頼んだらいくらか」「類似業者の利益率はどの程度か」「上場会社や外部資料から見て逸脱していないか」といった、外から見た補助線を残しておく必要があります。
5.社内承認資料
最後に、理事会、取締役会、稟議書、見直しメモなどの社内決裁資料です。
税務調査では、契約内容そのものだけでなく、どういう判断でその価格にしたのかも見られます。社内承認資料があると、後から作った説明ではなく、当時の意思決定として整理しやすくなります。

価格根拠資料は、どう作ればよいのか
ここが今回の記事の本題です。
シーガルとしては、価格根拠資料は「一枚で結論がわかる表」と「その裏付け資料」の二段構えで作るのが実務的だと考えています。
おすすめは、次の順番です。
ステップ1 役務を分解する
まず、MS法人がやっている仕事を分解します。
たとえば「経営支援業務 300万円/月」とまとめずに、
採用支援
広告運用
システム保守
コールセンター対応
本部会議運営
経営数値レポート作成
のように、役務を細かく分けます。
ここをまとめたままにすると、後で工数も原価も比較も全部ぶれます。
価格根拠資料は、役務の棚卸しから始まります。
ステップ2 原価を拾う
次に、役務ごとに原価を拾います。
一番基本になるのは、人件費ベースです。
たとえば、
担当者の人件費
法定福利費
外注費
システム利用料
通信費
オフィス費用
共通管理部門費
を、合理的な基準で役務ごとに按分していきます。
このとき大事なのは、按分基準を毎月ぶらさないことです。
工数、件数、広告費、利用ID数、面積、稼働時間など、何を基準に按分したかを先に決めておく方が後で説明しやすいです。
ステップ3 適正利益を乗せる
原価だけでは終わりません。
MS法人は営利法人ですから、通常は一定の利益を見込むのが自然です。問題は、その利益率をどう決めたのかです。
ここで使いやすいのが、次の3つです。
外部業者の見積りや料金表との比較
既存の第三者取引との比較
類似機能を持つ企業の利益率を補助線にする方法
この3つのうち、どれか一つだけでは弱いことがあります。
私たちシーガルとしては、できれば原価積上+第三者比較+利益率の補助線の三点セットにしておく方が安全だと考えています。

「今の管理料や広告費のままでよいか判断したい」
「価格根拠資料をどこまで作ればよいか整理したい」
「第三者見積りだけで足りるのか、利益率資料まで必要か確認したい」
このようなお悩みがある先生や事務長の方は、自己判断だけで資料作成を進める前に、まずはご相談ください。

現在の顧問税理士がいるものの、MS法人取引だけ別の視点でも確認したい方は、
ゆるやかな税理士変更プランもご利用いただけます。

上場会社の決算書を価格根拠資料に使ってよいのか
ここはお客様からよく聞かれます。
結論からいうと、使えます。 ただし、そのまま当てはめるのではなく、補助として使うのが正しいです。
国税庁の移転価格関係の資料では、内部の非関連者間取引がない場合は、外部の非関連者間取引に係る情報源に基づいて検討するとされ、外部情報源については、その種類、内容、得られる情報の精度などを検討するとしています。
また、ローカルファイルの例示では、有価証券報告書、年次報告書、市場分析資料が既存書類の例として挙げられています。
さらに、国税庁の移転価格の参考事例集では、利益指標として売上高営業利益率、総費用営業利益率、営業費用売上総利益率が例示されています。
これは国外関連者取引の資料ですが、国内の関連法人取引で価格根拠資料を作るときにも、補助としてかなり参考になります。
実務上の使い方としては、たとえば次のような流れです。
まず、自院のMS法人が行っている機能を決める
その機能に近い上場会社や公開企業を数社選ぶ
有価証券報告書や年次報告書から、事業内容、売上、営業利益、販管費を確認する
売上高営業利益率や総費用営業利益率を参考値として並べる
自院MS法人の機能やリスクの方が軽いなら低め、重いなら高めという形で調整理由を書く
ここでやってはいけないのは、似ていない会社の利益率を一社だけ持ってきて、その数字をそのまま使うことです。
上場会社の決算書は、あくまで「この水準から大きく外れていないかを見るための外部資料」です。最終的な金額は、原価積上や第三者見積りと合わせて作る方が安全です。
利益率だけでなく、賃料や利回りを使う場面もあります
MS法人との取引が広告や本部機能だけでなく、不動産賃貸や設備提供を含む場合は、利益率だけではなく、賃料相場や利回りの考え方を補助的に使うことがあります。
ここは法律で一本の正解があるというより、何を根拠にその賃料・利用料になったのかを説明できるかが大切です。
実務では、近隣賃料、第三者見積り、鑑定評価、取得価額、固定資産税、修繕費、想定利回りなどを組み合わせて、賃料の帯を作ることが多いです。
関連記事として、設備や内装をMS法人で保有して賃貸する論点を見たい方は、
「個人開業医必見!MS法人で内装・機器を購入し賃貸すると節税に?」も参考になります。
また、法人間貸借がある場合は、今回の新特例の中心論点とは少しズレますが、契約書、元本、利率、期間、返済予定、担保・保証の有無を残しておく方が安全です。
税務調査で弱い資料の典型例

ここまでの話を踏まえると、税務調査で弱いのは次のようなケースです。
契約書が「経営支援一式」で終わっている
請求書が毎月同額で、摘要が「業務委託料」だけ
実績資料がない
誰が何時間やったかがわからない
共通費の按分基準がない
利益率の根拠がない
外部比較資料がない
稟議や理事会資料がない
特に弱いのは、「昔からこの金額」「グループ内だからこの程度」 という説明です。
今回の改正の方向性は、そうした説明だけでは足りず、取引関連書類等に不足があれば補充資料を作って保存することを求めるものです。いままで曖昧でも何となく回っていたものほど、これからは整理が必要になります。
現在の顧問税理士はいるものの、
「この管理料の根拠資料で本当に足りるのか」
「MS法人取引だけ、別の視点でも確認したい」
という先生は、ゆるやかな税理士変更プランもご利用いただけます。

いますぐやるべき実務対応
MS法人との取引がある医療法人は、まず次の順番で見直すと進めやすいです。
取引一覧を作る
その中で、広告、管理指導、システム、ブランド、専用資産利用などを抽出する
契約書と請求書を並べる
月次の実績資料があるか確認する
価格根拠資料があるか確認する
ないものは、過去分も含めて整備方針を決める
今後は毎年見直す運用にする
ここで大切なのは、税務調査が来てから作る前提にしないことです。
価格根拠資料は、後からでも作れないわけではありません。ですが、調査対応で慌てて作る資料は、どうしても「その場しのぎ」に見えやすいです。今後は、契約時、見直し時、年度更新時に残す運用へ変えた方がよいです。
よくある質問
個人開業医も今回の改正の対象ですか
少なくとも財務省大綱では、今回の新特例は内国法人を対象にした制度として書かれています。
したがって、医療法人とMS法人の取引は直接意識すべきですが、個人開業医とMS法人の取引は、この新特例の文言上の直接対象とまでは言いにくいです。もっとも、個人でも必要経費性や価格の妥当性の説明は必要です。実務対応としては、法人に準じた資料整備をおすすめします。
MS法人との取引はもう危ないのでしょうか
いいえ。MS法人との取引自体が禁止されたわけではありません。
危ないのは、取引実態や価格根拠が曖昧なまま、高額な管理料や広告費、ブランド料などを動かしているケースです。ポイントは、やめることではなく、実態と価格を説明できるようにすることです。
価格根拠資料は毎年作り直す必要がありますか
毎年ゼロから作り直す必要はありません。
ただし、人員構成、工数、広告費、利用ID数、賃料相場、第三者見積などが変われば、見直しは必要です。少なくとも、年度ごとに更新日と見直しメモを残す運用にした方が安全です。
まとめ
令和8年度税制改正で創設された「企業グループ間の取引に係る書類保存の特例」は、医療法人とMS法人の取引にとって、かなり重要な改正です。
特に、広告宣伝、経営管理・指導、情報提供、システム利用、ブランド使用のような、役務の中身や価格計算が見えにくい取引は、これまで以上に資料整備が求められます。
今回の改正を受けて一番大事なのは、契約書だけで安心しないことです。
必要なのは、
何をやったか
いくらで計算したか
その価格がなぜ妥当か
を、あとからではなく、平時から説明できるようにしておくことです。
シーガルとしては、価格根拠資料は、
原価積上
第三者比較
上場会社等の外部資料による利益率の補助
の三点セットで作るのが、いちばん実務に乗せやすいと考えています。
「今の管理料や広告費のままでよいか判断したい」
「価格根拠資料をどこまで作るべきか整理したい」
「現在の顧問税理士はいるが、MS法人取引だけ別の視点でも確認したい」
このようなお悩みがある先生や事務長の方は、自己判断だけで進める前に、まずはご相談ください。
関連法人取引の見直しだけでなく、契約書、実績資料、価格根拠資料までまとめて整理したい先生や事務長の方は、ご状況に近いメニューからお進みください。


この記事の監修者

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・公認会計士
中込 政博
あずさ監査法人・辻本郷税理士法人を経て、税理士法人シーガルを設立。税金に関する相談はもちろんのこと、公認会計士ですので、医業経営についてもぜひご相談ください!

税理士法人シーガル
代表社員/
税理士・行政書士
遠藤 大樹
医療特化会計事務所・税理士法人山田&パートナーズを経て、税理士法人シーガルを設立。医師・歯科医師に対する税務顧問の他、相続税申告や相続対策・医業承継もお任せください!
\税理士変更をご検討中の方へ/
ゆるやかな税理士変更プラン
60日の移行期間中は無料!
移行期間中はいつでもキャンセルできますので、現在の税理士との契約継続を選択することも可能です。移行期間終了後に自動で正式契約に切り替わることもありません。


